コントラクターの義務違反に基づくオーナーによる解除
今回は、コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる解除についてご説明します。
コントラクターは、EPC契約上、様々な義務を負っています。
その義務に違反すれば、契約違反です。
通常、契約違反に陥った場合に、常にオーナーに契約解除権が与えられているわけではないと思います。
些細な契約違反でいちいち契約解除権が生じるというのは、オーナーの意図するところでもないでしょう。
そのため、EPC契約には、契約解除権がオーナーに与えられる場合というのを、なんらかの形で限定していることが多いです。
例えば、単に納期に遅延した場合に契約解除権が生じるのではなく、納期遅延のLDの上限まで到達した場合にのみ、契約解除権が生じる、とか、プラントに発見された欠陥が、そのプラントの本質的な部分についての欠陥であり、その欠陥を修理することができない場合にのみ、契約解除権が生じる、といったようなものです。
契約解除権がオーナーに生じたとしても、オーナーも簡単には契約を解除しようとは思わないはずですが、それでも、契約上、オーナーの契約解除権が与えられるケースはなるべく限定しておいたほうがよいでしょう。契約を解除されることは、コントラクターにとっては、よほどの場合でない限り、絶対に避けたいことのはずだからです。
このコントラクターの債務不履行に基づくオーナーの契約解除の効果はどのようなものでしょうか?
これは、コントラクターにとっては、恐ろしいものであることが多いです。
例えば、
解除までにした仕事は、オーナーにとっては、全て不要なものになるので、サイトに運ばれた機器も含めて、全部コントラクターの費用にて撤収しなければならない。
コントラクターは、解除までにした仕事の対価は一切受け取れない。解除までの間に受け取った金額がある場合には、オーナーに返還しなければならない。
という場合もあります。
これは、コントラクターにとって極めて厳しいものです。
また、次のような場合もあります。
解除までにした仕事はオーナーに引き渡され、オーナーは他の業者を使ってプラントを完成させる。その場合、「コントラクターとの契約金額」と、「コントラクターがした仕事の対価分に他の業者が追加で行った仕事の対価」との差額分は、コントラクターの負担となる。
これは、解除までにした仕事を全部コントラクターが撤去しなければならい場合よりはコントラクターにとってよい条件かもしれません。しかし、他の業者を使って完成させるための金額が莫大なものになる可能性もあります。
少なくとも、コントラクターとしては、解除までにした仕事はオーナーに引き取ってもらい、その対価はもらいたいところです。
しかし、オーナーからしてみると、途中まで作られたプラントを引き渡されても困ることの方が多いと思います。他の業者を使って最後まで完成させることができることは、ほとんどないのではないでしょうか。
そう考えると、コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除の場合には、対価は一切得られない、という扱いになるのも、不公平なことではないようにも思えます。実際、そのようなEPC契約をドラフトするオーナーも、私の経験では多いです。
このことからも、コントラクターは、債務不履行に基づいて解除されることは、絶対に避けたい事態であると言えると思います。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |