コンソーシアムを組む際の注意点は?
1. コンソーシアムとは
海外のEPC案件を受注する際に、複数の企業でコンソーシアムを組んで入札に参加したり、EPC契約を締結したりすることがありますよね。
この「コンソーシアム」とは、一体何でしょうか?
日本語で言えば、「共同企業体」と訳していることが多いようです。
このコンソーシアムの法的な性格って何?
こんな疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
実は、私もよくわかっていません。
印紙税法上は、民法の「組合」と位置付けられているみたい、といった程度のことしか知りません。
ただ、私は、「コンソーシアムの法的性質が何かわからないために困った」ということはありません。
というのは、海外EPC案件においては、コンソーシアムメンバー間で締結されるコンソーシアム契約に詳細な定めがあり、それに従うことで足りるからです。
というわけで、今回は、海外EPC案件で出てくるコンソーシアム契約について、以下の事項を解説したいと思います。
・コンソーシアムでEPC契約を受注するとコンソーシアムメンバーはいかなる義務・責任を負うことになるのか?
・そもそも、どうしてコンソーシアムなんてものがあるのか?
・コンソーシアム契約の主な内容と注意点
・コンソーシアムを組む際の相手選びの注意点
2. コンソーシアムでEPC契約を受注するとコンソーシアムメンバーはいかなる義務・責任を負うことになるのか?
複数の企業でコンソーシアムを組んでコントラクターとしてEPC案件を受注すると、オーナーとコンソーシアム間でEPC契約を締結することになります。
そして、コンソーシアムメンバー間では、コンソーシアム契約を締結します。これにはオーナーは契約当事者として加わりません。
契約形態を図にすると、以下のようになります。
そして、EPC契約には、次のような条文が定められるのが通常です。
「コンソーシアムメンバーは、オーナーに対してjoint and severalで責任を負う」
・・・joint and severalって何でしょう?
これは、「コンソーシアムメンバーは、オーナーに対して連帯責任を負う」という意味です。
具体的には、次のようなものです。
A社とB社でコンソーシアムを組み、EPC契約には、「joint and severalでコンソーシアムメンバーがオーナーに対して責任を負う」と定められていたとします。
ここで、例えばA社の原因でプラント完成の納期に遅れたとします。B社には全く落ち度がありませんでした。
しかし、オーナーは、納期遅延LDの支払いをA社ではなく、B社に対して全額請求しました。
このとき、B社は、「遅れたのは自分じゃない!A社が遅れたんだから、A社に請求して下さい!」とオーナーに対して言えるでしょうか?
答えは、「言えない」です。
B社は、オーナーに対して全額支払わないといけません。その理由は、「B社は、コンソーシアムメンバーとして、オーナーに対して全責任を負っているから」です。決して、A社との間で決めた自分のスコープだけを完成させればそれでオーナーに対する責任も果たしたことになる、というものではないのです。
一方、B社はオーナーに対して納期遅延LDを支払った後で、A社に対してその支払った分について求償することはできます。
理由は、「コンソーシアムメンバー間では、自分のスコープについての義務・責任を負えばよい」ことになっているからです。
簡単に言うと、
オーナーに対しては、全体の責任を負い、
コンソーシアムメンバーに対しては、自分のスコープについてだけ責任を負う。
3. そもそも、どうしてコンソーシアムなんてものがあるのか?
そもそも、どうしてこんなコンソーシアムなんて形態でEPC契約が進められるのでしょうか。
これは、オーナーがそれを望むからです。
では、どうしてオーナーがそれを望むのでしょうか?
上記のケースで、joint and severalな責任をコンソーシアムメンバーが負わない場合を想定してみましょう。
A社が自分のスコープのところで遅れて、最終的にプラントの完成が間に合わなかった。
ここで、オーナーは落ち度があったA社にしか納期遅延LDを請求できないとします。
すると、もしもA社が小さな会社で、とてもEPC案件の莫大な納期遅延LDなんて支払う資力がなかったとしたら、オーナーは困ってしまいますよね。オーナとしては、B社にも請求できるようにしておきたいところです。
また、もしもプラントの完成が遅れたのがA社とB社のどちらが原因かわからないという場合、オーナーは誰に納期遅延LDを請求したらよいでしょうか。
A社が悪いのかB社が悪いのかわからない。つまり、どちらに過失があったのかもわからない。
よって、どちらにも請求できない、という結論になってしまいかねません。
ところが、A社とB社がjoint and severalな責任を負うことになっていれば、オーナーは、「どっちが悪いかはわからないが、どちらかではある。コンソーシアム全体として落ち度があるのだから、納期遅延LDを支払え」とA社かB社のどちらか一社に対してでも、または両社に対してでも請求することができることになります。
オーナーとしては、複数の企業がコントラクターになる場合、コントラクター達がその義務や責任を分割してオーナーに負うという形式だと、非常に不都合なわけです。
そのため、複数企業でコントラクターになる場合にはコンソーシアムの形態、つまり、joint and severalな形で責任を負ってもらおうとするわけです。
ここでA社とB社が、「コンソーシアムなんて嫌だ。そんなの組まない」とオーナーに言ったらどうなるでしょう?
おそらく、オーナーはこう言うはずです。
「だったら、EPCコントラクターになるのは、どちらか一社だけとする」
つまり、A社かB社のどちらかだけがEPCコントラクターとしてオーナーとの間でEPC契約を締結し、残った方は、EPCコントラクターの下請けになるのです。
こうすれば、下請けの落ち度は、オーナーからしてみるとコントラクターの落ち度になるので、オーナーはプラント建設の過程でEPCコントラクターやその下請けに問題があれば、全てEPCコントラクターに対して責任を追及することができます。
というわけで、以上をまとめると、次のようになります。
(1) コンソーシアムを組むと、コンソーシアムメンバーはオーナーに対してjoint and severalな責任を負うことになる。
(2) joint and severalな責任とは、各コンソーシアムメンバーがオーナーに対してEPCコントラクターとしての全責任を負うこと。他のコンソーシアムメンバーの落ち度による責任も負うことになる。
(3) 複数企業がEPCコントラクターになろうとする場合、オーナーは義務・責任が分割されるのを嫌うため、コンソーシアムの形態をとることをほぼ必ず要求してくる。これを拒むと、複数企業がEPCコントラクターになることを拒絶される。
4. コンソーシアム契約の主な内容と注意点
コンソーシアムを組む場合、対オーナーとの関係では、EPC契約に、「コンソーシアムメンバーは、joint and severalで責任を負う」という条文が定められています。コンソーシアムメンバーはこれに拘束されます。
一方、コンソーシアムメンバー間では、コンソーシアム契約なるものを締結します。
これには何が定められているかと言いますと、大きくは次の4つです。
① コンソーシアムの運営方法
② コンソーシアムメンバーの役割
③ コンソーシアムメンバーの責任
④ コンソーシアムから抜ける場合の扱い
まず、①は、コンソーシアム全体で意思決定を行う場合に、具体的にどのような方法でそれを行うか?そこで決まった内容をオーナーに対して連絡する方法はどうするなどが定められています。
次に、②ですが、これは、各コンソーシアムメンバーの具体的な義務、つまりスコープを定めます。
このスコープは、どちらが何をどこまでやるかを明確に定めるようにすることが大事です。それが出来ていないと、EPC契約締結後作業が始まってから、「それはこっちのスコープじゃない。お前のスコープだ!」といったことになり、現場は大いに混乱し、納期の遅れが生じる一因となりえます。
さらに、③は、EPC契約に違反した場合のコンソーシアムメンバーがどのように責任を取ることになるのか?が定められます。
この点、原則として、自分のスコープについては自分で責任を負うことになります。つまり、A社が原因で納期に遅れれば、A社がオーナーに対して納期遅延LDをオーナーに支払う、ということになります。
念を押しますと、これは、オーナーに対して主張できるものではありません。あくまで、コンソーシアムメンバー間の合意です。
また、この例外として、すぐにはどちらの原因の契約違反なのかわからない場合の扱いも定めておくことがあります。
例えば、「一時的には、A社とB社がEPC契約から得る対価の割合に応じてオーナーに対して賠償するが、原因が判明次第、精算する」というような定めです。
オーナーとしては、コンソーシアムにEPC契約違反があった場合、すぐに被った損害を支払ってほしいわけです。「今どちらに原因があるのか精査しているので、それがわかるまで支払いを待ってください」とはオーナーには言えません。そこで、とりあえず上記のように対価の比率に応じてオーナーに支払い、その後、コンソーシアムメンバー間で協議するなり仲裁なりで争うことになります。
最後に、④として、コンソーシアムメンバーがコンソーシアムから抜ける場合の扱いです。
EPC契約が始まった後で、コンソメンバーが抜けたら一体どうなるでしょうか?
おそらく大混乱が生じるでしょう。
まず、代わりの会社を探す必要があります。
しかし、おそらくそう簡単に見つからないでしょう。
そうなると、工程に遅れが生じますよね。
つまり、最終的には納期遅延LDが生じます。
それを抜けたコンソーシアムメンバーに負担してもらうように定める必要があります。
また、途中で抜ける場合には、それまでの間にその抜けたメンバーによって作成され、またはオーナーに提出された図面等の資料を代わりの会社に開示すること、および使用させることができるように手当てする必要もあるでしょう。機器を製造していれば、その引渡も残ったメンバーの判断でしてもらえるようにしておいた方がよいでしょう。
最悪のケースは、もしかすると、代わりのメンバーが見つからないかもしれません。
EPCコントラクターの代わりなど、そう簡単に見つからないように思います。
その場合、オーナーがEPC契約を解除することになるかもしれません。
これによってオーナーからなされる損害賠償への負担についても定める必要があります。
この④は、滅多に起きないことだと思いますが、可能性がゼロではない以上、定めておくべきです。
5. コンソーシアムを組む際の相手選びにおける注意点
ここで、上記④に関して、コンソーシアムを組む際の注意点を一つ書いておきたいと思います。
それは、「その案件に乗り気でなさそうな会社とコンソーシアムを組もうとしない」ことです。
これはなぜかと言いますと、そういう相手と組んでも、「途中で抜ける!」とか言い出す可能性があるからです。
コンソーシアムを組んでEPC契約を受注後にコンソーシアムから抜けられると、上記にも書いた通り、納期に間に合わせることはおそらく不可能になります。
もしかしたら、その案件を完成させることもできず、その結果、オーナーからは多額の賠償請求を受けるかもしれません。
もちろんそれらは、ほぼ全額、途中で抜けると言い出したコンソーシアムメンバーに負担させるべきですが、もしも彼らが素直にそれに応じず、争い始めたら、仲裁などの紛争解決手段に入ることになります。
そうなると、解決までかかる時間と労力は凄まじいものになり得ます。おそらく、年単位でかかるでしょう。
コンソーシアムメンバーの候補者がその案件に乗り気かどうかは、担当者レベルで会っていても割と伺い知ることができるのではないでしょうか。例えば、こちらが要求するレベルの価格を出すことを相手が激しく渋るとか、技術的要求にもなかなか応じない等がありえるでしょう。
そのような雰囲気を感じた場合、あまりに強引にコンソーシアムを組ませると、あとになって、「やっぱり抜ける」と相手方が言い出すかもしれません。
もちろん、EPC案件はとりたい。金額も大きいので、なんとしてでも取りたい。
しかし、「この相手はあまり乗り気ではないようだな」と感じたときの対応は、慎重に進めるべきかと思います。
この「相手選び」が重要なのは、コンソーシアムの場合に限りません。他社と一緒に何かをする場合には、常に重要になります。
共同研究をやろうという場合でも、一緒に会社を作る、つまり合弁会社を設立しよう、という場合でも、あまり乗り気でない会社とズルズル関係をもっても、最後にひっくり返され、それまでの努力が水の泡、となってしまいます。
なので、「あまり乗り気ではなさそうだな」と感じたら、「正直なところどうなんだ?やりたいのか?やりたくないのか?」と担当者で腹を割って話すこともあってよいのではないかなと私は思います。
EPC契約のポイントの目次
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原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |