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本郷塾で学ぶ英文契約

一般条項 定義条項(Definitions)その①

2024/01/05
 

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1. 定義条項とは何か?

 

定義条項とは、その名の通り、定義を定めている条文を指します。

 

一般的には、契約書の第1条に定められていることが多いです。

 

今、手元に何か契約書をお持ちの方は、見てみてください。

 

きっと次のような条文があると思います。

 

「第1条      定義

本契約書では、次の用語は、以下に定義した意味を有するものとする。」

 

そして、例えば秘密保持契約の場合には、

 

「秘密情報とは・・・

目的とは・・・

開示当事者とは・・・

受領当事者とは・・・」

 

といったことが続いて書かれてあるでしょう。

 

 

2. なぜ定義条項が必要なのか?

 

では、どうして定義条項なんてものがあるのでしょうか?

 

「わざわざ用語の定義なんてしなくても、さほど困らないんじゃ・・・」

 

こう思う方もいるかもしれませんね。

 

だって、普段、私たちは、人と話すときに、次のようなことをいちいち言わないですよね?

 

「いい?これからの会話の中で、○○という文言の意味は、△△を指すものと定義するからそのつもりでいてね」

 

こんな風に、わざわざ言葉の定義をしてから会話をする、なんてこと、まずしないですよね?そして、それでもほとんど困らずに話をすることができているはずです。

 

「なら、契約書でも、別に定義しなくてもいいんじゃないか?」

 

いえいえ、決してそうではありません。

 

契約書では、定義はとても重要です。

 

その理由は、概ね以下の3つが考えられます。

 

その①

定義したほうが、用語の意味を正確に理解することができるので、後でその用語の意味について、契約当事者間で、「え?俺はその言葉はAという意味だと思っていたけど?」「いやいや、そんなわけないじゃん。それはBという意味だよ!」という食い違いが生じることを防ぐことができる。

 

例えば、ある契約書の中で、秘密情報とは、「ビジネスまたは技術的な情報で、開示の際に、「秘密」と明示された情報を指す」と定義したとします。

 

この場合、技術的な情報だけではなく、ビジネス的な情報も秘密情報に含まれることが明確になります。

 

また、開示する際に「秘密」と明示されていなければ、それは秘密情報とは扱われない、という点も明確になります。

 

もしも上記のような定義が無ければ、「秘密情報って、具体的には何なの?」という問題が、契約締結後に必ず生じます。

 

その②

定義をしたほうが、契約書を短くすることができ、読みやすくなる。

 

例えば、上記のように「秘密情報」を契約書中で一度定義すれば、他の条文では、常に「秘密情報」という用語を使えば、それは「ビジネスまたは技術的な情報で、開示の際に、「秘密」と明示された情報」を意味することになります。

 

では、もしも定義しなかったらどうなるでしょうか?

 

その場合、「秘密情報」を意味する箇所では、常に、「ビジネスまたは技術的な情報で、開示の際に、「秘密」と明示された情報」という長ったらしい文章を書かなければならなくなります。

 

どう考えても、一度定義しさえすれば短い言葉で済む方が、契約書は短くなり、かつ読みやすくなりますよね?

 

その③

同じことを表す場合には、同じ用語を使うべき、という暗黙の了解があるから。

 

実は、契約書では、次のような暗黙の了解があります。

 

「同じことを表す場合には、同じ用語を使う」

 

これは、別に法律に定められているわけではありません。

 

まあ、経験則上、普通そうだし、また、そのように書くべきだよね?ということです。

 

もしも、同じ契約書中に、異なる表現が使われていれば、それは別のものを意味する、と理解されます。

 

例えば、ある契約書のある条文では、「秘密情報」という用語を使ったとします。

 

ところが、また別の条文では、「機密情報」という用語を使ったとします。

 

秘密情報」と「機密情報」は、なんとなく、「どちらも他人に漏らしてはいけない大事な情報といった意味だろうな。きっとどちらも同じ意味のつもりで書かれたものだろう」と思いますよね?

 

でも、もしも両者が同じ意味を持っているのなら、同じ文言で書かれるべきです。

 

違う用語で書かれているということは、「秘密情報」と「機密情報」は、似ているが、何かが異なっているのだな、と解釈されることになりえます。

 

このため、本当は同じ意味で使っていたのに、異なる意味であると解釈されることになり、その結果、思わぬ効果が生じてしまうリスクがあります。

 

このような事態は、できる限り避けたいですよね。

 

 

3. 定義条項は定めたほうが良いのか?

 

ここまでで、定義条項の必要性をなんとなくでも感じていただけたのではないでしょうか?

 

しかし、これまでいくつかの契約書を読まれたことがある方は、おそらくこう思ったでしょう。

 

「でも、契約書の中には、わざわざ定義条項を契約書の1条を費やして定めていない場合も結構あるけど、あれは良くないのか?」

 

そう。確かにそういう契約書があります。

 

例えば、次のような形の条文です。

 

「受領当事者は、開示当事者から提供された図面、書類、情報、データを含むがこれに限らない、ビジネスまたは技術的な情報で、開示する際に「秘密」と明示された情報(以下、「秘密情報」という)を秘密に保持しなければならない。」

 

この条文では、当事者間の権利義務を定める普通の条文の中で、秘密情報の定義をしています。

 

あえて「定義条項」として1条を設けて定義をしているわけではありません。

 

このスタイルの定義の仕方と、わざわざ「定義条項」を1条設ける場合と、どちらがよいのでしょうか?

 

この点については、原則として、「定義条項」を1条設けて定義する方がよいと言えます。

 

その理由は、「その方が、定義がより正確になされるから」です。

 

どういうことかと言いますと、条文の中で定義をする場合には、どの文言を定義したのか、厳密には判断できないからです。

 

例えば、先ほどの例(下に再度書きました)だと、何を捉えて「秘密情報」と定義したといえるでしょうか?

 

「受領当事者は、開示当事者から提供された図面、書類、情報、データを含むがこれに限らない、ビジネスまたは技術的な情報で、開示する際に「秘密」と明示された情報(以下、「秘密情報」という)を秘密に保持しなければならない。」

 

「秘密情報」とは、

 

「開示当事者から提供された図面、書類、情報、データを含むがこれに限らない、ビジネスまたは技術的な情報で、開示する際に「秘密」と明示された情報」を指すのでしょうか?

 

それとも、

 

「開示する際に「秘密」と明示された情報」のみを指すのでしょうか?

 

「それは当然、前者でしょ!」

 

と思いますよね?

 

私もそう思います。

 

そしてこの場合は、おそらく、裁判所でもそう判断してくれることでしょう。

 

でも、他のより複雑な定義の場合には、文言の修飾関係次第では、「何を定義したのか」を判断するのが本当に難しい場合がありえるのです。

 

一方、もしも、1条を費やして定義する場合は、以下のような形をとります。

 

秘密情報とは、受領当事者が、開示当事者から提供された図面、書類、情報、データを含むがこれに限らない、ビジネスまたは技術的な情報で、開示する際に「秘密」と明示された情報を意味する

 

この場合、何が「秘密情報」と定義されたのかは、疑問の余地はありませんよね?

 

つまり、「○○とは、△△を意味する」という形で定義する場合の方が、より正確に定義をすることができるわけです。

 

そのためでしょうか。契約金額が大きな案件、例えば、プラントを建設するためのEPC契約や、M&A案件の株式買取契約等では、「○○とは、△△を意味する」という形、つまり、わざわざ「定義条項」を1条設けているものがほとんどです。案件が重要である、つまり解釈に食い違いが生じることをできるだけ避けたい案件では、厳密に定義するように契約書をドラフトする人が気を付けているのだと思います。

 

一方、簡単な秘密保持契約や、覚書といったものでは、定義条項をあえて1条設けずに、権利義務を定める条文の中で、言ってみれば、どさくさに紛れて用語の定義をしているものが多いと言えます

 

よって、定義条項を必ず1条費やして設けなければならないわけではありませんが、原則として、定義条項を設ける方が望ましい、といえます。

 

 

4. 定義条項は、契約書の第1条に定めなければならないのか?

