EPC契約における債務不履行
「あれやれ、これやれ、ということが、EPC契約にはたくさん書いてある。」
EPC契約を読んでいて、そう思って、うんざりしてしまった方もいるのではないでしょうか。
EPC契約は、短いものでも60ページを超える契約がほとんどです。
そこに色々な添付資料が付きますと、100ページを超える書類になります。
このEPC契約のモデルフォームの一つに、ENAAというものがあります。
この発電所建設向けのENAAについて、当事者の義務を表すshallで検索を書けると、なんと、400件以上もヒットします。
つまり、そのくらいの数だけ、「義務」が定められているのです。
特に、注文者であるオーナーの義務よりも、請負人であるコントラクターの義務の方が多いです。
オーナーの義務の代表的なものは、契約金額を支払うこと、プラントを建設する場所やそこまでのアクセス権の確保くらいですが、請負人は、プラントを完成させるために必要なほぼ全ての仕事を行う義務があるからです。
このたくさんのコントラクターの義務は、一見、バラバラのもののように見えるかもしれませんが、実は、ある目的を果たすために定められています。
それは、次の目的です。
コントラクターが、①決められた納期までに、②第三者の権利や利益を侵害することなく、③決められた仕様を満たしたプラントをオーナーに納入すること |
この目的を果たすために必要となることを詳細に定めているのが、EPC契約書です。
よって、この視点を持ってEPC契約書を読むと、定められている義務の意味をよりよく理解できるようになると思います。
そして、コントラクターがEPC契約に違反する場合というのは、上記に示した①~③のどれかに違反した場合がほとんどです。
そのため、EPC契約の中では、上記の3つに違反した場合の扱いが、詳細に定められています。
具体的には、次の通りです。
契約違反の内容 | コントラクターに生じる責任の内容 |
① 決められた納期までにプラントを納入できない場合 | ・納期遅延の場合の損害賠償・契約解除 |
② 契約上の義務の履行の過程で第三者の権利や利益を侵害してしまった場合 | ・第三者の生命・身体・財産への侵害によって、オーナーが被る損害の補償
・第三者の知的財産権の侵害によって、オーナーが被る損害の補償 |
③ 決められた仕様を満たしたプラントを納入できない場合 | ・性能未達の場合の修理・交換・損害賠償・契約解除
・瑕疵担保保証責任(修理・交換・損害賠償・契約解除) |
次回からは、上記に示した契約違反とその場合のコントラクターの責任について、解説していきたいと思います。
『英文EPC契約の実務』は、お陰様で出版から6度の増刷となっております。
この本は、
・重要事項についての英語の例文が多数掲載!
・難解な英文には、どこが主語でどこが動詞なのかなどがわかるように構造図がある!
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・EPCコントラクターが最も避けたい「コストオーバーランの原因と対策」について、日系企業が落ちいた事例を用いて解説!
・英文契約書の基本的な表現と型も併せて身につけることができる!
ぜひ、以下でEPC契約をマスターしましょう!
EPC契約のポイントの目次
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |