責任制限条項(Limitation of Liability)とは?
責任制限とは?
EPC契約には、責任制限条項というものが定められているのが一般的です。
これは、文字通り、責任を制限する条文をいいます。
主には、コントラクターの責任を制限するためのものです。
英語では、limitation of liabilityとか、その頭文字をとってつなげて、LOLと言ったりします。
この責任制限条項は、2つあります。
1つは、コントラクターのオーナーに対する責任をある一定金額まで、と定めるものです。これは、責任上限と言われています。
もう一つは、プラントにある欠陥が原因でオーナーに生じた逸失利益については、コントラクターは責任を取らなくてもよい、と定めるものです。これは、逸失利益の免責と言われています。ちなみに、逸失利益は、英語では、loss of profitと言います。
責任制限条項が認められている背景
ここで、一つ考えていただきたいのは、なぜ、このようなコントラクターの責任を制限する条文がEPC契約に定められているのが通常なのか?という点です。
例えば、日本の民法によれば、コントラクターは、自分のせいでオーナーに生じた損害は、例えその金額がいくらになろうとも、その損害が逸失利益であろうとも、一定の条件を満たす限り、賠償しなければならないことになっています。
これは、感覚的にも理解できるのではないでしょうか。
損害を生じさせたものが、その生じた損害について全て賠償する。
この、法的にも、感覚的にもしっくりくる損害賠償について、EPC契約では、コントラクターの責任が制限されているのはなぜなのでしょう?
その理由は、プラントに問題が生じてオーナーに生じた損害を全部コントラクターに賠償させた場合、コントラクターが倒産してしまうかもしれないことが考えられます。
EPC契約は、契約金額が莫大なものが多いです。数十億レベルの案件は普通にあります。数百億、さらには数千億もする案件もあります。
そのため、コントラクターが何か契約に違反した場合にコントラクターが負う責任も大きくなる傾向があります。
それらを上限なく賠償させられることになったら、コントラクターの経営は非常に厳しいものになるでしょう。
また、建設されたプラントに欠陥が発見され、プラントの運転を止めて修理する必要がある場合に、その間に本来得られたであろう利益、つまり逸失利益分もコントラクターが全額賠償しなければならないことになったら、コントラクターは相当な打撃を受けるでしょう。
そのようなリスクがあるEPC契約を結ぼうとするコントラクターはいなくなってしまう可能性もあります。
「それなら、他の事業をした方が安全」
このようにコントラクターが考えてしまい、プラント建設業界から撤退してしまったら、世の中にプラントを作るものがいなくなってしまいます。
これはオーナーとしては非常に困るわけです。
そのため、どこかでコントラクターの責任に制限を加えたり、免責したりすることで、コントラクターのリスクをある程度緩和し、コントラクターが対応できるようにする。
おそらく、このような考えから、EPC契約においては、民法の損害賠償の原則を変更するもの、つまり、責任上限と逸失利益等の免責が定められるのが一般的になったのだろうと思われます。
責任上限の相場
上限金額をいくらにするのが通常なのかは、その業界によって異なります。
事前に自社の属する業界の相場を把握しておくと、オーナーとの協議の際に役に立つと思います。
この点、私の経験では、水力発電所や火力発電所の建設のEPC契約では、責任上限は契約金額の100%とされているものが通常だと思います。
契約金額が数千億円レベルの案件になると、契約金額の100%を負担するのは企業にとっては大変なことなので、契約金額の50%とか、25%という値を上限とすることもあると思います。
FIDICとENAAの該当条文(2016年11月16日追記)
FIDICシルバーブックとENAAにも責任上限の条文はあります。
FIDICシルバーブックでは、17.6(Limitation of Liability)で、ENAA2010では、GC 30.2に定められていますので、ご参考ください。
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
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