対価をとりっパグれることを防ぐには(その①)
今回は、「支払条件」について解説いたします。
まず、以下の条文をご覧ください。
「買主は、売主に対して、製品の引き渡しの対価として、売主が別途指定する口座に100万米ドルを送金しなければならない」
なんとなく、売買契約によくありそうな支払条件ですよね。
ここで問題です。
売買契約の支払条件として、これで十分と言えるでしょうか?
「・・・え?別に問題ないでしょ。金額も明記されているし、通貨も特定されているし、それに、送金口座も指定されているし。」
本当にそう言ってしまってよいですか?
では、買主は、いつまでに支払いをしなければならないのでしょうか?
今の記載だと、この点が分かりませんよね。
そうなると、買主はきっと、自分にとって一番都合がいいタイミングで対価を支払うことになります。それは、完全な後払いでしょう。
それでよいならこのままでも良いかもしれませんが、仮に、いくらか前払い金を欲しいとか、分割払いを望むのであれば、そのように明記する必要があります。
また、支払期日までの支払がなされない場合、売主には遅延利息が損害として生じます。そこで、遅延利息をいくらにするかも明記したほうがよいでしょう。
では、支払時期と遅延利息を定めたとしたら、それで支払条件としては十分でしょうか?
ここで考えていただきたいのは、「もしも、支払時期に買主が対価を支払わない場合、どうなるのか?」という点です。
「え?それはもちろん、買主には遅延利息の損害賠償を負担する義務が生じるでしょ。でも、その点はさっき既に定めることにしたんだから、もうこれで十分では?」
では、「遅延利息も何も一切支払わない!」と買主が言い始めたらどうなりますか?
「その場合は・・・紛争解決条項にしたがって、裁判なり、仲裁にかけていくことになるよ。そこで勝てば、対価も遅延利息分も支払ってもらえることになるよね」
確かに、一応はそういえます。でも、もしも買主が、対価と遅延利息分を支払うだけのお金を持っていなかったらどうなりますか?
つまり、「うちにはもうお金がないので、一円も出せません!」と開き直りだしたらどうなるでしょうか?
この場合、買主の存在する国の裁判所から買主に対して強制執行をしてもらっても、何も差し押さえる資産がないので、換金することができなくなります。この場合、どうしますか?
「・・・買主の会社が存在する国が代わりに支払ってくれるんじゃないの?」
いえいえ、これは、買主と売主間の売買契約なので、買主が対価を支払えなくなっても、国が肩代わりしてくれるなんてことはないです。「当事者間で何とかしてください」と言うだけです。そして、もしも買主が倒産などに陥ったら、もう対価を回収できなくなるのです。
つまり、一見問題なさそうに見える支払い条件、具体的には、上記の様に「金額、通貨、支払い時期、遅延利息の利率」などを明記していても、対価をとりっパグれるリスクは残るのです。
このようなリスクをなるべく回避するためにまず重要なのは、以下です。
「買主は、対価を支払えるだけの資産を持っているのか、を十分に確認する」
きっと、営業の方にとっては当たり前のことでしょう。
また、売買契約の対価が少額の場合には、さほど問題にならないことでしょう。
しかし、買主の会社の規模から見たときにその対価が相対的に大きい場合には、「支払えなくなる」ということも起きえます。
なので、「買主は、当然、製品を納めれば、対価を支払ってくれるはずだ」という決めつけをしないほうがよいと思います。
多くの買主は当然、対価を支払おうと思っているはずですが、事業がうまくいかなくなった結果、どうしても支払えなくなる、という場合はあり得ます。
よって、特に「その買主との取引は初めてである」という場合の信用調査は、十分にするようにしましょう(どの会社でもされているとは思いますが・・・)。
まちがっても、早く契約を締結したいからといって、よく調べてもいないのに、信用調査のフォーマットに、片っ端からOKのチェックを入れていく、ということだけはしないようにしましょう。
そんなことをして、万が一、後になって対価を回収できない事態に陥ったら、あなたがその責任を社内で追求されてしまうことになりかねません。
案件で一番重要なことは、契約を締結することよりも、対価を得ることです。
次回は、「支払条件」を工夫することで、海外企業との売買契約・請負契約における対価のとりっぱぐれを防ぐ方法についてみていきたいと思います。
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第一章 絶対に押さえておきたい英単語
第二章 英文契約の条文の基本的な型を構成する英単語
第三章 秘密保持契約の英単語
第四章 売買・業務委託契約の英単語
第五章 販売店契約の英単語
第六章 共同研究契約の英単語
第七章 ライセンス契約の英単語
第八章 合弁契約の英単語
第九章 M&A契約の英単語
第十章 一般条項に関する英単語
第十一章 その他の英単語
なお、どの分野の契約書を読む場合でも、まずは第一章~第4章の英単語を集中的に身につけることをお勧めします。これらの章に掲載されている英単語は、第五章~第九章までのどの種類の契約書にも頻出する英単語だからです。
2.同義語・類義語・反義語の英単語を近くに配置しています。
そのため、それらをまとめて覚えることができます。
バラバラに覚えようとするよりも、記憶に定着しやすいはずです。
3.単語の単純な意味を知っているだけでは業務を行う上では十分とはいえない50を超える単語について、重要事項として解説をしています(P162以降をご参照)。
例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。