Scope of Work(スコープオブワーク)の重要事項
ここでは、次の事項について初心者にもわかりやすく解説いたします!
- スコープオブワークとは何か?
- スコープオブワークの条文のチェックポイント
- スコープオブワークの条文の注意点は?
- 見積り落ちのリスク
スコープオブワークとは?
スコープオブワークは、英語ではScope of Workと書きます。
日本語にすると、「仕事の範囲」ですね。
つまり、請負人であるコントラクターが、このEPC契約に基づいて、一体何を注文者であるオーナーに提供しなければならないのか?が定められているのです。
お手元にEPC契約がある方は、このScope of Work(または、Scope of Supplyというタイトルかもしれません)の条文を見てみてください。
いかがでしょうか、コントラクターがしなければならないことがずらずらと列挙されているのではないでしょうか?
例えば、次のようなことが定められていると思います。
「コントラクターは、プラントの設計、製造、調達、建設、組み立て、据付調整、試験を、契約書、およびその仕様書に従って行わなければならない。」
そして、このような条文に続いて、さらに、「あれもやれ、これもやれ」と、途中で読むのがいやになるほど詳細に列挙されているのではないでしょうか。
そうしてようやく読み終えてみて、結局この条文に書かれていることは何のか?と考えてみると、つまりは次のようなことになると思います。
「コントラクターは、一部の例外を除いて、プラントを運転するために必要な全ての作業をこなさなければならない。」
これは考えてみれば当然のことです。
EPC契約とは、そもそも、コントラクターが設計から建設をして、運転開始できる状態になるまで全部こなすというのが原則です。それをこのスコープオブワークの条文は、明確に、そして具体的に述べているのです。
チェックポイント
では、この条文の何をチェックする必要があるのでしょうか?
まず、「コントラクターの仕事として定められている事項は具体的に何か?」を一つ一つ確認することです。
おそらく、EPC契約の本文は、添付資料(仕様書=specifications)を引用し、そこにより詳細なScope of Workを記載しているはずです。
よって、その添付資料も含めて、「本当にこれらはコントラクター側でやるものなのか?」を社内で検討します。その際には、主には技術部門の方に確認していただく必要があるでしょう。
もしもその中に、「これはオーナーにしてもらう必要があることだ」といった事項があれば、そこから外すという修正をする必要があります。
スコープオブワークの注意点
ここで、一つ注意が必要なのは、「契約書の本文や、添付資料中に、「これはコントラクターのスコープだよ」と明記されていない事項だからといって、コントラクターの仕事ではないとは言い切れない」ということです。
どういうことかといいますと、このスコープオブワークの条文には、概ね、次のような意味のことが定められていることがほとんどなのです。
「この契約書にコントラクターのスコープだと明記されていなくても、本来的、または慣習的にプラントの完成のために必要となる作業(または、プラントの完成のために必要だと合理的に推測される作業)は、オーナーの仕事と明記されていない限り、それはあたかも、コントラクターの仕事であると契約書に定められているかの如くに扱われる。」
英文では、以下のような条文です。
If any services, functions or responsibilities not specifically described in this Agreement are an inherent or customary part of the Scope of Work, or are required for proper performance or provision of the Plant in accordance with this Agreement, they are included within the Scope of Work to be delivered by the Contractor, as if such services, functions or responsibilities were specifically described in this Agreement, unless such services, functions or responsibilities are expressly designated in this Agreement as the responsibility of the Owner. |
「・・・何これ?」と、初めてEPC契約を読まれた方は、このように思うのではないでしょうか。私はそう思いました。だったら、コントラクターのスコープをいちいち列挙していたのは何のためなのだ?と。
結局、この条文があることで、ほぼ、次のようなことが言えると思います。
「契約書中に、「これはオーナーがやる仕事ですよ」と明記されていない事項は、全部コントラクターの仕事になる。」図にすると以下のようなイメージです。
この類の条文は、EPC契約のモデルフォームであるENAAやFIDICにもあります。また、これまで私が見てきたEPC契約書にもほぼ必ず入っていました。そのため、おそらく、この点はEPC契約ではもはや当たり前の条文、広く受け入れられている条文ということなのではないかと思います。
では、このような条文が入っているScope of Supplyにおいて、何を注意する必要があるでしょうか?この点、私は次の点が重要だと思います。
「技術部門も営業部門も、EPC契約のスコープは、「オーナーの仕事です」と明記されているもの以外は、全部コントラクターの仕事になるということを十分に理解の上、自社の仕事の内容を正確に理解し、決して見積もり落ちがないようにする。具体的には、オーナーの仕事の範囲が不明確な場合には、契約締結前にオーナーにしっかりと確認をして、どちらが担当するべき仕事なのか曖昧な点はなくす。」
この点、「契約書に「コントラクターの仕事と明記されているものだけがコントラクターの仕事である」というように契約書を修正してはどうか?」という考えもあるかと思います。
もちろん、それができればそれに越したことはありません。
しかし、このような修正がオーナーに認められることはほとんどの場合でないのではないかと私は思います。オーナー側は、自分達の仕事の範囲が不明確なものになるのを嫌がるはずだからです。そして、EPC契約では、基本的にはオーナーの方が、立場が強いことが多いと思いますので、そのような修正は拒否されることの方が多いと思います。
そのため、コントラクターとしては、「プラントを完成させるために必要な全ての仕事を理解した上で、そこからオーナーの仕事であると明確に定められている事項を除いた部分とは何か?を正確に把握した上で、契約金額の見積もりを行う」ということが、現実的な対応方法になるかと思います。
見積もり落ちのリスク
もしも、見積もり落ち、つまり、本当はコントラクターのScope of Workに含まれるのに、それは含まれないと勘違いし、契約締結後になって、「実はそれはコントラクターの仕事だった」となると、その分の仕事は、コントラクターが自費で行わなければならなくなります。
オーナーがその分の費用を負担してくれることはありません。
この金額があまりに大きいと、コントラクターはコスト・オーバーランに陥る可能性も出てきます。
コスト・オーバーランに陥ると、もはやそのEPC契約案件を遂行しても、当初計画していたような利益を出すことができなくなってしまいます。
それを避けるために、もっとも注意しなければならないのは、このスコープオブワークで、自社が遂行することを義務付けられている範囲を正確に把握することになります。
まとめ
以上をまとめると、以下のようになります。
- スコープオブワークの条文と添付資料を読み込み、オーナーにしてもらうべき事項を見つけたら、そのように契約を修正する。
- EPC契約においては、「この契約書にコントラクターのスコープだと明記されていなくても、本来的、または慣習的にプラントの完成のために必要となる作業(またはプラントの完成のために必要だと合理的推測できる作業)は、オーナーの仕事であると明記されていない限り、それはあたかも、コントラクターの仕事であると契約書に定められているかの如くに扱われる。」という条文が定められていることがほとんどであるので、契約書本文や添付資料にコントラクターのスコープだと明記されていなくても、自社のスコープになるものがあるということを十分に理解の上で、見積もり落ちがないように注意する。これは、技術部門と営業部門に十分に理解してもらうことが実務上重要になる。
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |