PL保険とは?~製造物責任のための保険(生産物賠償責任保険)の概要と注意点~

PL保険とは?
PL保険とは、企業が製造、販売または輸入した製品が原因で契約の相手方や消費者等の第三者の生命・身体・財産が侵害された場合に、その被害者に対して企業(売買契約の売主や製造委託契約の受託者等)が負う法律上の損害賠償責任をカバーする保険です。
以下では、日本のPL保険の概要と注意事項をわかりやすく解説します!
1.PL保険がカバーするものは?
ここで「PL」とは、Product Liabilityの略で、「製造物責任」という意味です。
しかし、PL保険は、必ずしも日本法の「製造物責任法」に基づく製造者の賠償責任のみをカバーするものではありません。
民法の不法行為と債務不履行に基づく損害賠償責任もカバーします。
PL保険がカバーするもの:以下に基づく損害賠償責任
- 民法の不法行為責任
- 民法の債務不履行責任
- 製造物責任法
2.具体例①
メーカーA社が、ある製品αを製造し、B社に販売しました。
B社がその製品αを使用していたところ、爆発し、B社の機械が壊れました。
このとき、B社は機械の損壊について、メーカーA社に製造物責任法に基づき損害賠償を請求します。
この場合にメーカーA社がB社に賠償しなければならない損害賠償金額を保険会社が補填してくれます。
(※自然人のみならず、法人も製造物責任法における被害者となる点はこちらの解説の「勘違いその➂」をご参照)
3.具体例②
メーカーA社がある製品αを製造し、B社に販売しました。
B社がその製品αを使用していたところ、爆発し、B社の従業員Cが負傷しました。
これにより、B社は従業員Cに対して、安全配慮義務違反や不法行為責任として、治療費を支払うことになりました。
もっとも、B社は、従業員C社が負傷した一番の原因がメーカーA社の製品αにあるので、B社が従業員Cに対して賠償した金額をA社に請求します。
この場合にメーカーA社がB社に賠償しなければならない製造物責任法に基づく損害賠償金額を保険会社が補填してくれます。
(※製造物からの直接的な被害者のみならず、間接的な被害者も製造物責任法における被害者となる点はこちらの解説の「勘違いその④」をご参照)
4.生産物賠償責任保険とは?
PL保険は一般的に「生産物賠償責任保険」と呼ばれ、「製造物責任保険」という名称が使われることはほとんどありません。
これは、PL保険が「製造物責任法」に基づく賠償責任だけでなく、上記のように不法行為責任や債務不履行責任もカバーし、また、製品の欠陥に起因するものに限らず、作業の結果として生じた契約相手や第三者の生命・身体・財産への損害賠償責任もカバーするためだと思われます。
5.加入の対象となる事業者
・完成品製造会社
・部品・原材料製造会社
・販売会社
・輸入会社
・その他工事業・据付業・メンテナンス業もその業務の結果について加入可能。
6.PL保険によって支払われる保険金
PL保険をかけておくと、事故が生じた際に、次のような保険金がおります。
【事故発生後に生じる費用】
①損害賠償防止費用
加害者であるメーカーが損害の発生や拡大を防ぐために支出した費用。
②緊急措置費用
応急手当や緊急処置に要した費用(賠償責任がなかった場合も対象)。
➂権利保全行使費用
加害者が第三者に損害賠償請求できる場合に、その権利を保全・行使するために支出した費用。
【訴訟等に発展した場合の費用】
④訴訟費用
加害者であるメーカーが保険会社の承認を得た弁護士費用や裁判費用。
⑤協力費用
保険会社が問題解決に動いた場合に加害者であるメーカーが協力するための費用。
※上の④や⑤についても保険会社が補填してくれるのは、加害者が被害者に支払うべき損害賠償金額を、弁護士の雇用や保険会社への協力を通じて抑えることができれば、その分だけ保険会社が最終的に支払う保険金額を削減できるからです。
【和解・判決による損害賠償金の支払い】
⑥損害賠償金(これがPL保険のメインです)
被害者に支払うべき法律上の損害賠償金。
たとえば、以下のようなものです。
身体賠償事故の場合
・治療費
・医療費
・慰謝料など
財物賠償事故の場合
・修理費
・再調達に要する費用など
7.注意事項~契約で賠償責任が加重されていると、PL保険はおりない!~
PL保険でカバーされる上記⑥の被害者への損害賠償金は、「被害者に支払うべき法律上の損害賠償金」です。
