英文契約で権利(rigyht)と義務(obligation/duty)の色々な書き方
ここまでのところで、次のように感じた読者もいるかもしれません。
「・・・ということは、義務を書きたいときはshall/shall notを使い、権利を書きたいときはmay/be entitled toを使えばよいというようにとてもシンプルなことになる。しかし、私は、何度か英文契約書を読んだことがあるが、必ずしもそのような単純な話ではないように思う。例えば、上で紹介された書き方に当てはまらない次のような複雑な書き方がなされているときもあるではないか!?」
契約当事者+shall be entitled to do
契約当事者+shall be required to do |
こういった疑問は、私が英文契約の勉強を始めたときも感じました。
そして、このことは、初学者の方々を大いに混乱させ、必要以上に「英文契約って難しい!」「やっぱり自分には理解できない!」と思わせることに繋がっていると思います。
そこで、以下、この点について以下に詳しくお答えします。
shall be entitled to doについて
次のような条文を見たことがある読者もいらっしゃるかもしれません。
The Purchaser shall be entitled to terminate this Agreement by giving written notice to the Seller. |
terminate ~を解除する written 書面の
実務では、下線部分のように、shall be entitled to doという記載をよく見かけますが、これは不自然な書き方です。
なぜなら、shallは義務を意味し、be entitled to doは権利を意味するからです。
この英文を、多少不自然だとしても、shallとbe entitled to doの意味を反映するように日本語に訳すと次のようになります。
「買主は、売主に対して、書面の通知を発行することで、本契約を解除することができるようにしなければならない」
これでは買主が解除する義務を負うのか、それとも権利をもっているのかすぐには判断がつきません。
ただ、契約解除というものはいかなるものかを考えると、「解除したいと考えた契約当事者が自らの意思で解除を選択するもの」であって、逆に「自分が解除することを相手から強制されるもの」ではありません。
よって、上の条文でも、結局は買主が契約解除できること=買主に解除する権利がある旨を定めているのだろうと考えらます。
したがって、義務を表すshallは不要で、単に権利を表すbe entitled to doだけで十分です。
The Purchaser shall be is entitled to terminate this Agreement by giving written notice to the Seller.
買主は、売主に対して書面の通知を発行することで、本契約を解除することができる。 |
この点、「shallは未来のことを表す文言である。上の例文でも、買主が契約締結後の未来のどこかの時点で契約を解除できることを示すには、shallが必要なのだ。よって、このshallは余計な文言ではない」と考えられることもあります。
しかし、もしも未来のことに全てshallを付けないといけないのであれば、そもそも契約書に定められる事項は「契約締結後に誰が何をするのか」という未来のことが記載されているのだから、ほぼ全ての条文にshallが定められていないといけないことになります。
しかし、必ずしもそのようにshallが使われているわけではありません。
また、「契約書に書かれていることは基本的には契約締結後である未来のこと」であることは当然なのだから、あえていちいち未来を意味する文言をつける必要は乏しいといえます。
また、「このshallは強調の意味であるから、やはり意味がある」という考えもあるかもしれません。
しかし、契約書では基本的に強調する表現は不要です。
というのも、強調の有無で法的な効果に違いが生じることはほぼないからです。
これは、次のような具体例で考えるとわかりやすいです。
- 「絶対に、必ず、何が何でも、契約締結後10日以内に、買主が売主に対価を支払わなければならない」
- 「買主は売主に契約締結後10日以内に対価を支払わなければければならない」
上の2つの条文の間に法的な意味で違いがあるでしょうか。
契約締結後10日以内に買主が対価を支払わない場合に、買主が契約違反となるのは、どちらの条文の下でも同じです。
①に「絶対に、必ず、何が何でも」と義務が強調されているからといって、それが書かれていない②よりも契約違反と認定されやすくなる、というわけではないし、①の条文の下で違反した場合の方が、売主が買主に支払わなければならない損害賠償金額が大きくなる、ということもありません。
したがって、shall be entitled to doやshall have the right to doなどのように、義務と権利を表す文言が連続している条文では、shallは不要であり、is entitled to doやhave the right to doとしても、または、単にmayに置き換えても問題ないのです。
役に立つ英文契約ライティング講座
①義務を定める方法 | ④shall be required to doとshall be obliged to doの問題点 | ⑦義務違反の場合を表す方法 | |
②権利を定める方法 | ⑤英文契約の条文は能動態で書くとシンプルかつ分かりやすい英文になる! | ||
➂shall be entitled to doとshall be required to do | ⑥第三者に行為をさせるための書き方 |
上記は、本郷塾の5冊目の著書『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』の11~14頁部分です。
英文契約書の修正は、次の3パターンに分類されます。
①権利・義務・責任・保証を追記する→本来定められているべき事項が定められていない場合に、それらを追記する。
②義務・責任を制限する、除く、緩和する→自社に課せられている義務や責任が重くなりすぎないようにする。
➂不明確な文言を明確にする→文言の意味が曖昧だと争いになる。それを避けるには、明確にすればいい!
この3つのパータンをより詳細に分類し、頻出する25パータンについて解説したのが本書です。
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2024年1月から始めたばかりですが、最低でも週一で更新していきますので、ぜひ、ご覧ください。