EPC契約の仕事の遂行
契約が締結され、その効力も発生し、コントラクターはいよいよ仕事に着手します。
まず、契約締結後の決められた期間内に、コントラクターはオーナーにあるものを提出するように求められます。
そのあるものとは、一体なんでしょうか?
それは、詳細な工程表、つまり、仕事のスケジュールです。
いつまでに、何についての設計図面を作成し、それをいつまでにオーナーに提出し、その図面に基づいていつまでに機器を製造し、そしていつから建設を開始して、いつまでに試験を終え、そしていつまでに検収となるか・・・。
EPC契約では、このようなことを詳細に定めたものをオーナーに提出する義務がコントラクターに定められているのが一般的です。
そして、毎月仕事の進捗状況をオーナーに報告する義務もコントラクターには課されています。
オーナーのスケジュールに対する関心度
なぜ、このようなスケジュールや進捗状況をオーナーに提出しなければならないのでしょうか?
それは、「オーナーが仕事の進捗状況を正確に把握したいから」です。
オーナーの最大の関心事は、プラントが決められた納期までに完成して、オーナーが予定通りにそのプラントを使い始めることができるかどうかです。
これが遅れると、オーナーは非常に困ります。
商業運転が遅れると、それだけ利益を生み出すのが遅れます。
また、オーナーがコントラクターに支払う仕事の対価は、銀行等から融資を受けることが多いです。
その返済をプラントの稼働によって得られる利益から当てようとしている場合には、その返済期限に返済できなくなってしまいます。
そうなると、遅延利息が生じてしまいます。つまり、オーナーに損害が生じます。
上記の点は、コントラクターに損害賠償請求をすればよい、とも思えますが、全ての生じた損害をコントラクターに追わせられない可能性もあります(コントラクターの損害賠償責任のところで詳しく説明します)。
そのため、オーナーは、とにかく納期に間に合わせてほしいと強く思っているのが普通です。
スケジュールに遅延した場合の扱い
では、実際の仕事の進捗がスケジュールに遅れ始めたら、何が起きるでしょうか?
その遅れの原因がコントラクターにある場合には、オーナーは、コントラクターに対して、納期までに間に合うように対策を立て、仕事を早めるように求め、それに合わせてスケジュールも改定させます。
仕事のスピードを速めるためには、コントラクターの方で作業をする人数を増やしたり、作業時間を増やしたりする必要が出てきます。
オーナーによる図面チェック体制や試験への立ち合い人の手配等も変更しないといけなくなります。
そのために追加でかかった費用は、コントラクターが負担します。
コントラクターの原因で遅れたのですから、この点はしょうがないです。
例外
ただ、いつでもこの仕事のスピードを速めるためにかかる費用をコントラクターが負担しなければならないというのでは不公平です。
「コントラクターに遅れの原因がない場合」には、コントラクターは遅れに対して責任を負わせられるベきではありません。
具体的には、以下のような原因でスケジュールに遅れが出た場合です。
・オーナーによる仕様変更(Variation)
・法令変更(Change in Laws)
・不可抗力(Forth Majeure)
・オーナーによる作業中断(Suspension)
・オーナーの義務違反(Owner’s fault)
上記の場合には、コントラクターは、スケジュールに影響が出た分だけ納期を延長してもらえます。そして、不可抗力の場合を除いて、その遅れによって生じた追加の費用もオーナーに負担してもらうことができます(なぜ不可抗力の場合は追加費用はもらえないのかは不可抗力のところで説明します)。
オーナーへのクレーム
もっとも、この納期延長と追加費用の負担は、黙っていて得られるものではありません。
例えば、法令変更が生じた場合には、その旨をコントラクターはオーナーに対して決められた期間内に通知しなければなりません。これをクレームと言います。
もしもそのクレームを怠ると、納期は延長されず、追加費用ももらえなくなるとEPC契約書に定められているのが一般的です。
そのため、上記にある出来事が生じたら、EPC契約に定められている納期延長・追加費用請求の手続きに厳格に従うようにしてください。
なお、上記の各事由についての注意点等は、今後解説していきます。
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EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |