EPC契約における法令変更について
今回は、コントラクターが追加費用をオーナーに負担してもらうべき場合の一つである「法令変更」についてお話ししたいと思います。
コントラクターは、EPC契約に定めてあることに従って仕事をしなければなりませんが、それに加えて、法令にも従わなければなりません。
ここでいう法令とは、その国の民法に限りません。プラントの配管はこういうものでなければならない、とか、強度は最低限どうでなければならない、という技術的なことを定める法令もあることでしょう。
そのほとんどは、仕様書で既にカバーされているかもしれませんが、必ずしもそうとはいいきれません。
コントラクターは、法令に違反しないように仕事を行い、また、出来上がったプラントも法令に違反するようなものであってはいけないのです。
そのため、プラントを建設するにあたっては、現地の法令に違反しないように法令も調査の上で仕事を進めることになります。
ここで、法令が変更すると、場合によっては、設計を変更しなければならなくなるかもしれません。
その場合、費用が予定よりも多くかかることもあるでしょう。
このような法令の変更によって生じるコントラクターの費用は、オーナーに負担してもらうべきものです。なぜなら、法令が変更することになったのは、コントラクターに原因はないのですから、コントラクターが法令変更によって損をすることは公平とは言えないからです。
そのため、多くのEPC契約には、法令変更が生じた場合の扱いが定められています。
ここで、この法令変更の定めをチェックする際のポイントは、大きく5つあります。
1. 法令の新たな成立、廃止、変更の場合となっているか
「法令変更」とずっと書いてきましたが、厳密には、それまで規制されていなかった事項について新たに規制する法令ができた場合や、それまである一定の条件があったのにその条件がなくなった場合も追加費用が生じえる点では同じです。
よって、新たな立法および既存の法令の廃止の場合も定めるようにしましょう。
2. 法令の解釈の変更も含まれているか
法令の文言は何ら変更されていないのに、解釈が変わることも、稀ですがあり得ると思います。よって、この場合も法令変更に含めて扱われるようにしましょう。
3. EPC契約締結時ではなく、契約金額の見積もり時を基準にしているか
法令がどの時点以降に変更された場合に追加費用をオーナーに負担してもらうべきか、という問題です。
この点、契約金額が合意されるのはEPC契約締結時だから、その時点では?と思われるかもしれません。
しかし、通常、入札案件のルールでは、契約金額は、入札時に入れた金額から変更できない扱いとなっていることが多いです。
そこで、実質的に考えて、コントラクターが見積もりをした時点以降に法令が変更されれば、追加費用をオーナーに負担してもらいたいです。
とはいえ、コントラクターが見積もりをした時点とはいつかを示すのは難しいので、形式的に、入札日から○日前の日、を基準日として設けて、その基準日以降に法令変更があった場合には、追加費用をオーナーに負担してもらう、というのが現実的な定め方といえるでしょう。
4. 効果は、納期延長と追加費用を得られるものになっているか
この点は言わずもがなですが、法令変更の効果は、追加費用のみならず、法令変更によってコントラクターが被った工程の遅延分の納期延長であることが明記されているか確認しましょう。
5. 手続きは現実的に可能なものか
法令が変更されたら自動的に追加費用や納期延長の効果を得られるわけではありません。
通常、コントラクターからオーナーに対して書面による通知を発行することになります。
それがいつから何日以内で、何を通知に記載しなければならないのかを理解し、それが現実として対応可能なものか確認しましょう。例えば、極端に通知を発行する余裕が短い場合には、対応可能な日数に修正を申し入れるべきです。
さらに、実務でこの対応をするプロジェクトマネージャーやエンジニアの方々に手続きの内容を熟知してもらうようにしましょう。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |