損害賠償の上限とは?契約書に定める際の重要ポイントをわかりやすく解説!
1.損害賠償の上限とは?
損害賠償の上限の条項とは、契約に違反した場合に相手方に支払わなければならない損害賠償の累積額を定めた条項を指します。
これにより、契約当事者がその契約において最大で負担することになる責任を事前に知ることができるので、リスクを管理しやすくなります。
2.民法第416条との関係
民法第416条に従うと、契約に違反した当事者は、通常損害と契約締結時に予見し得た特別な事情による損害について、相当因果関係が認められる限り、全て賠償しなければなりません。
よって、損害賠償の上限を定める条文は、この民法第416条を修正する条文という位置づけになります。
(民法第416条は任意規定なので、これと異なる契約書の定めがある場合には、契約が優先します。
詳しくは、「契約と法律の関係」に関するこちらの記事をご覧ください。)
3.損害賠償の上限額の相場
損害賠償の上限を定める際のその上限額をいくらにするかは当事者間で合意されます。
法律で最大いくらまでにしなければならないという決まりはありません。
業界によります(業界によっては損害賠償に上限を設けないのが通常ということも結構あります)。
私のいた発電プラント関係の業界では、契約金額の100%が一般的でした。
損害賠償の上限を定める条文の例
「売主または買主が相手方に損害賠償責任を負う場合(本契約上の義務に違反した場合のほか不法行為等一切の法律上の原因も含む)には、本契約の他のいかなる定めにもかかわらず、損害賠償の総額は、本契約の契約金額の100%を上限とする。」
4.検収前の作業やり直しにかかる追加費用には損害賠償の上限の条項は適用されない。
たとえば、検収に向けた試験の際に、製造された商品が仕様を満たしていないことが発見された場合には、通常、売主は問題のある部分を修補して再度試験を受けることになります。
そのような検収前の修補にかかる追加費用は売主の買主に対する「損害賠償」ではなく、契約上の追加費用です。
したがって、この場合、損害賠償の上限条項は適用されません。
つまり、途中で契約が解除されない限り、試験に合格して検収されるまでに生じた追加費用は、契約金額の10倍になろうが、100倍になろうが、全額売主の負担となります。
このように、「売主の追加費用には損害賠償の上限条項は適用されない」という点は勘違いされがちなので、注意しましょう。
5.契約不適合責任に基づく修理・交換にかかる費用には損害賠償の上限が適用されるのか?
検収後の契約不適合責任に基づく修補の費用に対して損害賠償の上限条項が適用されるかは明確ではありません。
どちらかというと、修補の費用は結局「費用」に過ぎず、買主への損害賠償ではないので、損害賠償の上限を定める条項は適用されない可能性があります。
この点ははっきりさせておかないと、将来的にトラブルが生じる可能性があります。
そのため、契約書に明確に規定しておくことが時々行われます。
6.第三者の生命・身体・財産を侵害した場合の責任には、通常、損害賠償の上限は適用されない。
第三者の生命や身体、財産に損害を与えた場合に契約の相手方に負う責任には、損害賠償の上限を定める条項は適用されない旨が明記されることが多いです。
たとえば、売買契約で売主の引き渡した製品の不適合が原因で第三者に上記のような損害が生じた結果、買主が損害を被った場合の売主の責任についてです。
これは、第三者の損害は、契約締結時点ではどこまでの金額になるのか予測しにくく、時には巨額に至るケースもあるため、買主としては、売主の原因で生じる第三者の損害についての責任に上限を設けることはできないからです(もしも上限を設けたら、その上限を超えた第三者の損害について買主が負担することになり得ます。買主はそれは避けたいはずです)。
7.故意または重過失の場合の損害には、損害賠償の上限が適用されないのが通常。
故意や重過失による損害に対しては、損害賠償の上限が適用されない旨が契約に定められることが多いです。
これは、故意または重大な過失によって契約に違反した者は、保護するに値しないからです。
もしもこの点が契約に明記されていなくても、故意または重過失の場合には、損害賠償の上限を定める条文は適用されないことになると思われます(根拠は、公序良俗違反等が考えられます)。
損害賠償の上限に関係するその他の記事のご案内
上記は、日系企業同士の契約における損害賠償の上限に関するものですが、海外の企業と結ばれる契約でもほとんど同じ議論が当てはまります。
海外では、損害賠償の上限は、limitation of liability(略してLOL)と呼ばれています。
LOLに興味がある方は、以下の記事もご覧ください。
また、youtubeで英文契約に頻出する基本的な英単語の解説を行っておりますので、よろしければ、こちらもご覧ください。