英文契約の交渉への2つの対策
英語で契約交渉をするのは、決して簡単ではありません。
というよりも、極めて難しいことであると一般には捉えられているはずです。
おそらく、帰国子女の方や、留学経験者で、外国人と雑談なら楽し気にされている人でも、英文契約の交渉の場面になると、言葉が出てこない、という方は割といるように思います。
これは、なぜなのでしょうか?
理由は2つあると思います。
1つ目は、契約に関する知識がない。
2つ目は、英文契約で使われる単語をよく知らない。
以下、一つずつ見ていきます。
契約に関する知識がない
どんなに英語が得意な方も、自分が全く知らないジャンルの話について語ることはできません。
これは、日本語だと、適当なことを言って過ごす、ということが何とかできる場合があるためあまり認識されていないかもしれませんが、英語になると顕著に表れます。
例えば私の場合、2011年の3月11日に起きた東日本大震災以降に海外に出張したとき、どこでもよく聞かれたのは、「福島原発の状況」でした。
当時、福島原発については、「大変なことになっている」とか、「廃炉にしなければならないかもしれない」といった程度の知識しかありませんでした。
そのため、「福島原発、どう?」と外国人に聞かれても、恥ずかしながら、ほとんど語ることができませんでした。
せいぜい、「・・・大変みたい」というのがやっとでした。
それ以上言葉が出てこないのです。
というわけで、私は当時、福島原発のことを外国人から質問されるのが嫌でした。
つまり、知らないことについては、英語で語ることは絶対にできないわけです。
同様に、帰国子女や留学経験者でも、英文契約の内容自体をよくわかっていない人は、契約交渉を英語で行うことはできません。
英文契約で使われる単語をよく知らない
「いや、自分は、契約書の内容もよく理解している。でも、契約交渉になると言葉が出てこない。」
こういう人もいることでしょう。
これは、次のようなことが原因だと考えられます。
何かを発言しようとしたとき、「あれ?この表現は、英語ではなんというのかな?」とか、「この単語であっているかな?」と思ってしまうから。
これは、「英文契約の交渉では、英文契約書の中でまさに使われている単語を使って話さないといけない」と思っているからではないでしょうか?
英文契約書を読むと、日常会話ではあまりお目にかからない単語が出てきます。
そのため、交渉の際にも、日常会話で使われている英単語だけで話してしまうと、相手に意味が正確に通じない、と感じてしまうように思います。
これは、半分はあっているかもしれませんが、半分は間違っていると思います。
別に、契約書の交渉だからと言って、英文契約書で使われている単語そのものを使って話さないといけないわけではないのです。
確かに、その議論の結果を条文に落とし込む際には、英文契約にふさわしい表現を使って書く必要はありますが、協議の際には、できるだけ簡単なわかりやすい言葉で話をしてもよいわけです。
ただ、それだと、自分が伝えたいことが正確に相手にも理解されているか不安になるのはわかります。
そこで、英文契約書で使われている単語を使って協議をすることができるようになる練習方法をご紹介します。
それは、以下のようなものです。
例:売買契約書の契約交渉の対策
用意するもの
- 英文の売買契約書を参考書からでも自社のひな型でもよいので、3~5通
- A4の紙一枚
- ペン
- 英語の辞書(電子辞書でも、英英辞典でもなんでも自分の使いやすいもの)
行うこと
- A4の紙を横にして、その真ん中に左端から右端に矢印を書く。これは時間軸を表す。
- その時間軸に、契約締結時から保証期間満了までの主要なイベントを時系列に沿って日本語で書いていく。
- 3~5通用意した英文の売買契約書の中から、上記の時系列の中の各イベントに該当する単語を抜き出して列挙していく。
すると、次のようになる。
※上記はあくまでご参考として作成した簡易版です。
もっと細かく契約上のイベントを日本語列挙し、その隣に関係する英単語を片っ端に列挙するとより効果的です。
4.あとは、これを覚える。
どうしてこれをすると交渉に役立つのかと言いますと、これにより、自分が言いたいことを伝えるための候補となる単語(しかもそれは英文契約書で実際に使われているもの)が瞬時に頭に浮かぶようになるからです。
英語を話すときに躊躇する最大の原因は、「この単語であっているのか?」という不安を感じてしまうことです。
それが、この練習によって、「確かにこの単語は英文契約書の中で使われている単語だ」とわかった上で使えるようになります。
また、一つの契約上のイベントに対して、それを表す単語は必ずしも1つとは限りません。これがまた、不安を感じさせます。
具体的には、「あれ?この単語とは違う単語も英文契約書で使われているような気がする。この場合、どっちが正しい表現なのだろう?」と思ってしまうことです。
これも、3~5通の契約書から単語を抜き出している表を何度も見返すことで、「似た単語の違い」を理解できるようになり、使い分けができるようになってきます。または、「この場面では、どちらの単語を使っても同じである。だからどっちを使ってもよい」と思うことができるので、自信をもって話すことができるようになります。
まとめ
以上から、英文契約書の交渉を英語でできるようになるために、
- 契約書の内容を理解する
- 契約書で使われる英単語を、複数の契約書から時系列に沿って抜き出して列挙して覚える
という2つの練習方法を実践されることをお勧めいたします。
英文契約の勉強法
英文契約の交渉への2つの対策 | 英文契約の勉強におけるゴールはどこ? | 目指すべき契約書とは? | 契約書に定められているたった2つのこと |
法学部卒でなくても、英文契約の基礎を身につける方法 |
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今回は、これまで以上に、見やすさと使いやすさを重視して本を作りました。
本書で学ぶことで得られる効果
自分の業務に必要な範囲に絞って効率よく英文契約書で頻出する英単語を身につけることができます。
それは、本書が以下に記載する特徴を備えているからです。
1.英文契約で頻出する英単語を契約類型毎に分類して掲載しています。
これにより、ご自分の業務でよく触れる機会がある契約で頻出する英単語に絞って取り組むことができるので、必要な分だけ効率よく契約英単語を身につけることができます。
具体的には、以下のように分類しています。
第一章 絶対に押さえておきたい英単語
第二章 英文契約の条文の基本的な型を構成する英単語
第三章 秘密保持契約の英単語
第四章 売買・業務委託契約の英単語
第五章 販売店契約の英単語
第六章 共同研究契約の英単語
第七章 ライセンス契約の英単語
第八章 合弁契約の英単語
第九章 M&A契約の英単語
第十章 一般条項に関する英単語
第十一章 その他の英単語
なお、どの分野の契約書を読む場合でも、まずは第一章~第4章の英単語を集中的に身につけることをお勧めします。これらの章に掲載されている英単語は、第五章~第九章までのどの種類の契約書にも頻出する英単語だからです。
2.同義語・類義語・反義語の英単語を近くに配置しています。
そのため、それらをまとめて覚えることができます。
バラバラに覚えようとするよりも、記憶に定着しやすいはずです。
3.単語の単純な意味を知っているだけでは業務を行う上では十分とはいえない50を超える単語について、重要事項として解説をしています(P162以降をご参照)。
例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。