対価をとりっパグれることを防ぐには(その③)
今回は、letter of credit、略してLCについて解説します。
まず、海外企業との売買契約・請負契約の支払に関する両者の懸念を以下で整理しておきます。
売主の懸念:
契約締結時点で、買主が製品の対価を支払えるだけの金額を確保しておきたい。
前払金を支払ってもらうことにしたとしても、製品を作って引き渡す時点で買主の資産がなくなってしまっていたら、残りの対価を得られなくなるリスクがある。さらに、その製品を他社に売れないような製品の場合、結局残りの対価は回収できずに終わる。
買主の懸念:
製品の対価を支払うのは、製品の引き渡し時にしたい。
一定程度の前払金を契約締結直後に支払うのは問題ないが、その割合はせいぜい10~20%程度としたい。それ以上の金額を先に支払うことにすると、製品の引渡し前に売主が倒産した場合には、製品の引き渡しを受けられなくなり、かつ、既に支払った前払金の返還もされなくなるリスクがある。
こうしてみると、両者の懸念を同時に解決する方法はないようにも思えます。
どちらかを立てると、もう一方が立たない、そういう関係にあるように思えます。
しかし、これを解決してくれるのが、letter of credit(「LC」、信用状)です。
LCとは、簡単に言うと、一定の条件が満たされれば、銀行が買主の代わりに売主に対して、対価を支払うことを保証してくれるもの、です。
つまり、LCを銀行が売主に発行してくれれば、その後たとえ買主の資金繰りが悪化してしまい、対価を支払えない状態に陥っても、そのLC発行銀行が売主に対して対価を支払ってくれることになります。
LC発行銀行は、「確かに買主がその対価を支払うに足りる資産を持っている」と考えた場合にのみ、LCを売主に対して発行します。これにより、売主としては、そのLCを契約締結直後に得ることができれば、あとは安心して製品の製造を開始できます。もう「買主に対価を支払うお金がない」という理由で対価をとりっパグれる可能性はまずないと考えられるからです(銀行が支払ってくれますので)。
一方、買主としては、LC発行銀行が売主に対して対価を支払う条件を、「製品の引き渡しが買主になされたこと」としておけば、製品が引き渡されもしないのに、対価が売主に支払われることは起きません。
このようにして、LCを使うことで、買主も売主も、両者がhappyに、安心して取引を進めることができるようになるのです。
LCを使う際の注意点
「よし!LCを使えば対価の回収リスクを無くすことができるんだな!」
と思われたかたもいらっしゃることでしょう。
しかし、だからこそ、注意していただきたい点があります。
それは、「LCの売主への発行時期」です。
LCの売主への発行時期は、いつでなければならないか?
「え?いつでもいいんじゃない?要は、LCを利用することが大事なんでしょ?」
いえいえ、一番重要なのは、LCの売主への発行時期です。
ここで、LCの売主への発行時期を、「製品の引き渡し直前」とすると、どういうことがおきるでしょうか?
それは、契約締結後、売主が製品を作っている間は、売主は、対価を回収できなくなるリスクを負うことになるのです。
というのも、未だ銀行からLCが発行される前に、買主の資産状況が悪くなり、いざLCの発行時期が来た時に、銀行が、「え?買主さんの今の資産状況、結構やばいじゃないですか!こんな会社からのLC発行依頼は受けられません。損失を被るのは我々LC発行銀行ですからねえ・・・」
というわけで、LCを発行してもらえなくなる可能性が生じるのです。
では、いつの時点でLCを売主に銀行から発行してもらうようにするべきか?
それは、契約締結時期に限りなく近い時期がよいです。そして、LCの売主への発行がなされてはじめて、そこから製品の納期が起算される仕組みにするのが理想です。
そうすれば、仮にLCが発行されなくても、契約上、それまで売主は製品を作り始める必要がないことになり、「対価を得られるかどうかわからない製品を作り始める必要がない」ことになります。
または、契約に定められたLCの発行時期を一定期間過ぎてもLCが発行されない場合には、売主は作業を全部中断することができ、作業を中断している期間分納期は延長されるという仕組みにすることです。
これは、前者よりも一段売主のリスク低減策としては劣ります。というのも、売主は、一度は製品を作り始めることになるので、作業を中断するまでの間に製品製造のためのコストが生じるからです。そのコストは、回収できないリスクがあることになります。
さらには、一定金額は前払金として得ておき、残りの金額について上記の様なLCを発行してもらう、という方法もあります。
LCを利用するのを渋る買主もいる
LCは、銀行を利用するものなので、手数料が生じます。
つまり、その分買主から多くの金額が出ていくことになります。
よって、買主は、できればLCは使いたくない、と思うことでしょう。
そして、いつでもLCを買主に求めるべきかというと、そうとも言えないでしょう。
例えば、初めての取引先で、今回扱う製品の対価が、その会社の規模からみて大きいと思う場合には、対価をとりっパグれるリスクも大きいということになるので、LCを設定する、というように、個別に検討が必要になるでしょう。
ただ、繰り返しになりますが、LCを使う場合に注意していただきたいのは、その売主への発行時期です。
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第八章 合弁契約の英単語
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第十章 一般条項に関する英単語
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例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。