EPC契約における作業中断権① 中断権の存在意義
EPC契約の中には、Suspensionという条項があるのが一般的です。
これは、「中断」を意味します。
EPC契約におけるコントラクターの義務の履行を中断する場合の定めです。
これは不思議な気がしないでしょうか?
本来、EPC契約は、納期までにプラントを完成させることを最大の目的の一つとしているはずです。
その目的を果たすためには、中断なんて不要なはずです。
EPC契約に定められている義務を、当事者で合意したスケジュールに従って粛々と遂行していくことがコントラクターに求められることです。
中断なんてしたら、納期までに間に合わなくなる可能性は大です。
どうして、「中断権」なんていう一見余計なものを定めているのでしょうか?
作業を中断される場合
EPC契約において、作業が中断されるのは、大きくは以下の2つの場合とされています。
① オーナーが中断を望み、オーナーが中断をコントラクターに求める場合
② オーナーのEPC契約上の義務違反があり、コントラクターが中断を求める場合
以下、説明します。
オーナーの作業中断権
まず、①についてです。
一般的に、「オーナーは、プラントの検収までの間に、いつでも、理由なく、コントラクターの作業を中断させることができる」とEPC契約中に定められています。
オーナーが具体的にいかなる理由で中断を望むのかはわかりません。ケースバイケースでしょう。
ただ、EPC契約履行中に何らかの事情の変更がオーナーにあり、急きょ、工程を遅らせたい、と考えた場合に、それができるように、上記のような中断権がオーナーに与えられています。
もっとも、オーナーが中断してほしいと考える理由が、コントラクターの契約違反等のコントラクターに原因がある場合もあります。
例えば、コントラクターが仕様書とは異なる設計や機器製造をしているのを、オーナーが気付いた時には、まずは作業を中断してコントラクターと協議したいと思うでしょう。
コントラクターの作業中断権
次に、②です。
EPC契約において、プラントを完成させるために必要な大部分の作業は、コントラクターが行うことになっております。
しかし、中には、オーナーの義務と定められているものもあります。
例えば、プラントを建設するためのサイトの占有権の取得、サイトへのアクセス権の取得、その他の許認可の取得等です。
これらは、コントラクターによるサイトでのプラント建設の大前提になるものです。
これらが確保されていないと、コントラクターはサイトで建設を行うことができません。
そこで、このようなオーナーの義務違反の場合には、コントラクターが自分の義務を遂行することができないので、作業を中断することができる、つまり、中断権がコントラクターに付与されるべきです。
さらに、EPC契約におけるオーナーの最大の義務と言えば、コントラクターへの対価の支払い義務です。
この対価を得るためにコントラクターは仕事をしているのです。
よって、コントラクターにとって、この対価の支払いをオーナーが滞らせることは、絶対に許せないことです。
もしもオーナーが、対価の支払いを滞らせた場合には、コントラクターはどうしたらよいでしょうか?
それは、「お金をくれないなら、もう仕事しないよ」とオーナーに伝えることでしょう。
つまり、この対価の支払いをオーナーが不当に滞らせた場合にも、コントラクターは作業を中断することができるようにしたいですよね。
中断されれば、納期までにプラントが完成されることを強く望んでいるオーナーは、対価を支払うようになるでしょう。
コントラクターにとっての中断は、オーナーに対価を支払わせるための武器でもあるわけです。
したがって、コントラクターとしては、対価の支払い義務をはじめとしたオーナーによるEPC契約義務違反があった場合に、中断権がコントラクターの付与されるのが通常です。
時々、オーナーに中断権が与えられているのに、コントラクターには与えられていないEPC契約を見ることがあります。
これは、オーナーの契約義務違反に対して、コントラクターに効果的な武器がないことになるので、ぜひ、コントラクターにも中断権が与えられているのかしっかりと確認し、もしも漏れていれば、明記するようにしてください。
次回は、中断権を行使した場合の効果について説明します。
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |