目指すべき契約書とは?
重電メーカーで企業法務として働いていた時、「契約書を作成してほしい」と事業部門の方から依頼されることがよくありました。
そんなときに、合わせてよく言われたのが、次のような言葉です。
「できるだけうちに有利な契約を作ってほしい」
どうせ契約を結ぶなら、自分たちに有利な契約内容にしたい、という気持ちはわかります。
なので、企業法務としては、「わかりました!うちに圧倒的に有利な契約書を作りますね!」と言ってあげたいところですが、私が実際にそのように言って、そのような契約書をドラフトしたことは、ほとんどありません。
その理由は・・・
「そのような自社にだけ有利な契約書で締結されることはまずないから」
です。
つまり、そのような契約書をドラフトするだけ時間の無駄になると感じていました。
契約には、必ず相手がいます。
相手にも、法務部なり、それに類似した部門があり、または、そのような部門が無くても、必ず誰かがチェックしています。
もしかすると、国内の取引では、契約書の中身を全く見ないで締結することもあるかもしれませんが、海外企業がそのようなことをすることは、普通は考えられないと私は思います。
そんな中で、自社に圧倒的に有利な条文を書き連ねたとしても、相手方の契約担当者が見れば、すぐにその点に気が付きます。
そして、片っ端から修正してきます。
結局、相手に受け入れられずに終わります。
また、そもそも、「自社に有利な条文とは何か?」という点も曖昧です。
例えば、売買契約において、「製品に欠陥があったとしても、無償で修理はしません」という内容であれば、確かに売主には有利でしょう。しかし、欠陥がある製品を売っておいて、その修理をせずに済ませられるわけがありません。そんな条文をドラフトして相手に送付したら、必ずその理由を聞かれますし、「不公平な内容だ」と言われますし、場合によっては、「あなたからは買いたくない」と一蹴されることにもなるでしょう。
例えば、売買契約において、買主が製品を受け取っておきながら、対価を支払わずに済むなら、それは買主に有利な内容です。しかし、そんな契約に売主がサインをわけがありません。
上記は極端な例ですが、これら以外の場合でも、一方だけに有利な内容を定めると、通常は、「そのような条文を定めた理由」をきかれ、「公平な内容にしてほしい」と反論されます。
もちろん、圧倒的にあなたの会社の立場が強い場合には、相手方もしぶしぶ認めるかもしれませんが、そのような殿様商売をできている企業は、そうはないのではないでしょうか。
契約書は、どちらかに有利になるものを目指すのではなく、両者にとって「公平なもの」を目指すべきです。そして、それで十分だとも言えます。
公平とは、「義務を果たすべき当事者が義務を果たし、責任を取るべき当事者がしっかりと責任をとることが定められているもの」です。
そのような内容の契約書がドラフトとして送付されてくれば、受け取った方も、理由もなく自社にだけ有利な内容に修正する理由がないため、早く契約締結に至りやすいです。
もちろん、個別の事情により、「何が公平なのか?」という点は若干違ってきます。
この点は、まずは、「何が普通なのか?」を知ることが大事です。
その上で、今回の場合でも、その普通を貫くことが公平なのか?それとも、今回はある特別な事情があるので、その普通を変更させるべきなのか?という点を考えることになります。
なので、なんでもかんでも、とにかく自分たちにとって有利な内容の契約書を作ろうとすると、相手は受け入れてくれず、単に契約締結までの時間がかかるだけ、という結果となる可能性が高いです。
まずは、「その種の契約書で、何が普通なのか?」を理解することを心がけるとよいと思います。
英文契約の勉強法
英文契約の交渉への2つの対策 | 英文契約の勉強におけるゴールはどこ? | 目指すべき契約書とは? | 契約書に定められているたった2つのこと |
法学部卒でなくても、英文契約の基礎を身につける方法 |
2023年12月22日から、7冊目の著書、『1日15分で習得 契約類型別英単語1100』(中央経済社、価格:2,530円(税込み))が出版されました!
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今回は、これまで以上に、見やすさと使いやすさを重視して本を作りました。
本書で学ぶことで得られる効果
自分の業務に必要な範囲に絞って効率よく英文契約書で頻出する英単語を身につけることができます。
それは、本書が以下に記載する特徴を備えているからです。
1.英文契約で頻出する英単語を契約類型毎に分類して掲載しています。
これにより、ご自分の業務でよく触れる機会がある契約で頻出する英単語に絞って取り組むことができるので、必要な分だけ効率よく契約英単語を身につけることができます。
具体的には、以下のように分類しています。
第一章 絶対に押さえておきたい英単語
第二章 英文契約の条文の基本的な型を構成する英単語
第三章 秘密保持契約の英単語
第四章 売買・業務委託契約の英単語
第五章 販売店契約の英単語
第六章 共同研究契約の英単語
第七章 ライセンス契約の英単語
第八章 合弁契約の英単語
第九章 M&A契約の英単語
第十章 一般条項に関する英単語
第十一章 その他の英単語
なお、どの分野の契約書を読む場合でも、まずは第一章~第4章の英単語を集中的に身につけることをお勧めします。これらの章に掲載されている英単語は、第五章~第九章までのどの種類の契約書にも頻出する英単語だからです。
2.同義語・類義語・反義語の英単語を近くに配置しています。
そのため、それらをまとめて覚えることができます。
バラバラに覚えようとするよりも、記憶に定着しやすいはずです。
3.単語の単純な意味を知っているだけでは業務を行う上では十分とはいえない50を超える単語について、重要事項として解説をしています(P162以降をご参照)。
例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。