責任上限条項(Limitation of Liability)が適用される場合とされない場合
責任上限の対象となるものは何?
責任制限条項には、責任上限と逸失利益の免責の2つがあるとお話ししました。
ここで、「責任上限の対象となる責任は一般的に何か?」を今回は説明します。
「え?EPC契約上のコントラクターの金銭的なあらゆる責任を指すわけではないの?」
と思われた方も多いと思います。
この点を考えるにあたって、まず、EPC契約上、コントラクターが負う責任を列挙してみましょう。
・納期遅延の損害賠償
・性能未達の損害賠償
・危険の負担
・オーナーの財産への侵害の場合の損害賠償
・検収条件を満たすことができないためにコントラクターがプラントを修理する責任
・瑕疵担保責任(修理・交換)
・第三者の生命・身体・財産への侵害の場合の第三者への損害賠償
・第三者の知的財産権の侵害の場合の第三者への損害賠償
ざっとこんなところでしょうか。
このうち、通常、責任上限の対象となるのは、以下のものです。
・納期遅延の損害賠償
・性能未達の損害賠償
・オーナーの財産への侵害の場合の損害賠償
なぜ他の事項は責任上限の対象にならないのか。以下、説明します。
損害ではないもの
まず、責任上限とは、「損害賠償責任」を対象とします。
この点、リスクの負担は損害賠償ではありません。プラントを完成させるために必要な費用の負担です。
検収を満たさない場合に不具合部分を修理することも、損害賠償ではありません。コントラクターはもともとプラントを完成させる義務を負っていて、それを果たすための費用です。
第三者への侵害の場合
第三者の生命・身体・財産への侵害と第三者の知的財産権への侵害は、第三者への賠償責任です。コントラクターが原因で第三者に損害を与えてしまい、その第三者がプラント所有者であるオーナーに責任を追及してきた場合に、コントラクターがオーナーを免責する、つまり、コントラクターがその第三者に対して責任を負います。
第三者からの責任追及は、その規模がいくらになるのか想像がつきません。そのような責任は、原因を作り出したものが負うのが公平です。
そのため、この第三者への侵害の場合には、責任上限の対象外とされることが一般的です。
故意・重過失による損害
また、故意・重過失によってオーナーに損害を生じさせた場合にも、責任上限の対象にならないという定めがEPC契約で定められているのが一般的です。仮にこの定めがなくても、各国の法律や判例でそのような扱いになっていることがありますので、そのような国の法律を準拠法としている場合には、やはり対象にならと判断されるでしょう。
これは、故意・重過失でオーナーの損害を生じさせた悪質なコントラクターは保護するに値しない、という考え方からくるようです。この点は、しょうがない気がします。
逸失利益の免責について
逸失利益の免責も、あらゆるコントラクターの責任に適用されるわけではありません。
第三者の生命・身体・財産への侵害と第三者の知的財産権への侵害の場合には、コントラクターは免責されません。
故意・重過失の場合にコントラクターが免責されないのは、責任上限の場合と同じです。
以上から、責任制限条項については、以下の事項に注意してください。
・何が対象となり、何が対象にならないのか。
・「プラントを完成させるコントラクターの義務」を遂行するための費用は責任上限の対象にならない。
・故意・重過失の場合には、責任上限も逸失利益の免責も適用されない。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |