オーナーの義務の内容とその違反の効果を理解する!
オーナーの主な義務の内容
「オーナーの義務」の条文には、まさに、オーナーのやるべき事項が定められています。
EPC契約においては、プラントを建設するために必要となるすべての作業をコントラクターが行うのが原則です。
ただし、例外的に、一部の作業について、オーナーが行うべきものがあります。
それが定められているのが、「オーナーの義務」の条文なのです。
「オーナーの義務」と聞くと、契約金額の支払いくらいしかすぐに浮かばないかもしれませんが、実は他にもあります。
この「オーナーの義務」の条文のチェックにおいて重要なのは、以下です。
「オーナーにしてもらうべき事項が、漏れなく、明確に定められていること。」
とうのも、ここに明確に定められていない事項は、全てコントラクターのスコープとされる可能性があるからです。
そのため、「何がオーナーの行うべき事項なのか」を理解したうえで、「そのオーナーにしてもらうべき事項を契約書に明記する」という作業が不可欠になります。
ここで、「何がオーナーの行うべき事項なのか」という点については、主に技術部門の方に確認することになると思いますが、以下に、一般的なオーナーにしてもらうべき事項を列挙してみます。案件に応じてもっと多かったり少なかったりすると思いますので、あくまでご参考です。
・コントラクターへの情報提供義務(サイト、その他設計の基礎になるもの)
・サイトへのアクセス権の確保(港からサイトまでの道路の通行)
・サイトの占有権取得
・サイトに立ち入って工事をすることの許可取得
・サイトがある国における、コントラクターによる契約履行のために必要となる許認可で、オーナーが取得するべきとされているものの取得
・サイトがある国における、コントラクターによる契約履行のためにコントラクターによる取得が必要になる許認可等の取得についての支援
・プラントの試験におけるコントラクターへの必要な支援
・検収後のプラントの運転(性能試験のための運転)
これらを漏れなく契約書に定めるには、プラント建設の工程表を前に、社内のプロジェクトチームで、契約開始から時間軸をとって、順番に何をどのように進めていくのかを見ていきながら、「ここまでにオーナーの何が必要になる」というのを複数人で確認していく作業を行うのが効果的だと思います。
義務違反の効果
さらに、この「オーナーの責任」に列挙されている事項については、いつまでにオーナーが行うべきなのかも明記するべきです。そして、この期限までに行われない場合には、コントラクターの工程・作業に影響を生じるはずです。よって、そのような影響に対する手当ても明確に定めるべきです。
具体的には、納期の延長がなされ、かつ、コントラクターに生じる追加費用を負担してもらうことの明記です。
よって、まず、オーナーの義務が全て網羅されているか、そして、その義務違反の効果として、納期延長と追加費用の支払いが定められているか、について、よく確認するようにお願いします。
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EPC契約のポイントの目次
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |