サイトに関する情報は、その正確性に気を付ける!
サイトに関する情報
今回は、「サイトに関する情報」についての注意点について解説します。
「サイトに関する情報」とは、例えば、サイトの土地の状況とか、土地の下に何があるかといった情報です。
私が今まで見てきたEPC契約では、オーナーが一定のサイトの情報を提供する義務を負っているものの、同時にコントラクターが自分でサイトを見に行ってその状況を確認することが求められているものが多いです。
このサイトに関する情報についてまず問題になるのは、コントラクターは、実際に入手していた、または入手できたはずのサイトの情報については、原則として、契約締結後に、「サイトに関する情報で知らないものがあった。よって、契約金額を変更させてほしい」と言えないようになっていることが多いということです。
そのため、サイトには実際に行き、建設する際に追加の作業が必要になるものがないか、契約締結前に自社で十分に確認をすることが実務上必要になるでしょう。
2点目は、オーナーから提供されたサイトに関する情報の正確性です。
普通は、こう考えるのではないでしょうか。
「オーナーがくれた情報なのだから、その正しさを信頼してもよいはずだ。もしも、契約締結後にオーナーがくれた情報に誤りがあったことがわかり、それによって、コントラクターが考えていた工程が変わるとか、追加で作業が必要になって、追加費用が生じるような場合には、オーナーがそれを負担してくれるはず。」
そうですよね。オーナーがくれた情報に誤りがあったら、その責任はオーナーに取ってもらいたい、そう思いますよね。
しかし、実際は、そのような扱いにはなっていないEPC契約があるように思います。
つまり、「オーナーがコントラクターに与えたサイトの情報に誤りがあった場合でも、その誤りについて、オーナーは責任を負わない」といった扱いになっていることが多いと思います。つまり、オーナーはサイトに関する情報を、コントラクターに対して参考情報として提供しているのであって、その情報の正しさはコントラクターで十分に確認するべき、という扱いになっているのです。
よって、納期も延長されないし、追加費用もコントラクターが自分で負担しなければならなくなります。
どうしてこのような扱いになっているのでしょうか?
それは、EPC契約は、とにかく、最初から最後まで、原則としてコントラクターが自己の責任として作業を遂行するべき、という基本思想があるからだと思われます。
コントラクターの取るべき対応
この点、このサイトに関する情報の正しさについて、オーナーに保証してもらう、という交渉をすることもあり得ると思います。そのサイトにプラントを立てたいと考えたのはオーナーですし、海外にいるコントラクターからしてみるとサイトに関する情報にアクセスしやすいのは、どう考えてもオーナーの方です。
しかし、オーナーも素直にこれを認めてくれないかもしれません。オーナーの方が立場が強いことが多いEPC契約の交渉においては、コントラクターがこれをのまざるを得ない状況になることもあると思います。
このため、コントラクターは、次のような対応をとることが必要になるでしょう。
「オーナーがくれたサイトに関する情報を、そのまま鵜呑みにしてはならず、「本当にこの情報は正しいのか?」という観点から、その正しさを確認する必要がある。」
こうなると、「初めからオーナーの情報なんていらないよ」と思われるかもしれませんが、そうとは言えないと私は思います。
というのも、全く何の情報も与えられないのと、その正しさをコントラクター側で確認する必要があるとしても、一応、そのとっかかりとなるような情報を与えられるのとでは、コントラクターの負担は全く違うと思うからです。
それに、オーナーも、あえて虚偽のサイトに関する情報をコントラクターに渡そうと思っているわけではないでしょう。オーナーは、万が一その情報が誤っている場合でも、自分たちは責任を負いたくない、というだけなのです。あえて虚偽の情報をコントラクターに渡して、工程を遅らせることで、オーナーにも何のメリットもないのです。
そのため、オーナーがコントラクターに提供するサイトに関する情報は、基本的には正しいものであるはずです。しかし、オーナーは責任を取りたくないために、正確性までは保証できない、という条文が定められてくることが多いのだと思います。
まとめ
サイトに関する情報については、以下を注意しましょう。
「実際に入手したサイトの情報」のみならず、「入手できたはずの情報」に基づいて契約金額が合意されたという扱いになるので、契約締結前に実際に現地に行ってサイトを調査する必要がある。
オーナーが提供した情報の正確性をオーナーが保証しないという扱いになっている場合がある。その条文を修正できない場合には、オーナーがくれた情報に誤りがあっても、それによる納期の延長も追加費用もコントラクターは得られないので、オーナーが提供した情報の正確性も十分に確認することに努める。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |