EPC契約における色々な契約金額の定め方と追加費用の扱い
EPC契約においては、契約金額の定め方について、いくつかの種類があります。
ここでは、EPC契約においてよく採用される契約金額の種類について、初心者にもわかりやすく解説いたします!
契約金額の定め方
私自身は、EPC契約の契約金額として、ほぼ、「ランプサム契約」(lump sum contract)または「固定価格」(fiwed price)と呼ばれている形態のものしか経験したことがありません。
ランプサム契約とは、「一括総額請負契約」といった訳になると思います。
この契約の下では、契約金額として合意された金額で、コントラクターが全ての仕事を行い完成する義務を負います。
この場合、コントラクターは、コストを削減して仕事を完成させることができれば、それだけ多くの利益を生み出すことができます。
一方で、コントラクターによる入札時の見積もりに誤りがあり、その見積金額よりも多い費用が契約締結後に生じた場合でも、その追加でかかった費用はコントラクターが負担しなければならないことになります。
そのため、オーナーは、契約締結時点で、プラント完成にかかる費用を確定させることができるため、オーナーが最も望む形態であると言えます。
「これって、普通の契約じゃないの?」
「これ以外に契約金額の定め方ってあるの?」
そう思われたかたもいらっしゃるかと思います。
あります。
その代表的なものは、「コスト・プラス・フィー契約」(cost plus fee contract)と呼ばれる契約です(詳しい内容と例文はこちらをご参照)。
コスト・プラス・フィー契約
これは、コントラクターが実際に行った作業について生じたコストに加え、オーナーが利益分を支払うことになる契約です。
コントラクターとしては、かかった費用にプラスアルファで対価をもらえるので、コスト・オーバーランになるリスクが少ない契約形態であると言えます。
しかしこの形態だと、コントラクターがコスト削減の努力をしようと思わない可能性があり、請負金額が当初の予想以上に増加してしまいかねません。これはオーナーにしてみると大きなリスクでしょう。
そこで考え出されたのが、「コスト・インセンティブ契約」・「Target Price契約」(例文はこちらを参照)です。
コスト・インセンティブ契約・ターゲットプライス契約
これは、オーナーとコントラクター間で目標コストをあらかじめ合意し、最終的にかかったコストがその目標を下回った場合には、その差額分を、オーナーとコントラクターとで事前に合意した比率で分け合う、というものです。
この方法なら、コストを削減しようという気持ち(インセンティブ)がコントラクター側に生じます。
一方で、この目標コストを超えるコストが生じた場合には、コントラクターとオーナーで負担しあうというものや、コントラクターのみが全額負担するものもあります。
上記の3つ、つまり、「ランプサム契約」、「コスト・プラス契約」、そして「コスト・インセンティブ契約」の中で、最もオーナーに有利なのは「ランプサム契約」、最もコントラクターに有利なのは「コスト・プラス契約」、そしてその中間が、「コスト・インセンティブ契約」ということが一般的には言えると思います。
追加費用の負担
「ランプサム契約」が、コントラクターにとって最も不利な契約ということになりますが、このランプサム契約においても、契約締結後に何があっても、契約金額で定められた以上の金額をオーナーから支払ってもらえないわけではありません。
例えば、オーナーの契約違反が原因でコントラクターに追加費用が生じた、という場合には、その追加費用分の金額はオーナーに支払ってもらうのが公平ですよね。
その他にも、コントラクターに生じた追加費用をオーナーに負担してもらうべき場合というのがあります。
それらについて、EPC契約の中に適切に具体的に定められる必要があります。
その定めがないと、コントラクターがその追加費用分を自分で負担させられることになりかねません。
そのため、契約金額についてもっとも重要なチェックポイントは、「契約金額の増加がなされることになる場合がEPC契約中に適切に明記されているか」という点です。
次回では、コントラクターが追加費用をオーナーに負担してもらうべき場合にはどのような場合があるかついて説明したいと思います。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |