納期遅延の場合のコントラクターの責任
納期遅延
決められた納期までにプラントを完成させることができない場合のことを、「納期遅延」と言います。
「納期に遅れた」ということですね。
これは、契約違反です。
これによって、注文者であるオーナーは、何らかの損害を被るでしょう。
よって、この納期遅延が、コントラクターに原因がある場合には、コントラクターは、オーナーが被った損害を賠償しなければならなくなります。
ここで重要なのは、ありとあらゆる納期遅延について、コントラクターが責任を負わなければならないわけではないということです。
簡単に言うと、「コントラクターに原因がないこと」によって工程が遅れた分については、コントラクターは責任を負いません。
EPC契約には、この「コントラクターが責任を問われない工程の遅れとはいかなる場合か?」が明確に定められています。
もしもこれが定められていない契約がオーナーから提示された場合には、「コントラクターが責任を負わなくてよい場合」をEPC契約書に入れるようにオーナーに求めるべきです。
そのためには、「コントラクターが責任を問われない工程の遅れ」に当たる場合を理解しておく必要があります。
コントラクターが責任を問われない工程の遅れ
以下に、主な「コントラクターが責任を問われない工程の遅れ」を列挙します。
・オーナーが仕様変更を求めた場合(Variation)
・プラントを建設するサイトがある国の法律が変更し、それによってコントラクターの仕事の工程に影響が出た場合(Change in Laws)
・不可抗力が生じた場合(Force Majeure)
・オーナーがコントラクターの作業を中断するように求めた場合(Suspension)
・オーナーがその義務を決められた期間までに実施しなかった場合(Owner’s fault)
上記の場合には、「工程が遅れた分だけ、納期の延長がなされなければならない」とEPC契約に明記する必要があります。
この点、このように思う方もいるかと思います。
「上記は、結局、「コントラクターに原因がない場合」だから、単にそのような場合には、納期が延長される、と契約書に定めるだけでよいのでは?」
私も、EPC契約にかかわり始めた当初はそう思いました。
しかし、ENAAやFIDICといったEPC契約のモデルフォームには、必ず、この「納期が延長される場合」が個別具体的に定められているのです。
よって、上記のように個別具体的に列挙するのが無難だと思います。そして、その上で、「その他、コントラクターの責めに帰さない事由で工程が遅延した場合」といったような条文を定めておくとなおよいと思います。
FIDICとENAAの該当条文
ちなみに、「コントラクターが責任を問われない工程の遅れ」については、FIDICのシルバーブックでは8.4(Extension of Time for Completion)で、ENAA2010ではGC40(Extension of Time for Completion)に定められていますので、具体的な条文はそちらを参考にしてみてください。
次回は、納期に遅れた場合の損害賠償責任について解説したいと思います。
納期遅延について関心がある方はこちらの記事がお勧めです。
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納期遅延の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |