英文契約で契約違反の場合を定める方法→fail to/failureを使う!
義務違反とその効果を定める方法
ここまでで、相手に新たに義務を課すことができるようになりました。
次は、「相手がその義務に違反した場合の効果」について定められるようになりましょう。
この義務違反の効果を定める条文は、通常、次のような条文となります。
相手方が~という義務を果たさない場合には①、その相手方は~する責任を負う②。 |
これは、以下の様に2つの部分から成ります。
- もしも相手方が義務に違反した場合には~
- 相手方は~をする責任を負う。
~豆知識~
義務に反することを債務不履行(単に不履行ともいいます)といいます。「債務」とは、簡単にいえば「義務」のことです。そして、「履行」とは、「何かを行う」という意味なので、「不履行」は「行わない、怠る」という意味となります。 |
まず、①について見ていきましょう。
契約当事者が義務を果たさないことを英文にするには、例えば、
If the Seller does not deliver the Product to the Purchaser by the Deadline for Deliver,
のように、単純に「契約当事者+does not+動詞の原形」で表すこともできますが、
英文契約では、does notという文言で義務違反を書き表すことはそう多くはありません。
ではどう書くのかというと、それは次のようにfail to do(~するのを怠る、~しない)を用います。
If the Purchaser fails to pay the Contract Price to the Seller.
買主が売主に対して契約金額を支払うことを怠る場合には、 If the Seller fails to deliver the Product to the Purchaser before the Deadline for Delivery, 売主が買主に対して納期までに製品を引渡すことを怠る場合には、 |
ここで、「もしも~である場合には」という条件を表す表現としては、次のようなものがあります。
- if 主語+動詞
- when 主語+動詞
- where 主語+動詞
- should 主語+動詞
- in the event (that) 主語+動詞
- in the event of 名詞
- in case of 名詞
shouldについて
上記はどれも条件を意味する表現として相互に代替可能ですが、次のように思う人もいるかもしれません。
「4つ目のshould S Vには、「万が一にも、~が起ったら」というニュアンスがあると習ったことがある。つまり、「起こる可能性が低いけれども、もしも起こったら」という意味なので、他の表現とは意味が異なるのではないか?本当に代替可能なのか?例えば、次の2つの例文では、やはり意味が違うのではないか?」
If the Seller fails to deliver the Product to the Purchaser before the Deadline for Delivery, | Should the Seller fail to deliver the Product to the Purchaser before the Deadline for Delivery, |
確かに、小説の中などでは、IfやWhenとShouldとでは、それらのもつニュアンスの違いは重要となるかもしれません。
しかし、契約文書の中では、そのようなニュアンスは意味を持ちません。
なぜなら、契約において問題となるのは、起こる可能性の大小ではなく、それが起った場合にどのような責任が生じるかであるためです。
上の例文でいえば、「まあ、納期に遅れることはあるかもしれないと思っていたが、やはり遅れた」という場合と、「納期に遅れる可能性は万に一つくらいだと思っていたが、それでも遅れた」という場合との間では、結局「納期に遅れた場合には売主が買主に責任を負うことになる」という点について差はありません。
failureを用いて書く場合
ちなみに、上の例文中のfailを名詞の形であるfailureを用いて書き表したい場合には、「~の場合には」を意味する表現としては、後ろに「主語+動詞」を置かなければならないものではなく、名詞または名詞句を置くin the event ofやin case of等を用いて次のように書くことになります。
In the event of the Purchaser’s failure to pay the Contract Price to the Seller in accordance with the payment terms specified in Sub-Clause 5.3 of this Agreement, the Seller may suspend its work.
買主が本契約の第5条3項に定められている支払条件に従って売主に対して契約金額を支払わない場合には、売主は自己の仕事を中断することができる。 |
payment terms 支払条件 specified in ~に定められている
In the event of the Seller’s failure to deliver the Product to the Purchaser before the Deadline for Delivery, the Seller shall pay the Purchaser the liquidated damages in the amount of USD 1,000 for each day after the Deadline for Delivery until the date of the actual delivery of the Product.
