常に全ての一般条項を契約書に定めなければならない?
1. 実務における一般条項の扱い
「あらゆる契約書に、全ての一般条項を常に定めないといけないのか?」
これは、私が企業法務の仕事に関わりだしてすぐに抱いた疑問でした。
この点、その後様々な契約書を実際に検討していく中で分かったのは、次の事実です。
「いかなる一般条項を契約書に定めるかは、契約書をドラフトする人が、大して深く考えずに適当に決めている」ということです。
例えば、ある契約書には、「分離条項」が定められていなかったり、またある契約書には、「不可抗力条項」が定められていなかったり、また別の契約書には、「権利放棄条項」が定められていなかったり・・・ということが実際にはあるのです。
一般条項は、原則としては、全て契約書に定めたほうがよいでしょう。
しかし、一般条項以外のその案件特有の事項を定めている個別条項と比較して、その重要性が低いと一般にはとらえられているためか、そこまで厳密に「全ての一般条項を必ず定めなければならない!」という扱いが実務ではなされていないようです。
なので、みなさんも、もしもお手元にある何らかの契約書を見てみると、このブログで紹介した一般条項のいくつかが定められていない、ということもあるかと思います。
それは、その契約書をドラフトした人が、「今回はこの一般条項は定めなくてもいいや」と考えたか、あるいは、「単に定め忘れただけ」ということが理由でしょう。
「え?契約書なのにそんないい加減なことでいいの?」
こう思った方もいるかと思います。
まあ、実務では、そういうものなんです。
そして、一般条項があまり定められていない場合でも、何の問題も起きないことの方が多いのです。
なので、「一般条項は全て常に定めなければならないか?」という疑問に対しては、「それは、定めたほうがいいです。定めるのが原則です。でも、実際は、常に全部の契約書に全部の一般条項がもれなく定められていないこともあり、そしてその場合でも、ほとんど困ったことになることはない」ということになります。
2. 大事な契約ほど一般条項がしっかり定められている
一方で、契約金額が大きな案件の契約書では、このブログで紹介したような一般条項は全て定められているのが通常です。
例えば、契約金額が数百億円以上するプラント建設関係の契約や、企業買収取引、つまりM&Aにおける契約書などが上記に当たります。
これらの契約では、両当事者が、「重要な案件だ」と考えているため、契約書も時間をかけて作り込みます。
「些細なことが原因で、後で大きなトラブルに発展したら困る!」という気持ちがお互いに強いのです。
そのため、契約書は、できるだけスキのないものを作ろうとお互いに注意するのです。
また、こういう大きな案件は、お互いに外部の法律事務所に契約書のドラフトや検討を依頼することが多いです。そのために法律事務所に支払う金額も多額のものになります。
そうすると、法律事務所の方でも、「契約書のドラフトやチェックに落ち度があってはいけない!」と強く思い、一般条項はしっかり入れる、というようにすると思います。
結果として、重要な案件の契約書ほど、一般条項がしっかりと定められることになります。
3. 必ず定めておくべき一般条項は何か?
こうなると、「相手方から、一部の一般条項が定められていない契約書が送付されてきた場合、どのような態度をとればよいのか?」と迷ってしまうかと思います。
とにかく全ての一般条項をズラッと追記して相手に返却するべきか?
それとも、この案件はさほど重要な案件じゃないし・・・と考えて、このままでよしとするか?
この点、追記できるなら、ちゃんと一般条項をズラッと追記するべきでしょう。
しかし、おそらく、これも実務では、「本当に必要な条文の修正・追記以外してくれるな」という要求が相手方から来ることもありますよね。そして、あなた自身も、上司から契約を早期に締結するように急かされることもあるでしょう。
それでも、契約担当者としては、「一般条項くらい追記してもいいでしょ?」と言いたいところです。一般条項は、一方の当事者だけに有利になるようなものではなく、両当事者のためになるものですから。しかし、それでも、あえて、「本当に重要な条文の変更のみに限定してくれ」と相手から言われて、とてもあらゆる一般条項の追記を認めてもらえなさそうな場合にはどうしたらよいでしょうか?
つまり、「何が何でも、絶対に定めておくべき一般条項とは何か?」と聞かれたら、私は次の条文だと考えます。
・準拠法
・秘密保持
上記以外ももちろん定められるべきです。
しかし、強いて最低限に絞るなら、上記です。
なぜなら、上記の一般条項が定められていない契約書において、当事者間で何か問題が起きたら、その争いは、解決することがほぼ必ず、著しく困難になると思われるからです。
「完全合意条項」がなければ、争いの際には、契約書以外の約束や合意が証拠として採用され得ます。
「準拠法」が無ければ、何の法律に基づいて契約書を解釈するべきかについても争いが生じます。
「紛争解決方法」が定められていなければ、どこかの国での裁判で解決となる可能性が高いです。しかし、それではどこの裁判所で扱われるかその時にならないとわからないことになりますし、仮に相手方当事者の国で裁判がなされればこちらに不利になる可能性が高いです。もしも裁判所で公平な判断が下されても、それを執行することが困難である場合もあります。
「秘密保持」が定められていなければ、大事な情報が第三者に開示されてしまうかもしれません。
このように、完全合意条項・準拠法・紛争解決条項・秘密保持が定められていない場合には、もしも契約締結後に当事者間で何か争いが生じた場合には、お互いに非常に困った状況に陥るリスクが極めて高いです。そのため、最低限、上記4つは定めることをお勧めします(繰り返しになりますが、原則は、全ての一般条項を定めるべきですが、実務では、相手のあることですし、スピードの時代に時間的制約もあることから、上記のようなお話をしました)。
【一般条項の解説の目次】
総論
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完全合意条項・修正条項
契約に関する事項については、契約書にすべて定められている旨を定める条項 (正確には、口頭証拠排除の準則が適用されやすくするための条文) および 契約書を修正・変更するための条件を定める条項 |
契約書中で使われる文言の意味を定義する条項 |
無効な部分の分離条項
契約書中のある部分が無効と判断された場合、残りの部分は有効である旨を定める条項 |
定義条項その② 定義条項の注意点
契約書中で使われる文言の意味を定義する条項 |
権利放棄条項
ある事項について権利を保持する当事者がその権利を行使しなかった場合でも、その権利自体を放棄したものと解釈されないことを定める条項 |
準拠法
契約条文を解釈する際に適用する法律を特定するための条項 |
見出し条項
契約書中の条文のタイトルには法廷拘束力はなく、条文の解釈に何ら影響を及ぼすものではない旨を定める条文 |
紛争解決条項
契約に関する紛争を解決するための方法を定める条項 |
一般条項がわかるようになると得られるメリット |
通知条項
契約に関して必要となる通知の宛先を定める条項 |
全ての一般条項を必ず定めないといけないのか? |
契約期間
契約の有効期間を定める条項 |
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権利義務の譲渡制限
契約上の権利義務を第三者に譲渡することを制限する条文 |
役に立つ英文契約ライティング講座
①義務を定める方法 | ④shall be required to doとshall be obliged to doの問題点 | ⑦義務違反の場合を表す方法 | |
②権利を定める方法 | ⑤英文契約の条文は能動態で書くとシンプルかつ分かりやすい英文になる! | ||
➂shall be entitled to doとshall be required to do | ⑥第三者に行為をさせるための書き方 |
上記は、本郷塾の5冊目の著書『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』の24~30頁部分です。
英文契約書の修正は、次の3パターンに分類されます。
①権利・義務・責任・保証を追記する→本来定められているべき事項が定められていない場合に、それらを追記する。
②義務・責任を制限する、除く、緩和する→自社に課せられている義務や責任が重くなりすぎないようにする。
➂不明確な文言を明確にする→文言の意味が曖昧だと争いになる。それを避けるには、明確にすればいい!
この3つのパータンをより詳細に分類し、頻出する25パータンについて解説したのが本書です。
本書の詳細は、こちらでご確認できます。
英文契約書をなんとか読めても、自信をもって修正できる人は少ないです。
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【私が勉強した参考書】