リテンションボンド(retention bond)の仕組みと注意点を学ぼう!
前払金返還保証ボンド、履行保証ボンド、瑕疵担保保証ボンドと4つのボンドの解説を既にしましたが、今回は、更に「リテンションボンド」について解説します。
リテンションボンドとは?
リテンションボンドとは、日本語でいうと、「留保金解除保証」となります。
つまり、リテンションボンドとは、留保金を解除してもらうためにオーナーに提供されるボンドです。
では、留保金とは何でしょう?
EPC案件は、工期が数年に渡ることが少なくありません。
そのため、契約金額も、ある時期、例えば検収時に一括して支払われるということはなく、前払金の支払いがあり、その後も検収までの間のいくつかのマイルストーン達成時に分割して支払われる、という仕組みになっていることが多いでしょう。
このような作業の進行に応じて進捗払いされる場合に、その5~10%といった一定の割合の金額の支払がオーナーに留保されて積み立てられていく仕組みをとる場合があります。
これは、金額を担保に取られているようなものです。
そしてこの留保された金額は、検収時点でその半額がコントラクターに支払われ、さらに残りは瑕疵担保期間満了時にコントラクターに支払われる、という扱いになっていることがあります。
留保金(リテンション)の仕組みの狙いは?
さて、このような仕組みをとることの狙いはなんでしょうか?
オーナーにしてみれば、コントラクターが契約に従って仕事をしないことによって何か損害を被った場合には、その留保金から賠償してもらうことができます。
コントラクターからしてみたら、できるだけ早く留保金を支払ってほしいと考えるはずなので、納期に遅れずに検収されるように頑張ろうと思うでしょう。瑕疵担保期間中に発見された瑕疵の修理・交換も、できる限り速やかに済ませようという気持ちになりますよね。
まさにこれが留保金の狙いです。
コントラクターのキャッシュフローとリテンションボンド
この留保金の狙いを実質的に維持しつつ、しかし留保金それ自体はコントラクターにすべて支払われるようにする方法、それが、リテンションボンドです。
つまり、留保金の金額に相当する保証額のボンドをコントラクターがオーナーに提供するのです。
すると、オーナーは、留保金の代わりに、実質的には留保金と同じ働きをするリテンションボンドを保有することになり、一方でコントラクターは留保金をオーナーから支払ってもらえる(留保金の解除)のです。
これにより、コントラクターは、留保金が支払われる分だけキャッシュフローがよくなりますよね。
もっとも、ボンドを発行するのが銀行なので、コントラクターは銀行にボンド発行手数料を支払うことになります。その手数料分をEPC契約の対価に含める場合には、その分金額が高くなるので、競争の激しい入札においてはコントラクターに若干不利になるかもしれません。契約金額に含めない場合には、手数料の分だけコントラクターの利益が減ることになるでしょう(といっても、全体の金額からしてみたら大した金額ではないと思いますが)。
このように、リテンションボンドを出すことは、コントラクターにとって必ずしもメリットだけではないかもしれませんが、留保金を早く支払ってもらうことでキャッシュフローが良くなる点は間違いないので、メリットデメリットを考慮した上で、留保金に対してどのような対応をとるかを判断することが必要になると思います。
ボンドについて(これであなたもボンドマスター!)
・そもそも、ボンドとは?
・瑕疵担保保証ボンド(※民法改正後は、瑕疵担保は契約不適合責任と呼ぶようになったので、現在は「契約不適合ボンド」と呼ぶべきです)
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EPC契約のポイントの目次
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原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |