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『英文契約書作成・交渉の心構え』~ビジネス法務8月号掲載内容~

   

『ビジネス法務』2019年8月号に掲載された本郷塾の記事を以下に掲載します。英文契約の交渉において持つべき心構えを事例を用いて解説するものです。

 

日露戦争にて陸でも海でも優勢だった日本が講和を結ぼうとしたのは、実はもう日本には余力が残されていなかったからだ。1ルーブルも賠償金を得られなかったポーツマス条約に当時の日本国民は怒り狂ったが、朝鮮半島からロシアの脅威を排除し、樺太の南半分を獲得することに成功した全権大使小村寿太郎の手腕は評価されるべきだろう。彼がおそらく意識したと思われる交渉方法を契約交渉に応用すべく、事例を交えて紹介したい。

 

I 「その取引でもっとも得たいモノ、避けたい事態は何か?」をまず確認する

契約交渉の目的の最たるものは、「その取引で獲得したい事項を間違いなく獲得し、避けたい事態を確実に避けられるような仕組みの契約書にすること」である。売買契約を例にとると、売主が是非とも獲得したいものは何か。それは利益である。製品やサービスを提供する代わりにその対価を得て、そこから製造費や、やむなく負うことになる賠償責任を除いた結果、自分たちが想定していた利益がなるべく残るような建付けにすることが最も重要だ。よって、売主が重点的に検討すべきは、①「適切に対価を得られるようになっているのか」そして、②「不当に損害賠償責任を負担させられることになっていないか」という点である。

この理解なく契約交渉を行うことは、枝葉末節の議論に時間を費やすことになり、更には、本来最も注意すべき事項を見逃す結果にもなる。逆に「取引で確保したいもの」を明確に意識できていれば、多くの条項の中で譲歩できる事項と死守せねばならない事項の判別も付きやすいその結果、死守したい事項を勝ち取るために、他の事項を譲歩する形で契約締結に至るという駆け引きもしやすくなるだろう。

この「もっとも確保したい事項は何か?」を意識することの重要性を示す事例を以下に紹介する。

2016年12月27日、当時東芝の子会社であった原子炉エンジニアリング会社のウェスチングハウス(以下、「WEC」)が米国で手掛ける原発建設案件絡みで、WECが数千億円規模の損失を計上することになったと報道された(この損失額は後に約7000億円に上ることがわかった)。この巨額損失は、WECが原発建設案件を共同受注した米国のエンジニアリング会社であるストーン・アンド・ウェブスター社(以下、「S&W」)をその親会社であるCB&Iから買収した際に、WECが想定していなかった負債をS&Wが抱えていたため、その負債分をWECが丸ごと引き受けることになったのが原因であった。

この報道を聞いたM&Aの経験がある人は、おそらくこう思っただろう。「それは、CB&Iのレプワラ違反ではないのか?」と。

レプワラとは、representation and warrantyの略で、日本語では表明保証と呼ぶ。これは、企業買収の際に、売主が買主に対し、「買収対象企業がいかなる財務状態にあるか」を保証するものである。企業買収では、買収対象企業の財務状態を基に買収価格を決めるので、もしもこの点に虚偽があることが後日判明した場合には、レプワラ違反として、買主は売主に損害賠償を請求できるというのが原則である。

実際、WECとCB&Iはこの点についてデラウェア州最高裁判所で争った。まず、レプワラの有効期限についての以下の条文を見てみよう。

10.1 Survival Period.

none of the representations, warranties, covenants…or agreements set forth in this Agreement or any in any certificate, statement or instrument delivered pursuant to this Agreement, including any rights arising out of any breach of such representations, warranties, covenants or agreements, shall survive the Closing (and there shall be no liability for monetary damages after the Closing in respect thereof);…

本契約に定められているいかなる表明、保証、誓約・・・もしくは合意、または本契約に従って提供される証明書、声明書、もしくは証書中の記載も、かかる表明、保証、誓約、または合意の違反から生じる権利も含めてクロージング日でその効力を失う(また、それらの違反に関し、クロージング日以降に金銭的な損害賠償をする責任を負わない)。

一般に買収契約では、契約締結時から数ケ月後にクロージング日が到来するのが通常であるが、CB&IによるWECへのレプワラは、原則としてそのクロージング時に満了することが定められていた。そして、WECがCB&Iによるレプワラ違反を主張したのはクロージング後だったので、CB&Iは、既にレプワラの有効期限が切れているため、WECの主張は不当だと述べた。一方、WECは買収契約中の以下の条文を根拠に「原則としてCB&Iのレプワラはクロージング時で切れるが、しかし、最終買取金額(Final Purchase Price)に関わるレプワラ、つまり、CB&IによるS&Wの財務状態のレプワラについてはクロージング時を超えて有効だ」と反論した。

10.3 Related Matters.

(a) This Article X shall not (i) operate to interfere with or impede the operation of the provisions of Section 1.4(c) providing for the resolution of certain disputes relating to the Final Purchase Price between the parties and/or by an Independent Auditor or (ii)…

第10条は、当事者間、または独立監査人による最終買取価格に関する紛争の解決について定めている1.4条(c)の適用を妨げるものではない。(※Section 1.4(c)とは、最終買取価格の算出方法を具体的に定める条文である。)

デラウェア州最高裁は、WECの主張は不当だと判断した。その理由は、「買収取引全体の趣旨に鑑み、上記条文をWECが主張するように解釈すべきではない」ということだった。

さて、この判断についてどう捉えるべきか。確かにWECが示した条文は、最終買取金額の決定に関わるレプワラは例外的にクロージング後も有効だと読めそうだ。実際、最高裁の前のデラウェア州衡平法裁判所では、WECの主張が認められていた(読者の中にも、WECの主張が正しいと感じる人もいると推察する)。

ただ、ここで意識したいのは、この条文はWECにとっては極めて重要度が高いものだった、ということだ。つまり、S&Wの財務状態が買収価格の基準となるのだから、その点に虚偽や誤りがある場合には、その責任を間違いなく売主に取らせることができるようになっているかは、WECの最大関心事でなければならない。とすればWECは、このレプワラの有効期間の条文を「他の解釈の余地がないほど明確に」定めておくべきだった。最高裁が「買収取引全体の趣旨に鑑み・・・」などと考える余地がないほど明確にだ。

WECが、「この取引の最重要事項は何か?」と考えて契約書を検討したならば、おそらく、上記第10条3項の不明確さに気が付いただろう。そうすれば、CB&Iに修正を提案できたはずだ。そこでもしもCB&IがWECの懸念に応えて修正しようとしなければ、それはつまり、CB&Iは最初から自身のレプワラ違反について、クロージング後には問題にされないようにしたいと考えている、ということだとわかる。その場合にWECのとるべき道は、①買収契約を締結しない、または②このまま買収契約は締結するが、S&Wの財務状態の調査はクロージングまでに何が何でも終わらせる、という実務上の対応で処理するかのどちらかだ。WECはこの点、最重要事項を定める条文の明確さについて懸念を抱かずに契約を締結し、そのままクロージングを迎え、その後気が付いたときには、本来請求できた権利を喪失していた。(もっとも、私はこの買収における失敗がなくても、ウェスチングハウスは結局同様の結果に陥った可能性が高いと考えているが、それは別の機会に述べたい)。

 

II 「なぜその条文は一般的になったのか?」を常に意識して理解する

自社が売主や請負者である場合の製造物供給契約に以下のような条文が定められていた場合、このままで良しとするべきだろうか。

The Supplier shall not be liable to the Purchaser for any indirect, special, consequential or incidental damage which may be suffered by the Purchaser in connection with or under this Contract.

供給者は、買主に対し、本契約に関し、または本契約に基づき買主が被る間接損害、特別損害、結果損害、または付随的損害について責任を負わない。

これは、一般には「間接損害の免責条項」と呼ばれる。確かに条文中にindirect damage(間接損害)について売主が責任を問われない旨が定められており、このままでも問題なさそうだ。しかし、念のために一般的なこの種の条文を見ると、loss of profit(逸失利益)についても売主が免責されていることに気づくはずだ。では、loss of profitを追記するべきか。ここで、買主に対して説得力を持って追記を主張するためには、loss of profitを加える場合と加えない場合とで差が出るのか否かを知らなければならない。差がないのであれば、わざわざ追記する必要はなく、買主からもそのように返答されるだろう。

この点、indirect, special, consequential damageの3つは同種のものだが、loss of profitはこれらと必ずしも同じではない。例えば、納入した製品に保証期間中に欠陥が発見され、その間に買主側がその製品を使用または運転できないために被った損害をloss of profit(逸失利益)というが、これがindirect damageやspecial damageに当たるかは、その時の事情による。loss of profitは場合によってはdirect damageに当たる場合もあり、その場合には、いくらindirect damageについて免責されることが契約上明記されていたとしても、loss of profitについて売主が責任を負わない旨が明記されていない限り、売主はloss of profitを負担しなければならなくなる。loss of profitは一般に巨額になり得るので、loss of profitを明記するか否かは売主にとって大きな問題となる。

契約チェックの際に、一般的な条文と目の前にある契約書を比較することはもちろん有益だ。しかし、それにとどまらず、ぜひ、「なぜこれが一般的だと位置づけられるようになったのか?」を日頃から考える癖をつけよう。そうすれば、相手を納得させられるだけの理由を示すことができるようになる。

 

III 相手の懸念を理解すれば代替案が見えてくる

請負契約、特に海外でプラントを建設する契約などでは、納期に遅れたらliquidated damages(以下、「LD」)を支払うように定められていることが一般的だ。これは日本の民法でいえば、420条の「予定された損害賠償金額」に当たる。そしてときどき、これに加えて「中間マイルストーンLD」が定められることもある。これが定められていると、請負者は、工程上の中間のある地点の達成が計画よりも遅れた場合に注文者に対してLDを支払わなければならなくなる。通常、請負者はこの条文は受け入れたくない。賠償しなければならなくなる可能性をなるべく減らしたいのだ。では、中間マイルストーンLDを契約書に定めるように求められたら、請負者はどのように交渉すべきだろうか?

この点、そもそも発注者は、なぜ納期LDに加えて中間マイルストーンLDを課そうとするのだろう?そんなにLDを得たいのか?そうではない。発注者は、単に「納期を厳守して欲しい」のだ。発注者は、納期後すみやかににプラントを運転して利益を得たいと考えている。納期に遅れると運転開始が遅れるので、その分利益を得始めるのが遅れる。これを避けるために、請負者にプレッシャーを与えたいのだ。

そうだとすれば、発注者の懸念を解決する手段は、中間マイルストーンLDを定めることが唯一のものではないだろう。スケジュールの進捗状況を都度発注者がモニタリングできるようにする、または、以下の例文のように、請負者が一旦中間マイルストーンLDを支払うも、最終的に納期に間に合った場合にはそれを請負者に返還させるようにしたほうが、請負者はより納期に間に合うように努力するだろう。

If the Contractor achieves the Taking Over by the Deadline, the Owner shall pay to the Contractor the amount paid by the Contractor as the liquidated damages for delay in the intermediate milestone.

請負者が納期に間に合った場合には、注文者は中間マイルストーンLDとして請負者が支払った金額を請負者に支払わなければならない。

 

つまり、相手の懸念を理解すれば、こちらからその懸念を解消させる代替案を示せるのだ。相手は「その条文を定めたい」のではない。その条文を定めることで「守られる利益」を得たいのだ。これは、ある製品を我々が欲っするのは、その製品そのものを所有したいからではなく、その製品から得られる効果を欲しているのに似ている。ぜひ、交渉に行き詰まりを感じたら、相手に率直に問いかけよう。「あなた方は、何を懸念しているのですか?」と。そうすれば、道が開けるかもしれない。

 

IV 「どうしても契約したい」と思った方が譲歩させられる

三菱重工(以下、「MHI」)がサザンカリフォルニアエジソン社(以下、「Edison」)に対して納入した原発向け取替用蒸気発生器に不具合があったことがきっかけで、最終的にEdisonは原子力発電所2基を廃炉にすることになった。EdisonはMHIに約7000億円超の損害賠償請求をし、両者仲裁で争った。

結果は、廃炉になったのは、EdisonがMHIの修理提案を受け入れず、自ら廃炉を選択したためであるとして、廃炉とMHIの瑕疵との間に因果関係はないとした。これにより、Edisonによる損害賠償請求の大部分は否定された。ただ、仮にここに因果関係が認められた場合であっても、MHIは140億円程度の賠償責任を負うにとどまったことだろう。その理由は、MHIとEdison間の契約書には、以下の条文が定められていたからだ。

…Supplier’s liability to…Edison under the Purchase Order shall be limited to an amount equal to one hundred (100%) percent of the Purchase Order Price;…

本契約に基づくエジソン社への供給者(MHI)の責任は、購入金額の100%を上限とする。

MHIとEdison間の仲裁結果を知った世界中のプラントオーナーは、この結果に相当な脅威を感じたことだろう。というのも、MHIとEdison間の仲裁ではこの責任上限条項の有効性について検討され、その結果、どんなに巨額の損害が注文者に生じていたとしても、極めて例外的な場合を除き、この種の条項は有効だと判断される、つまり請負者は上限金額以上については文字通り免責されることを注文者は改めて認識させられたからだ。これを受け、もしかするとプラント業界では、この責任上限条項について、例えば①削除、または②責任上限額を引き上げる、といった動きを見せるかもしれない。もしもそのような動きをプラントオーナーが見せた場合、日系企業の請負業者はどのようなスタンスで臨むべきだろうか?この点、私は次のように考える。「そのような案件は受けない」だ。

交渉は、「何が何でも契約を締結したい!」と考えている方が負ける。「そんなに欲しいなら、これものめ、あれものめ」と言われる。そうしてどんどん譲歩していった結果、冒頭で示した、「絶対に避けたい事態」を避けられないようになってしまう。このように不当に譲歩する企業が出てくると、業界における「普通」が変わってしまう恐れもある。つまり、請負者に不利な契約内容が業界の一般的なものとなってしまう。これにより被害を受けるのは、実際に譲歩した1社のみならず、業界全体に広がり得る。その結果、「今回だけの譲歩」のつもりが、その後も繰り返し譲歩しなければ受注できなくなり得る。

もちろん、契約交渉で相手がこちらの主張を一向に認めない場合、こちらはそれにより生じるリスクを契約外、つまり実務上の対策でカバーできないかを考える必要に迫られる。こんなとき、契約を締結したいばかりに、できもしない対策を掲げ、それによってリスクを手当てできたことにしてしまいたい、と思うこともあるだろう。

そしてこれは、一時的には契約締結という成果が得られるので、会社の役員などの決定権を持つ人達にとっても魅力的に聞こえるかもしれない。しかし、それは決して自社のためにはならず、将来巨大な損失を生じさせることになり得ることにくれぐれも注意して欲しい。

 

V 最後に

冒頭で触れたロシアとの交渉において、小村寿太郎は①日本として勝ち取るべき最低ラインを常に意識し、②実質的な理由を示した上で日本の要求を粘り強く示し、③ロシアの懸念に真摯に耳を傾けた上で反論を行い、更には④交渉決裂覚悟で南樺太割譲に拘り続けた。その末にようやくポーツマス講和条約の締結に至った。

 

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