この点、PL保険では、加害者が被害者との間で締結した契約の中に損害賠償責任に関して特別の合意があり、その合意によって法律上の責任に加重されている賠償責任については、保険会社が免責される旨が明記されているのが通常です。
通常、メーカーである売主と買主間では売買契約が締結され、その中に損害賠償に関する定めがなされますが、その損害賠償の定めが、「法律上の損害賠償責任」つまり、民法の不法行為責任や債務不履行責任、そして製造物責任法に基づく責任よりもメーカーに不利な内容になっている場合には、それは「法律上の損害賠償責任に加重された責任」となるので、PL保険がおりないことになります。
したがいまして、メーカーなどの加害者になり得る企業としては、損害賠償に関する定めが法律上の定めよりも重いものになっていないかを確認の上、売買契約や製造委託契約を締結するようにしましょう。
おすすめは、売買契約や製造委託契約を締結する際に、その契約書案を保険会社に見せて、「このような損害賠償の定めになっているが、これは、PL保険の免責事項、特に「法律上の責任を加重するもの」に当たらないか?」という点を確認するのがよいでしょう。
8.その他
PL保険には、上記の基本補償の他に追加料金でオプションを付けることが可能です。
また、保険金には限度額が設定されており、一定額の自己負担が必要です。
詳細については、保険会社に相談することをお勧めします。
製造物責任とはどのようなものかを簡単に理解したい人へ
次の記事と動画解説がお勧めです。
・記事:「製造物責任とは?よくある勘違い5点を押さえればもう大丈夫!」
・動画で解説:
勘違いその①:製造物責任法は、不動産にも適用される。
勘違いその②:製造物に欠陥があれば、直ちに製造物責任法が適用される。
勘違いその➂:製造物責任法に基づく損害賠償を請求できるのは、自然人に限られる。
勘違いその④:製造物責任法に基づく損害賠償を請求できるのは、製造物の欠陥からの直接の被害者に限る。
勘違いその⑤:製造業者は無過失責任を負うので、免責されるケースはない。
なお、日本の独禁法に興味がある方は、下の記事もおススメです!
2025年5月19日から、本郷塾の新刊『はじめてでも読み解けるビジネス契約書』が出版されました!
企業が頻繁に取り交わす様々な取引についての契約レビューの重要ポイントをしっかりと理解できます。
(なお、本書は、英文契約の参考書ではなく、日本企業同士の契約です。つまり、和文の契約書の参考書となります。)
![]() 【類書と比較した際の本書の特徴】 たとえば、「製造委託契約(業務委託契約)」において、 ・「損害賠償責任を制限する条項」について、8トピック16ページに渡って解説しています。 ・「納期遅延の予定損害賠償金(いわゆるリキダメ)」について、5トピック12ページに渡って解説しています。 ・「民法から修正すべき事項」の一覧表を提示しています。 ・また、販売店契約、ライセンス契約、そして共同研究契約において独占禁止法上問題となる事項について、単に公取委のガイドラインをそのまま示すだけではなく、ガイドラインを読む際の注意事項を指摘しつつ、主に問題となる「競争を回避する行為」と「他者を排除する行為」の観点から、いかなる場合に独禁法違反となるのかを独禁法の初心者にもわかるようにイラストを用いて解説しています。 ・各トピックの終わりに確認テストを置いているので、確実に理解を積み重ねながら読み進めることができます。 ・各トピックを1~4ページで解説しているので、隙間時間を利用してトピックごとに読み進めることができます。 |
![]() こちらの『はじめてでも読みこなせる英文契約書』の和文版となります。つまり、日本企業同士で交わされる契約書のための参考書です。 |
以下の契約について解説しています!
①製造委託契約(モノを作って引き渡す契約):メーカーであれば必須の契約です。
②秘密保持契約:企業が何かの取引を行う際にはほぼ必ず結ばれる契約です。
➂共同研究契約:メーカーが他社と共同で研究する際に結ばれる契約です。
④ライセンス契約:技術を保有する企業が相手方に技術の使用(実施)を許諾する契約です。
⑤販売店契約:販売提携契約の1つです。
⑥代理店契約:自社の代理として販売をしてもらう際に結ばれる契約です。
本書の特徴は、次のページでご確認ください。→新刊の概要