私がEPC契約で真っ先に確認する点③
コントラクターが追加費用を請求できる場合
今回は、オーナーの資金面は問題なく手当てできたことを前提に、引き続き、「契約締結時に予定していた利益を適切に得られるようにするための注意点」についてお話ししたいと思います。
EPC契約における契約金額の定め方として、オーナーが最も好むのは、「lump sum契約」です。
これは、プラントの設計から建設完了までの全てのコントラクターの仕事に対して一括して契約金額を決める方法です。
この場合、原則として、オーナーは一度合意された契約金額以上の金額をコントラクターに支払う義務はありません。
もっとも、どんな場合でも、「契約金額が変更されない」、というわけではありません。
ある条件が満たされた場合には、コントラクターはオーナーから追加費用を支払ってもらうことができるようにEPC契約上の手当てをするべきです。
ここで、EPC契約をチェックする際には、「追加費用をオーナーに負担してもらうべき場合はこういう場合である」とあらかじめ知っておく必要があります。それを知らないと、オーナーがドラフトしたEPC契約中にコントラクターが追加費用を支払ってもらうべき場合が適切に定められているかのかいないのか、何を追記するべきなのかもわからないからです。
以下に、コントラクターが追加費用を負担してもらうべき主な場合を列挙します。
・オーナーが仕様変更を求めた場合
・法令変更があった場合
・税金の変更があった場合
・予見不能な出来事が起きた場合
・不可抗力が起きた場合(ケースによる。詳しくは「EPC契約のポイント」の不可抗力の記事を参照)
・オーナー都合の作業中断権が行使された場合
・オーナーのEPC契約違反があった場合(サイトの占有権の取得、サイトへのアクセス権の取得、その他必要な許認可の取得等に遅延があった場合)
追加費用を請求するための手続き
この追加費用の請求について特に気を付けていただきたいのが、「手続き」です。
通常、オーナーからドラフトされてくるEPC契約書には、以下のような条文があるのが一般的です。
「コントラクターは、追加費用を請求できると考える事象が生じてから○日以内にオーナーに対して書面でその事象と追加費用金額について通知しない場合には、その請求権を失うものとする」
つまり、何らの手続きもせずに黙っていると、コントラクターは追加費用を得ることはできなくなりえるのです。
とはいえ、上記のような条文を削除してもらうのは、オーナーによっては難しいかもしれません。せいぜい、通知をするための猶予期間を延ばすという修正はできるかもしれません。
この「オーナーに対する通知」を行うのは、現場で作業を監督するプロジェクトマネージャーの方になることが多いのではないでしょうか。その方がEPC契約の本文に定められているこの条文をしっかりと読んで覚えていないと、うっかりこの通知をオーナーに出すことを忘れてしまうかもしれませんので、社内でのプロジェクトマネージャーの方への教育で対応する必要があると思います。
この追加費用の支払いによる契約金額の変更をコントラクターが受けられないようだと、コントラクターのコストが膨らみ、コントラクターが期待していた利益を得られなくなることになるので、①いかなる場合に追加費用を得られるか、②どのような手続きを経なければならないか、を十分に理解し、必要に応じてEPC契約を修正していただければと思います。
これでEPC契約をチェックする優先順位がわかる!
この記事をご覧になった方は、以下もお勧めです。
「EPCコントラクターからみたプロジェクトファイナンス」
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EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |