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責任制限条項(Limitation of Liability)とは?

2024/02/22
 

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責任制限とは?

 

EPC契約には、責任制限条項というものが定められているのが一般的です。

 

これは、文字通り、責任を制限する条文をいいます。

 

主には、コントラクターの責任を制限するためのものです。

 

英語では、limitation of liabilityとか、その頭文字をとってつなげて、LOLと言ったりします。

 

この責任制限条項は、2つあります。

 

1つは、コントラクターのオーナーに対する責任をある一定金額まで、と定めるものです。これは、責任上限と言われています。

 

もう一つは、プラントにある欠陥が原因でオーナーに生じた逸失利益については、コントラクターは責任を取らなくてもよい、と定めるものです。これは、逸失利益の免責と言われています。ちなみに、逸失利益は、英語では、loss of profitと言います。

 

 

責任制限条項が認められている背景

 

ここで、一つ考えていただきたいのは、なぜ、このようなコントラクターの責任を制限する条文がEPC契約に定められているのが通常なのか?という点です。

 

例えば、日本の民法によれば、コントラクターは、自分のせいでオーナーに生じた損害は、例えその金額がいくらになろうとも、その損害が逸失利益であろうとも、一定の条件を満たす限り、賠償しなければならないことになっています。

 

これは、感覚的にも理解できるのではないでしょうか。

 

損害を生じさせたものが、その生じた損害について全て賠償する。

 

この、法的にも、感覚的にもしっくりくる損害賠償について、EPC契約では、コントラクターの責任が制限されているのはなぜなのでしょう?

 

その理由は、プラントに問題が生じてオーナーに生じた損害を全部コントラクターに賠償させた場合、コントラクターが倒産してしまうかもしれないことが考えられます。

 

EPC契約は、契約金額が莫大なものが多いです。数十億レベルの案件は普通にあります。数百億、さらには数千億もする案件もあります。

 

そのため、コントラクターが何か契約に違反した場合にコントラクターが負う責任も大きくなる傾向があります。

 

それらを上限なく賠償させられることになったら、コントラクターの経営は非常に厳しいものになるでしょう。

 

また、建設されたプラントに欠陥が発見され、プラントの運転を止めて修理する必要がある場合に、その間に本来得られたであろう利益、つまり逸失利益分もコントラクターが全額賠償しなければならないことになったら、コントラクターは相当な打撃を受けるでしょう。

 

そのようなリスクがあるEPC契約を結ぼうとするコントラクターはいなくなってしまう可能性もあります。

 

「それなら、他の事業をした方が安全」

 

このようにコントラクターが考えてしまい、プラント建設業界から撤退してしまったら、世の中にプラントを作るものがいなくなってしまいます。

 

これはオーナーとしては非常に困るわけです。

 

そのため、どこかでコントラクターの責任に制限を加えたり、免責したりすることで、コントラクターのリスクをある程度緩和し、コントラクターが対応できるようにする。

 

おそらく、このような考えから、EPC契約においては、民法の損害賠償の原則を変更するもの、つまり、責任上限と逸失利益等の免責が定められるのが一般的になったのだろうと思われます。

 

 

責任上限の相場

 

上限金額をいくらにするのが通常なのかは、その業界によって異なります。

 

事前に自社の属する業界の相場を把握しておくと、オーナーとの協議の際に役に立つと思います。

 

この点、私の経験では、水力発電所や火力発電所の建設のEPC契約では、責任上限は契約金額の100%とされているものが通常だと思います。

契約金額が数千億円レベルの案件になると、契約金額の100%を負担するのは企業にとっては大変なことなので、契約金額の50%とか、25%という値を上限とすることもあると思います。

 

FIDICとENAAの該当条文(2016年11月16日追記)

 

FIDICシルバーブックとENAAにも責任上限の条文はあります。

 

FIDICシルバーブックでは、17.6(Limitation of Liability)で、ENAA2010では、GC 30.2に定められていますので、ご参考ください。

 

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EPC契約のポイントの目次

Scope of Work ボンドのon demand性を緩和する方法 プラントの検収条件と効果
サイトに関する情報 コントラクターによる仕事の開始時期(納期の起算点)は? 危険の移転時期とその例外
オーナーの義務 仕事の遂行 債務不履行
契約金額の定め方と追加費用の扱い 設計(design)の条文について① 納期延長の場合のコントラクターの責任① 納期延長になる場合
追加費用の負担について 設計(design)の条文について② 納期延長の場合のコントラクターの責任② LD/リキダメ
ボンドについて 仕様変更① 仕様変更とは? 納期延長の場合のコントラクターの責任③ 納期LDの上限
入札保証ボンド 仕様変更② クレーム手続きと仕様書に書かれていない事項 納期延長の場合のコントラクターの責任④ sole and exclusive remedy
前払金返還保証ボンド 仕様変更③ 納期延長と追加費用の金額が合意に至らない場合の扱い 納期延長の場合のコントラクターの責任⑤ 中間マイルストーンLD
履行保証ボンド プラントの試験① 性能未達の場合のコントラクターの責任① 性能保証と性能確認試験
瑕疵担保保証ボンド プラントの試験② 性能未達の場合のコントラクターの責任② 最低性能保証・性能LD
責任制限条項① Limitation of Liability/LOL 不可抗力の扱い③ Force Majeureの効果を得るための手続き 私がEPC契約で真っ先に確認する点③
責任制限条項② 適用される場合と適用されない場合 不可抗力の扱い④ Force Majeureが長期間継続した場合 LOIの何がリスクなのか?
瑕疵担保責任① 総論 法令変更について LOIへの対処法(対外的)
瑕疵担保責任② オーナーの通知義務とコントラクターのアクセス権 契約解除① なぜ解除の理由によって解除の効果が異なるのか? LOIへの対処法(社内的)
瑕疵担保責任③ 保証期間の延長 契約解除② オーナーの義務違反に基づくコントラクターによる契約解除 EPC契約における支払い条件
瑕疵担保責任④ Disclaim(免責)条項 契約解除③ オーナーの自己都合解除
作業中断権① 中断権の存在意義 契約解除④ コントラクターの債務不履行に基づくオーナーによる契約解除
作業中断権② 中断権行使の効果 契約解除⑤ 不可抗力事由が長期間継続した場合
不可抗力の扱い① Force Majeureとは何か? 私がEPC契約で真っ先に確認する点①
不可抗力の扱い② Force Majeureの効果 私がEPC契約で真っ先に確認する点②

 

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

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