 

では、定義条項を定めるとして、それは、第1条に定めなければならないのでしょうか?

 

これは、必ずしもそうではありません。

 

契約書は、第何条に何を定めなければ法的拘束力が認められない、という決まりはありませんから、理論的には、何条に定めてもよいのです。

 

さらにいうと、本来は、契約書は、もっとも重要な内容を最初に持ってくるのが望ましいと言えます。

 

これは文書全般に言えますよね?

 

一番重要なものを、最初に持ってくる。

 

この点、契約書で一番重要なのは、少なくとも、定義条項ではありません。

 

契約当事者の権利義務を定めるのが契約書の主要な目的なのですから、その契約書の中で最も重要となる権利義務の扱いについて第1条に定めるべき、と言えるでしょう。

 

なので、定義条項は、第1条に定めるどころか、本当は最後とか、あるいは添付書類に定めるくらいでも良いはずです。

 

しかし、契約書の作成実務では、第1条に定義条項を設ける、ということが一般的になされております。

 

そのためか、私がこれまで何千通という契約書を見てきた中で、定義条項が第1条以外に定められていたものは、片手で数えられる程度です。

 

というわけで、結論としては、定義条項は、第1条に定めなければならないわけではないが、第1条に定めるのが一般的、ということになります。

 

以上、定義条項の必要性についてのお話しでした。

【一般条項の解説の目次】

一般条項の解説

総論

 

完全合意条項・修正条項

契約に関する事項については、契約書にすべて定められている旨を定める条項

(正確には、口頭証拠排除の準則が適用されやすくするための条文)

および

契約書を修正・変更するための条件を定める条項

定義条項その① 定義条項の必要性

契約書中で使われる文言の意味を定義する条項

無効な部分の分離条項

契約書中のある部分が無効と判断された場合、残りの部分は有効である旨を定める条項

定義条項その② 定義条項の注意点

契約書中で使われる文言の意味を定義する条項

権利放棄条項

ある事項について権利を保持する当事者がその権利を行使しなかった場合でも、その権利自体を放棄したものと解釈されないことを定める条項

準拠法

契約条文を解釈する際に適用する法律を特定するための条項

見出し条項

契約書中の条文のタイトルには法廷拘束力はなく、条文の解釈に何ら影響を及ぼすものではない旨を定める条文

紛争解決条項

契約に関する紛争を解決するための方法を定める条項

一般条項がわかるようになると得られるメリット

通知条項

契約に関して必要となる通知の宛先を定める条項

全ての一般条項を必ず定めないといけないのか?

契約期間

契約の有効期間を定める条項

権利義務の譲渡制限

契約上の権利義務を第三者に譲渡することを制限する条文

役に立つ英文契約ライティング講座

義務を定める方法 ④shall be required to doとshall be obliged to doの問題点 義務違反の場合を表す方法
権利を定める方法 英文契約の条文は能動態で書くとシンプルかつ分かりやすい英文になる!
shall be entitled to doとshall be required to do 第三者に行為をさせるための書き方

上記は、本郷塾の5冊目の著書『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』の24~30頁部分です。

英文契約書の修正は、次の3パターンに分類されます。

①権利・義務・責任・保証を追記する→本来定められているべき事項が定められていない場合に、それらを追記する。

②義務・責任を制限する、除く、緩和する→自社に課せられている義務や責任が重くなりすぎないようにする。

➂不明確な文言を明確にする→文言の意味が曖昧だと争いになる。それを避けるには、明確にすればいい!

この3つのパータンをより詳細に分類し、頻出する25パータンについて解説したのが本書です。

 

本書の詳細は、こちらでご確認できます。

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