EPC契約におけるプラントの試験②
試験に関する説明の続きです。
4.追加試験の扱い
コントラクターがいかなる試験を行わなければならないかは、EPC契約に定められています。
ここで、オーナーは、EPC契約に定められている試験以外の試験を追加で行うようにコントラクターに対して求めることができます。
オーナーはどんなときに追加試験を求めるのでしょうか?
それは、EPC契約に定められている試験には合格しているものの、オーナーとしては若干不安を感じている機器やシステムがプラントの中にある場合です。
「もっとこの点を確認したい」
オーナーがそう考えたときに、オーナーはコントラクターに、追加の試験を求めるのです。
ここで問題になるのは、この追加の試験を行う際に生じる費用は誰が負担するのか?追加試験にかかる期間分だけ納期は延長されるのか?です。
この点、オーナーが追加の試験を求めるわけですから、それはオーナーが負担するべき、とも思えます。
しかし、もしも、追加の試験を行った結果、プラントに不備が発見された場合には、オーナーの懸念が正しかった、つまり、コントラクターの契約履行に問題があったということになりますよね。
この場合には、コントラクターが追加費用を負担し、かつ、納期の延長も認められないとされるのが公平でしょう。
したがって、追加試験の場合には、プラントに不備が発見された場合には、追加費用はコントラクターが負担、納期も延長されない。一方、追加試験をしても何も問題が発見されなかった場合には、オーナーが追加費用を負担し、納期も延長されることになります。
この追加試験の費用負担と納期延長の定めがあるか否かをチェックし、もしもなければ明記しましょう。
5.試験が予定のスケジュールよりも遅れた場合
EPC契約では、試験のスケジュールも当事者間で合意されます。
決して、行き当たりばったりで試験がなされるわけではないのです。
そして、試験が、EPC契約に定められたそのスケジュール通りに行われないことがあります。
その原因は、大きくは以下の二つが考えられます。
(1) コントラクターの原因
(2) オーナーの原因
試験は、主にコントラクターの仕事であるはずです。
しかし、オーナーも試験に関して求められる作業がEPC契約上に定められています。
そのオーナーの役割を、決められた期間内に行わない場合には、試験のスケジュールが遅れていきます。
そして上記のうち、スケジュールに遅れたことによってコントラクターに生じる追加費用をオーナーが負担しなければならないのは、もちろん、(2)オーナーの原因の場合です。
この場合には、追加費用にあわせて、納期の延長も請求できるとするのが公平ですので、そのようにEPC契約で定められているか確認しましょう。
6.minor itemの扱い
minor itemとは聞きなれない。
こう思われた人もいるのではないでしょうか?
minor itemとは、「さほど重大な問題では不備・欠陥」を意味します。
これが試験とどのような関係を持つのでしょうか?
実は、試験を実施すると、商業運転に影響はないが、しかし仕様には合致していない、という事項が発見されることがあります。
このような場合に、「とにかく仕様に合致していない以上、試験に合格したとはいえない」という考え方もあるでしょう。
しかし、それは果たして、誰の利益になるのでしょうか?
試験に合格しない以上、検収はなされず、商業運転を開始できないのが原則です。
しかし、商業運転には影響がないような些末な不備・欠陥についても完璧にならない限り試験に合格したとはしない、としていたら、minor itemが完璧に直されるまでの間、オーナーはプラントを運転することで得られる利益を得られません。
いくら納期遅延の損害賠償をコントラクターから得られるとしても、それにも上限がありますし、何より、そのような扱いはあまりにも形式的に過ぎます。
そこで、minor itemについては、商業運転をしながらでも直せばよいとして、試験に合格したことにする、と扱うのです。
全てのEPC契約にこの点が明記されているわけではありませんので、定められていなければ、明記するようにしたほうがよいでしょう。
ここで、minor itemの定義の仕方が問題になると思います。
ポイントは、オーナーとしての最大の懸念である、「運転には影響を及ぼさない仕様との不一致」という点です。これをminor itemの定義の中に入れれば、オーナーも断る理由はないでしょう。
また、そのminor itemを改善するための期限も明記すれば、オーナーもいつまでも放置されることがなくなり、安心すると思います。
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EPC契約のポイントの目次
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |