プロジェクトファイナンス②
海外のある国に、火力発電所を建設し、その発電所を運転して電気を売ることで一儲けしたい!と考えている企業Aがあったとする。
この企業Aが火力発電所を所有して運転するための会社Bを設立した。つまり、会社Bは企業Aの子会社というわけだ。
そして、この会社Bは、火力発電所を建設することができるEPCメーカーC社との間でEPC契約を締結したと仮定しよう。EPCメーカーC社がEPC契約に従って火力発電所を建設して会社Bに納入すれば、会社Bはその火力発電所を運転することができる。
そして運転から得られた電気を売れば、電気料金を得ることができる。
会社Bの親会社である企業Aは、会社Bが得た電気料金を配当という形で得ることができて、当初の目標達成!というわけだ。これを図にすると、下のようになるよ
確かに、今私が関わっている案件はこのようなスキームです。ちょうど、上の図のEPCメーカーC社の位置にうちの会社が当たります。
会社Bが銀行から融資を受けてEPCメーカーC社に払った分を、会社Bはどうやって銀行に返すのですか?
ただ一つ言えるのは、「ある特定のプロジェクトを遂行するための融資である点やそのプロジェクトの運営から得られたお金で返済するという点がプロジェクトファイナンスの決定的な特徴ではない」ということだ。
例えば、企業Aが銀行に対して保証を提供する融資でも、ある特定のプロジェクトを遂行するための融資やそのプロジェクトの運営から得たお金で返済するという融資はあるわけだ。だから、プロジェクトファイナンスの最大の特徴はあくまで、「保証を出さずに(または限定的な保証で)融資を受ける」点にある、ということに注意してね
どうして銀行は、保証を取らずに、または限定的な保証しかとらずに、会社Bに対して融資をすることができるんですか?会社Bなんて、大した資産を持っているわけでもないんですよね?
もしもEPCメーカーC社によって火力発電所の建設がうまくいかなかったら、銀行は貸したお金を返してもらえなくなるんじゃないですか?
銀行にとって最大の関心事は、なんといっても確実に返済してもらうことなんだ。返済してもらうためには、プロジェクトそのものが成功しないといけないよね。だから、保証なし、または限定的な保証で融資をするには、「失敗しないだろう」と思えるプロジェクトの場合に絞る、というようにしているんだよ。
そして、プロジェクトファイナンスの融資をすると決める前には、そのプロジェクトが確実に成功するかどうかを銀行は十分に検討・確認をするんだ。
実績のあるEPCメーカーが建設するのか?とか、タービンメーカーやボイラーメーカーはどこなのか?そして、会社BとEPCメーカーC社間で締結されるEPC契約の中身もチェックするんだよ。
さらに、発電所建設プロジェクトの場合、「買電契約が締結されている」という点がプロジェクトファイナンスを受けられるかどうかにおいてとても重要な点なんだよ
そのため、ある一定の電気を発電することができれば、会社Bはその契約書に定められている金額を電力庁から得ることができるんだよ。これなら、銀行からしてみると、将来の返済を受けられるかどうかの目処が立てやすいよね。この買電契約があることが、発電所建設案件でプロジェクトファイナンスを使用できるかどうかの判断ではとても重要になるんだよ
銀行にとってのメリット
確かにリスクを抑えられるといっても、ゼロにはならないですよね。普通に会社Bの親会社である企業Aから返済についての保証をもらったほうが、リスクがなくて、銀行にとってはより安全だと思うのですが・・・
借り手のメリット
それに、プロジェクトファイナンスでの融資が許されるような案件は、銀行が「成功する可能性がかなり高い」と考えるような案件なのですから、企業Aが銀行に保証を出して普通の融資を受けることにしたほうが、企業Aは電気料金から返済に回す金額がその分減り、結果としてより多くの配当を会社Bから受けることができて、より良いのではないでしょうか?
実はね、企業Aにとって、プロジェクトファイナンスを選んだ方が、「より多くの金額」を、「より長期間」で借りられる、というメリットがあるんだよ
火力発電所のプロジェクトファイナンスでは、返済期間が10年を超えるということもよくあるんだよ。普通の融資で10年を超えるようなものはそうそうなくて、こんなに長期間の融資は、プロジェクトファイナンスならではなんだよ
なぜなら、将来、もしもそのプロジェクトが失敗したら、企業Aは返済義務を果たさないといけなくなるんだから。
企業Aの信用格付けが低くなると、他の案件のために銀行から融資を受ける際に、断られたり、利子が高く設定されたりといったことにもなりえるんだ
一方、企業Aからしてみると、より多額の、かつ長期の金額の融資を受けることができ、それが保証無し、あるいは限定的な保証で足りるため、自社の信用格付けの評価上もマイナスの評価とならないというメリットがある、ということですね。
まさにwin-winの関係という感じがしますね!
「プロジェクトファイナンスとは、企業があるプロジェクトにおける資金調達を行う際に、プロジェクト自体から生じる収益や事業の持つ資産を返済原資とし、事業を行う企業やスポンサーが銀行への債務保証をしない、あるいは債務保証が限定されている資金調達の方法」
EPCコントラクターとの関係
一つは、EPC契約の発効条件に関して、もう一つは、納期遅延LDに関してだよ
・プロジェクトファイナンスの特徴
返済の保証をしないノン・リコースまたはそれが限定的なリミテッド・リコースの融資であること。
返済原資はプロジェクト遂行によって得られる収益やプロジェクトが保有する資産であること
・貸主である銀行のメリット
通常の融資よりも金利を高く設定できる
・借主のメリット
通常の融資よりも多額の資金を長期間にわたって借りることができる
信用格付けの評価の際に、債務保証をしていると評価されない
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から4度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
・もちろん、解説もこのブログの記事よりも詳しい!
・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |