英文契約の条文を書く際に知っておくと役立つ12個のルール
2017/06/29

英文契約のドラフトの練習 第1回です。
では、早速、英文契約における条文を書く際に覚えておくと役に立つと私が考える12個のルールを以下に列挙します。
英文契約を修正するときに、これを常に意識するようにしてみてください。
1. 同じことを意味するなら、できるだけ短く、かつ端的に表現できる文章を心がける。
2. 条文は、可能な限り、当事者の権利ではなく、義務を中心に書く。
3. 不要なshallは削除する。
4. 条文は、可能な限り、受動態ではなく、能動態で書く。
5. 主語+動詞+目的語は、できる限り一塊になるように書く。
6. 可能な限り、名詞よりも動詞で表現しようとする。
7. 可能な限り、There is/areとIt is…to~の構文は使わない。
8. ofをなるべく使わないようにする。
9. hereを適切に使用して、なるべく短い文章になるように心がける。
10. ~に定められている・~に従ってという表現を覚える。
11. 「原則を示す表現」と「例外を示す表現」を覚える。
12. 英文契約における条文の基本形を理解する。
いきなり12個列挙してみましたが、いかがでしょうか。これを読んで、「本当にこんなんで英文契約書の条文が書けるようになるの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
もちろん、この12個を意識しただけでは、英文契約の条文をいきなり書けるようになるわけではありません。しかし、この指針があるかどうかで、全然違ってくると思います。具体的には、「迷い」が減ると思います。
ある事柄を文章にしようとすると、その表現方法は無限にあるように感じてしまいます。その選択肢が無限にある、という状態は、特に外国語で文章を書く際には、とても不安にさせます。
「こういう文章は、自然な英語なのだろうか?」
「もしかすると、こちらの方が条文らしい表現になるのではないか?」
こんなことを思うようになると、怖くて外国語で条文を書くことがままならない状態になってしまうのではないでしょうか。
ここで、上記に挙げた12個のルールは、そのような悩みや不安を大分解消してくれると思います。
例
例えば、2番目のルールである「条文は、可能な限り、当事者の権利ではなく、義務を中心に書く」ですが、これに従うと決めた瞬間に、その条文で使用する動詞が自然と決まります。
そもそも契約書とは、「当事者間の権利義務を定めることを主たる目的とする文書」です。もちろん、当事者間の権利義務以外のことも契約書には定められています。しかし、8割以上は当事者の権利義務でしょう。
ここで、権利と義務は表裏一体の関係にあります。例えば、売買契約において、買主には「代金支払い義務」があります。一方、売主の権利の観点からみると、「代金回収の権利がある」ということになります。つまり、この対価の支払いについての条文は、「買主の義務」として定めることも、「売主の権利」として定めることもできるわけです。このどちらがよいのか迷うこともあるかと思いますが、答えは、「できる限り義務を中心に書くべき」です。
そうすると、この条文で使う動詞は、「pay」で決まりでしょう。もう少し書くと、The Purchaser shall pay…というところまで、ほぼ自動的に条文を書くことができます。そして、金額を目的語に書いて、それは「契約書の第X条に定められている支払い条件に従って支払われる」と書きたいなら、以下のようになります。
The Purchaser shall pay the Contract Price to the Seller pursuant to the payment conditions set forth in the Article X hereof.
pursuant toやset forth in、そしてhereofと言った表現については、おいおいご説明させていただきたいと思いますが、このように、「義務を中心にして書く」という原則を持つと、主語と動詞がほぼ自動的に決まり、その後の目的語も自然と決まっていく、という流れができます。
2番目のルール以外のルールも、英文契約を自分で書く際に頻繁に私たちがもつ悩みや不安を解消するのに役立つものばかりだと私は思います。
次回以降は、この12個のルールについて、「どうしてそのルールに従うべきなのか」という点を含めて、具体例を用いながら解説していきたいと思います。