FOBやCIFはコンテナ輸送には不向き!
製品の引渡段階における製品の流れ
今回は、売主が製品を完成させた後、買主に引き渡す段階について見ていきたいと思います。
では、売主が製品を完成させてから買主に引き渡すまでの流れは、具体的にどのようなものでしょうか?
え?売主の工場なり事務所から買主の事務所に輸送するだけで終わり?
いやいや、確かにスタートとゴールはそうでしょうが、その間にどのような過程を経るか、という質問です。
まず、スタートは、おっしゃる通り、売主の工場・事務所ですね。
そこから、売主の国の港、つまり、輸出港まで製品を輸送します。
そして、港にある「コンテナターミナル」に製品は運ばれます。
コンテナターミナルで船会社に製品を引き渡します。
そして船会社は、製品を港の埠頭から船に載せます。
船が出向し、買主が指定する国の港、つまり輸入港に到着します。
そして、港から買主が指定する場所まで輸送されます。
こうしてみると、結構色々な段階がありますね。
この流れの中で、売主と買主間で協議して契約書に定めておかなければならないことがあります。
それは、以下のことです。
- 売主は、製品をいつまでに、どこにもっていけばいいのか?(納期)
- 売主の国から買主の国まで輸送する船を手配すること、そしてその費用負担はどちらが行うのか?
- 製品の輸送に際して保険をかけること、そしてその費用負担はどちらが行うのか?
- 製品の危険や所有権はどこで売主から買主に移転するのか?
結構決めなければならないことがありますよね。
インコタームズとは何か?
上記に列挙した契約書に定めておかなければならない事項に関して、次のように呼ばれている便利なものがあります。
「インコタームズ」
私は初めてこの言葉を聞いた時に、ペットのインコが頭に浮かびました。
しかし、もちろん、そのインコとは全く関係はありません。
インコタームズとは、国際商業会議所(International Chamber of Commerce:ICC)が作った貿易条件(Trade Terms)です。International Commercial Termsの略でインコタームズと呼びます。
以下では、インコタームズについて疑問に思われることが多い事項を解説していきます。
インコタームズに定められている事項は何か?
インコタームズには、主に以下が定められています。
- 誰が船を手配し、その費用を負担するのか?
- 誰が保険を手配し、その費用を負担するのか?
- 製品の危険はどこで売主から買主に移転するのか?
インコタームズは法律(または条約)か?
インコタームズは法律ではありません。
なので、インコタームズを使わなくてもよいのです。
しかし、インコタームズを使うことは、大変便利です。
なぜなら、例えば、「この取引における貿易条件は、インコタームズのCIFね」と決めれば、上記に記載した事項についていちいち「危険の負担時期はいついつで、船の手配はどちらがして・・・」ということを契約書に細々と定めなくても済むからです。
インコタームズの一部を当事者間で変更して使うことは可能か?
例えば、船と保険についてはインコタームズに定められているものを採用するが、危険の移転については、インコタームズのものとは異なる扱いにしたい、という場合には、契約書にその旨を明記すれば可能です。
インコタームズを使う際の注意点
(1) 納期について
契約書に、「納期は2017年2月10日」と定められていたとします。
一方、インコタームズは、CIFでした。
CIFの場合、危険が移転するのは、製品を輸出する国で輸送するため船の欄干を超えた時点です。
よって、契約書に定められている「納期は2017年2月10日」というのは、この輸出する際の船の欄干を超える時期を指しているのだろう、と思えます。
しかし、インコタームズには、厳密には、「製品の納期=危険の移転時期」とは書かれていないのです。
特にCIFの場合、船の手配も費用も売主がします。
とすれば、契約書に定められている「納期」とは、船が買主の指定する港に到着する時期を指しているようにも読めそうです。
よって、買主と売主で納期を巡る争いになる可能性があります。
そこで、納期とは、具体的に何を指すのかを明記するべきです。
ちなみに、売主としては、輸出する港で船に製品を積む段階が納期である、としたほうが有利です。
(2) 所有権の移転時期について
所有権の移転時期は、インコタームズでは定めていません。
インコタームズでは、危険が移転する時期は定められていますが、危険の移転と所有権の移転は全く異なる概念です。
よって、所有権の移転時期がいつなのかは、インコタームズを使う場合でも、契約書に別途明記する必要があります。
この点、所有権は、支払いが完了した時点で移転することが、売主にとっては一番有利です。つまり、支払いがなされるまでは、製品の所有権は売主にあることになります。
(3) FOBやCIFで本当にいいのか?
最近は、コンテナ輸送が主流です。
コンテナ輸送とは、在来船による輸送でなく、コンテナ船での輸送をする場合を言います。この場合、上記の流れに記載した通り、製品はコンテナステーションに一旦入り、そこで船会社に引き渡され、そこから輸出されます。
つまり、コンテナステーションで製品についての実質的な支配が売主の手から離れるということになります。
よって、その時点で危険が移転することにするべきでしょう。
実際、東日本大震災では、コンテナステーションにあった製品が津波で被害にあいましたが、インコタームズのFOBやCIFを使っていた製品については、売主側の危険負担となってしまいました。
このコンテナ輸送にぴったりのインコタームズがちゃんとあります。
それは、FCA、CPT、CIPなどです。
これらの場合、コンテナステーション内にある製品の危険は、買主にあることになります。
もしも扱う製品の輸送がコンテナ輸送であるなら、売主はこちらのインコタームズを使うべきでしょう。
(4) よく使うインコタームズは実際に読むべき!
インコタームズは、上記に列挙した事項以外のことも色々と定めています。ぜひ、実際の取引で新しいインコタームズを見かけるたびに、一度は読んでみることをお勧めします。
というのも、インコタームズを採用するということは、そこに定められていることが契約上の義務となり、それに違反することは契約義務違反という扱いになるからです。
自分たちの義務を明確に理解するためにも、都度、インコタームズの中身を確認することをお勧めいたします。
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第四章 売買・業務委託契約の英単語
第五章 販売店契約の英単語
第六章 共同研究契約の英単語
第七章 ライセンス契約の英単語
第八章 合弁契約の英単語
第九章 M&A契約の英単語
第十章 一般条項に関する英単語
第十一章 その他の英単語
なお、どの分野の契約書を読む場合でも、まずは第一章~第4章の英単語を集中的に身につけることをお勧めします。これらの章に掲載されている英単語は、第五章~第九章までのどの種類の契約書にも頻出する英単語だからです。
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そのため、それらをまとめて覚えることができます。
バラバラに覚えようとするよりも、記憶に定着しやすいはずです。
3.単語の単純な意味を知っているだけでは業務を行う上では十分とはいえない50を超える単語について、重要事項として解説をしています(P162以降をご参照)。
例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。