売主が納期までに買主に対して製品を引渡さない場合には、売主は買主に対して、納期の後から製品の実際の引渡の日まで、1日あたり1000米ドルの予定された損害賠償金額を支払わなければならない。 |
liquidated damages 予定された損害賠償金額 delivery 引渡
義務違反一般を表す場合
ところで、ここまで義務違反を表す際には、pay=「~を支払う」やdeliver=「~を引渡す」といった具体的な行為をしなかったという形になるように意識して書いてきました。
つまり、if the Purchaser fails to pay the Contract Priceやif the Contractor fails to deliver the Productなどと書いてきました。
いかなる行為を契約当事者が怠ったのかが明確になるので、このように書き表すことは基本的には推奨されます。
しかし、契約書中で、契約相手が「とにかく何らかの契約上の義務に違反した場合」の責任を書き表したい場合には、この具体的な行為を明示する方法は適しません。
このような場合には、具体的な行為を書くのではなく、以下に示すような一般的な義務を「履行する」、「行う」、「遂行する」という意味の表現を使う必要があります。
- perform
- execute
- carry out
- conduct
例えば、次の条文の場合には、秘密保持契約における情報の受領当事者が、何らかの秘密保持義義務(無断で第三者に開示する、目的外使用をする、または秘密情報を返還しないなど)に違反した場合を一括して定めることができます。
When the Receiving Party fails to perform its obligations under this Contract,
受領当事者が、本契約に基づく義務を履行しない場合には、・・・ |
receive ~を受領する
違反を表すその他の表現
他に、契約違反を意味する表現としては、breachがあります。
これを動詞として用いることは頻度としてはそう高くはありませんが、次のように用いることができます。
If the Seller breaches the material obligations under this Contract,
もしも売主が本契約における重大な義務に違反した場合には・・・ |
また、breachは、material breach(重大な違反)のように名詞として用いられることが多いです。
ちなみに、上でfailureは「契約違反」を意味すると紹介しましたが、
「重大な違反」をmaterial failureと書くことはまずありません(少なくとも、私は見たことがないです)。
さらに、violationも「違反」という意味を持ちます。
動詞のviolateについてオクスフォード英英辞典では次のように定義されており、
契約違反の意味もあるようですが、
英文契約の実務では、契約義務違反というよりも、the violation of any applicable laws(適用される法律の違反)のように、「法律」に違反することを表す際に使われることが傾向として多いです。
Violateのオクスフォード英英辞典における意味
to go against or refuse to obey a law, an agreement, etc. 法律、契約、その他に違反すること、またはそれらに従うことを拒否すること |
refuse ~を拒否する obey ~に従う
練習問題(契約上の義務を怠ることを意味する次の和文を、動詞failを用いて英語で書いてみましょう!)
① 買主が契約金額を売主に支払わない場合には
② 買主が信用状(letter of credit)を開設しない場合には ③ 売主が製品を買主に引渡さない場合には ④ ライセンサー(Licensor)が技術情報をライセンシー(Licensee)に提供しない場合には ⑤ 売主が契約上の義務を果たさない場合には ⑥ 買主が上記条文(the foregoing provision)に従わない場合には |
答え
- If the Purchaser fails to pay the Contract Price to the Seller,
- If the Purchaser fails to open the letter of credit,
- If the Seller fails to deliver the Product to the Purchaser,
- If the Licensor fails to provide the Technical Information to the Licensee,
- If the Seller fails to perform its obligation under the Contract,
- If the Purchase fails to comply with the foregoing provision,
役に立つ英文契約ライティング講座
①義務を定める方法 | ④shall be required to doとshall be obliged to doの問題点 | ⑦義務違反の場合を表す方法 | |
②権利を定める方法 | ⑤英文契約の条文は能動態で書くとシンプルかつ分かりやすい英文になる! | ||
➂shall be entitled to doとshall be required to do | ⑥第三者に行為をさせるための書き方 |
上記は、本郷塾の5冊目の著書『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』の24~30頁部分です。
英文契約書の修正は、次の3パターンに分類されます。
①権利・義務・責任・保証を追記する→本来定められているべき事項が定められていない場合に、それらを追記する。
②義務・責任を制限する、除く、緩和する→自社に課せられている義務や責任が重くなりすぎないようにする。
➂不明確な文言を明確にする→文言の意味が曖昧だと争いになる。それを避けるには、明確にすればいい!
この3つのパータンをより詳細に分類し、頻出する25パータンについて解説したのが本書です。
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