英文契約書の一般条項~定義条項その②
1. 定義条項を定める際に注意したいこと
(1) 定義条項における決まり文句
定義条項は、一般的には、次のような文言で定められています。
「本契約において、次の用語は、以下に定義した意味を有するものとする。」
英語では、次のように書きます。
For the purpose of this Agreement, the following terms have the meanings as defined below:
“A” means …
“B” means …
ここで、よく、「文脈上他の意味に解釈されない限り」という文言が上記に追加されているものがあります。英語では、unless the context otherwise requiresという英文です。
しかし、これがあると、「この文脈では、他の意味に解釈するべき場合だ」という主張を相手に許すことになってしまいます。これでは、何のために定義したのかわかりません。この文言は書くべきではないでしょう。
(2) 権利義務の条文中で用語を定義する場合の決まり文句
一方、定義条項を設けずに、当事者間の権利義務を定める条文中で用語を定義してしまう場合には、次のような文言を使うのが一般的です。
「・・・(以下、「○○」という)」
英語では、次にように書きます。
(hereinafter referred to as the “ ”)
(3) 定義条項を定める場合にshallは使わない
定義条項において、shallを使っているケースをよく見かけます。
“A” shall mean …
といったようにです。
しかし、shallは、契約当事者の権利義務を表す際に使う助動詞なので、定義条項でshallを使うのは誤りです。
単に現在系で、
“A” means…
と書きましょう。
(4) 契約書の一部を修正する契約で使う決まり文句
契約書を一度締結したものの、その後、その一部を修正する場合があります。
その際には、完全に新しい契約書を締結し直す場合もありますが、一般的には、修正が必要になった部分についてだけ修正する契約書を作成することになると思います。
その場合、その修正契約書の中に再度定義条項を設けるのは面倒ですよね。
修正契約は、最初に締結した契約書を修正するものなので、そこで使われる用語も最初に締結された契約書(原契約)のものと同じものを使えば後で読み返す際にも読みやすいですよね。
そこで、次のような条文を修正契約書の中に定めることが一般的です。
「本契約において使用される大文字の各語は、「原契約」において規定された意味と同じ意味を有する。」
※「原契約」とは、最初に締結した契約書を指します。
英語では、次のように書きます。
Each capitalized word used herein has the same meaning as set forth in the Original Agreement.
※Original Agreementとは、最初に締結された契約書を指します。
2. コラム~契約書の定義とその国の経済力の関係について感じること~
定義条項についてご理解いただけたでしょうか?
ところで、私は企業法務に配属されてから、数年間、こう思っていました。
「定義するなんて面倒だ。定義なんかしなくても、大体意味わかるだろ。定義しなくても大きな問題なんて生じない。」
前回お話しした、「秘密情報」と「機密情報」という似た表現が契約書中にあったら、「同じことを意味したいんだろうな~」と思い、あえてどちらかに統一するように直さなくてもよいのではないかと思ったりもしました。
ある海外の案件では、土地の賃貸借契約で、対象となる土地のことを、landと書いたり、propertyと書かれたりしているものもありました。それを一つの用語に統一するように相手方に要求したところ、「これはひな型だから修正しない。それに、読めば意味わかるだろ?」と言われて拒絶されたこともありました。その時の相手の表情は、「全く細かい奴らだな~(怒)」というようなものに見えました。
このように、世の中には、定義条項に拘らない人も大勢います。
そんな中で、私の経験では、一番この辺りをしっかりやろうとするのは、欧米の弁護士です。
一方、発展途上国、特に東南アジアや南アジアの国では、全く気にしない人が大勢いるように感じます。
この点、確かに、定義をしっかりすることは面倒な一面もあります。
しかし、「同じことを同じ文言で書こうとする姿勢」は、お互いに勘違いや食い違いが起きないようにするためにとても重要なことだと思います。
勘違いが起きなければ、契約締結後の履行はスムーズにいくでしょう。
一方、勘違いが起きやすい契約書では、いちいち履行がストップしてしまうかもしれません。
その点を、初めからちゃんと手当てしようとする人たちと、「まあ、勘違いなんて起きないでしょう。大丈夫大丈夫。」と楽観的に考える人たち。
この差は、結局は、「如何に物事を確実に進めていこうとする熱意があるかどうか」に起因しているように思います。
先進国の契約書は、それなりに定義がしっかりしています。
一方、発展途上国の企業がドラフトする契約書は、定義がされていないことが多く、仮に定義されていても、本文で違う用語が使われていたりすることもざらにあります。
私は、先進国と発展途上国間の間の差は、もちろん歴史的な背景があることは間違いないと思いますが、上記に述べた、「物事を正確に、そして確実に進めようとする姿勢」や「過度に根拠のない楽観主義に流れず、リスクをできるだけ防ごうとする姿勢」も、両者を分ける一つの要因になっているように感じます。そしてそれは、最も厳密に書かれるべき文書の一つである契約書の書き方に現れているのではないかと感じます。
契約書では定義をしっかり定めましょう!
【一般条項の解説の目次】
総論
|
完全合意条項・修正条項
契約に関する事項については、契約書にすべて定められている旨を定める条項 (正確には、口頭証拠排除の準則が適用されやすくするための条文) および 契約書を修正・変更するための条件を定める条項 |
契約書中で使われる文言の意味を定義する条項 |
無効な部分の分離条項
契約書中のある部分が無効と判断された場合、残りの部分は有効である旨を定める条項 |
定義条項その② 定義条項の注意点
契約書中で使われる文言の意味を定義する条項 |
権利放棄条項
ある事項について権利を保持する当事者がその権利を行使しなかった場合でも、その権利自体を放棄したものと解釈されないことを定める条項 |
準拠法
契約条文を解釈する際に適用する法律を特定するための条項 |
見出し条項
契約書中の条文のタイトルには法廷拘束力はなく、条文の解釈に何ら影響を及ぼすものではない旨を定める条文 |
紛争解決条項
契約に関する紛争を解決するための方法を定める条項 |
一般条項がわかるようになると得られるメリット |
通知条項
契約に関して必要となる通知の宛先を定める条項 |
全ての一般条項を必ず定めないといけないのか? |
契約期間
契約の有効期間を定める条項 |
|
権利義務の譲渡制限
契約上の権利義務を第三者に譲渡することを制限する条文 |
役に立つ英文契約ライティング講座
①義務を定める方法 | ④shall be required to doとshall be obliged to doの問題点 | ⑦義務違反の場合を表す方法 | |
②権利を定める方法 | ⑤英文契約の条文は能動態で書くとシンプルかつ分かりやすい英文になる! | ||
➂shall be entitled to doとshall be required to do | ⑥第三者に行為をさせるための書き方 |
上記は、本郷塾の5冊目の著書『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』の24~30頁部分です。
英文契約書の修正は、次の3パターンに分類されます。
①権利・義務・責任・保証を追記する→本来定められているべき事項が定められていない場合に、それらを追記する。
②義務・責任を制限する、除く、緩和する→自社に課せられている義務や責任が重くなりすぎないようにする。
➂不明確な文言を明確にする→文言の意味が曖昧だと争いになる。それを避けるには、明確にすればいい!
この3つのパータンをより詳細に分類し、頻出する25パータンについて解説したのが本書です。
本書の詳細は、こちらでご確認できます。
英文契約書をなんとか読めても、自信をもって修正できる人は少ないです。
ぜひ、本書で修正スキルを身につけましょう!きっと、一生モノの力になるはずです!
【私が勉強した参考書】