EPC案件でLOIが出されときの対応
LOIがEPC案件のオーナーから出された場合、どのように対応すればよいでしょうか?
それは、「もしも、EPC契約の締結に至らなかった場合に備え、LOIに基づいて進めた仕事の対価の支払条件を定めておくこと」です。
実は、LOIの内容というのは、「こうでないといけない!」という決まったものがあるわけではありません。
なので、LOIの内容は、当事者間で自由に定めることができます。
LOIにこれを書いたらLOIでなくなる、ということもありません。
そして、LOIで問題が生じるとすれば、EPC契約が締結されなかった場合なのです。
EPC契約が締結されない結果、LOIに基づいて進めた仕事の対価を得られなくなることがEPCコントラクターにとって絶対に避けたいことなのです。
よって、その場合の対価の支払いを定めておけば、問題は生じないことになります。
では、どのように定めておくべきでしょうか?
例えば、単に、「進めた仕事の対価をオーナーは支払わなければならない」という定めになっている場合も多いと思います。
これでも一見良いように思えます。
しかし、この場合には、EPCコントラクターは、実際にLOIに基づいてした仕事の対価を証明しなければならなくなります。
この証明ができるならこれでもよいかもしれませんが、よりよい方法は、LOIに基づいて行う仕事の内容と対価をLOIに明記してしまうことです。
というのも、LOIを出す時点では、「正式なEPC契約を締結するはずだ」とオーナーも考えているわけです。しかもその契約は比較的短期間内になされるはずだ、と考えられているわけです。
そうであるならば、例えば、いつからいつまでの間に、このLOIに基づいて進める仕事の内容はこれこれで、その対価はいくら、と定めておくこともできるはずです。
この場合、そこに明記されている仕事を終えれば、わざわざEPCコントラクターは、実際にかかった費用の証明なんてしなくても、LOIに明記した金額を支払ってもらうことができます。
そして、「LOIに定めた期限までにEPC契約が締結されない場合には、EPCコントラクターはそれ以上仕事は進めなくてよい」ということも明記しておくとよいでしょう。
すぐに締結されるはず、と思われたEPC契約が、期限までに締結されなかったということは、何か事情が変わったことを意味しているはずです。その場合には、新たなLOIを発効してもらい、そこにはやはり、いつからいつまでに何の仕事をいくらでやるか、という点を明記します。
このようにすれば、結果としてEPC契約が締結されずに終わっても、EPCコントラクターは、自分がLOIに基づいてした仕事の対価をもらえない、ということにもなりにくいと言えます。
ただ、ここで気を付けたいのは、オーナーがEPC契約を締結できずにLOIを発効する理由が、EPCコントラクターに対価として支払うための資金調達が難航しているという場合です。
この場合、LOIにどんなに仕事の範囲と対価を明記しても、最終的にその対価に相当する資金をオーナーが調達できなかった場合には、EPCコントラクターは対価を取っパぐれるリスクが生じます。
そのため、LOIに基づいて行う仕事の範囲は、あまり大きな金額にならないように配慮し、かつ、正式なEPC契約を締結する期限は、できるだけ短くするべきでしょう。
ここまで読んでいただき、おそらく、「LOIについてそこまで気を付けていなかったし、今後もそこまでLOIに明記することなんてできない!」と思われた方もいらっしゃることと思います。
それは、「お客さんであるオーナーがLOIに仕事や対価を明記するのを嫌がるから」とか、「そんな要求をお客さんにしたら、お客さんが怒っちゃうかも」というのが理由なのではないでしょうか?
しかし、よく考えてみていただきたいのは、上記のような事項をEPCコントラクターが要求するのは、別に不公平なことでもなければ、我儘なことでもなく、極々当たり前のことだということです。
「した仕事の対価をもらう」というのは、ビジネスである以上当たり前であり、それを確保するために契約書があるのです。
その契約書を正式に締結する前に仕事を進めて欲しいと望んでいるのはお客さんであるオーナーである以上、「LOIは出したが、まだ正式な契約は締結していないのだから対価を支払う根拠はない」というふざけた主張は絶対に許してはならないですし、立証の観点でEPCコントラクターが不利な立場に置かれることもまた避けるべきです。
しかし、それでも、こんな状況に追い込まれる人もいるかと思います。
それは、例えば、あなたが会社の企業法務の担当者だったとして、営業部門の担当者から、「このLOIでお客さんの仕事を進めていいかな?」と聞かれ、そのLOIを見てみると、単に「もう仕事進めてください」としか書かれていない場合に起きえます。
そこで、あなたは、「いや、このLOIで仕事を進めるのは危険ですよ。もっと仕事の範囲と対価・対価の支払い方法を明記しないと・・・」とアドバイスすると、営業担当の方は態度を豹変させました。
「あ?いっつもこの程度のLOIで仕事進めてんだよ。これで断ったら(または、仕事と対価の明記をお客さんに求めたら)、仕事とれないかもしれねえだろうが!もし失注したら法務(というかお前)のせいだぞ!!」
こんなことを、会社に入ったばかりの新人法務部員が言われたら、泣きそうになってしまいますよね。せっかく会社が負うリスクを真剣に考えてアドバイスしているのに、「失注したらお前のせいだぞ!!」なんて言われたら・・・。
というわけで、次回は、上記のようなことを社内で言われて無理やり「このLOIで問題ありません」と言わされそうになったら、つまり、「法務のお墨付き」をもぎ取られそうになった場合の対処方法を解説したいと思います。
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EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |