EPCにおける設計(design)の条文について②
前回(EPCにおける設計(design)の条文について①)の続きです。
5. オーナーの承認がなされた図書に後日誤りが発見された場合には、図書を修正したり、場合によっては製造をやり直したりすることになるが、その責任はオーナーとコントラクターのどちらが負うのか?
この点、「オーナーの承認が下りた図書に後に誤りが発見されても、その誤りの責任はコントラクターが負う」とEPC契約書に定められているのが一般的です。
図書を承認したオーナーにも一部責任を取ってもらいたい!と思うかもしれません。
しかし、私はこれまで、そのような場合にオーナーが責任を負うとの記載を見たことがありません。
その理由は、おろらく、次のようなものであると思われます。
もともとEPC契約においては、原則として、最初から最後までコントラクターの責任で仕事を行うことが求められています。
よって、途中経過は問わず、とにかく、仕様書に合致した製品をオーナーに引き渡す義務がコントラクターにはあると言えます。
これを純粋に貫こうとすると、図書の承認手続きは不要となるでしょう。
つまり、コントラクターは自分が正しいと考えて作った図書に基づいて製造・建設を行えばよく、もしも図書に誤りがあり、その結果製造された機器や建設されたプラントに欠陥が生じた場合は、コントラクターが責任をもって修理すればよいだけです。
しかし、このように途中でオーナーのチェックが一度も入らないようにするよりも、オーナーが途中で図書の内容を確認するというプロセスを経たほうが、コントラクターが図書の作成において誤りを犯しても、製造に入る前にその誤りが発見される可能性が高くなります。
そして、納期にも遅れず、仕様書に合致した製品・プラントが完成される可能性も高まるでしょう。
この点、オーナーには損害賠償請求権があるので、仮にコントラクターが設計において誤りを犯し、機器やプラントに欠陥を生じさせても、コントラクターに無償で修理させることができるし、納期に遅れる、または、性能が未達成だった場合にも、損害賠償を支払ってもらえばよいので、オーナーがわざわざ途中で図書をチェックしなくても、オーナーの利益は守られている、よって、オーナーによる図書承認手続きは不要である、という考え方もあるかもしれません。
しかし、損害賠償請求権があるとはいえ、EPC契約には、責任上限や逸失利益の免責等の責任制限条項があるのが一般的です。
つまり、オーナーに生じた損害をすべてコントラクターに負担してもらえるとは限らないのです。
そして、オーナーの最大の目的は、コントラクターから損害賠償を得ることではなく、納期までに仕様書を満たす製品・プラントの引渡を受けることです。
そのためには、コントラクターによる履行の途中で、オーナーがその仕事の内容をチェックする機会があるとしたほうが、その目的を果たせる可能性が高まります。
そのため、オーナーによる図書承認というプロセスがEPC契約の中に定められているのだと思います。
とはいえ、図書の作成がコントラクターの義務であることには変わりはありません。
オーナーによる図書承認プロセスは、図書に誤りがないかを念のため確認する、というだけであり、図書に誤りがないことを保証するといった性格のものではないのです。
一方、コントラクターからしても、途中でこのようなオーナーの図書承認プロセスがあるおかげで、図書の中に誤りを見つけてもらえれば、そのまま製造した後で図書の誤りが見つかった場合よりも、やり直しや修正の程度が減るというメリットがあります。
つまり、図書承認プロセスは、コントラクターにとっても良い面があるといえるでしょう。
そのため、EPC契約においては、図書を一度オーナーが承認し、製造が開始され、その後その図書に誤りが発見された場合でも、オーナーは何ら責任を負わず、コントラクターが全責任を負う、という立て付けになっているのだろうと思われます。
したがって、コントラクターとしては、「図書の承認についてオーナーは責任を一切負わない。図書は自分たちで誤りのないものを完成させる!」という気持ちで図書作成に取り組む、ということが重要だと思います。
オーナーが提供した図書作成の前提となる情報の正確性の保証について
もっとも、コントラクターによる図書作成の前提となる情報をオーナーが提供する場合には、その情報の正確性については、オーナーに保証してもらうべきです。
つまり、その情報に誤りがあった場合には、追加費用や納期延長をコントラクターが認めてもらえるようにEPC契約の中で手当てするべきです。
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EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
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原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |