合弁会社設立と単独出資のメリット・デメリット⑥
これまでの記事では、あなたの会社が一から会社を設立するケースでの合弁会社についてのお話しでした。
しかし、今回は、既に現地に存在している会社、その中でも、いわゆる「オーナー企業」の株式の過半数を買い取ることによって、結果的に合弁会社となるケースにおける注意点について触れてみたいと思います。
オーナー企業とは?
オーナー企業とは、その会社の社長自身が、会社の株式の過半数を持っている会社です。
このようなオーナー企業は、その社長が自分で設立し、育て、成長させた会社であるケースが多いと思います。
そして、まだ歴史が浅いオーナー企業の場合、あまり規模は大きくないことが多いかもしれません。
そのような会社の株式の過半数を取得する場合、株主の構成は、あなたの会社が過半数、残りをその社長や家族などが持つ、ということも多いと思います。そして、社長はそのままその人が継続する場合もあるし、あなたの会社から送り込まれた人が社長になる、ということもあるでしょう(どちらかというと、後者のケースの方が多いのではないでしょうか)。
このようなオーナー企業を買収した場合によく起こり得るのが、「買収後に、元社長だった人、つまりオーナーだった人との関係が悪化し、事業がうまくいかなること」だと思います。
私もこれまで、何度かこのようなオーナー企業の買収後に、元オーナーだった人とうまくいかなくなった例を見たことがあります。
そんな中で、私は、うまくいかなくなる理由を考えるようになりました。
そして、ある日、あることに気が付きました。
それは、会社に勤めている人と、オーナー企業を設立するようなタイプの人の違いです。
この違いが、オーナー企業買収後の事業運営に大きな影響を及ぼすのではないかと思います。
会社に勤めている人とオーナー企業を設立する人の違い
会社に勤めている人は、世の中にたくさんいます。
そのため、「自分の働き方は普通だ」と無意識に思っているように思います。
ここでいう「自分の働き方」とは、具体的には、「上司の命令には基本的には従う(そして例外は極めて少ない)」ということです。
会社に行けば、ほぼ必ず上司がいます。
会社に上司がいないという人は、社長ただ一人です。
いえ、もしかすると、社長も、会長には頭が上がらないかもしれません。
その場合、会長のみが上司を持たない、ということになるかもしれませんが、会長は、普通は経営そのものには関わらない人なので、こうしてみると、極論、「会社で仕事をしている人の中で、上司がいない人は一人もいない」と言えるかもしれません。
会社に勤めている場合、上司に何か命令されれば、よほどのことでない限り、それに従うというのが原則です。
仮に自分の考えの方が正しいと思っていても、上司が「No!」と言えば、それに従わざるを得なくなります。
「仕事をするとは、そういうものだ。それ以外の働き方なんてこの世にない。」
普通はそう思えます。
しかし、そうではない人たちがいます。
それは、オーナー企業の社長です。
しかも、何代か続いたオーナー会社の社長ではなく、まさに自分が会社を設立したオーナー会社の社長であれば、その人には、上司という存在がいません。
そのため、基本的に、自分のやりたい放題です。
そもそも、そういうオーナー企業の社長をされている方は、学校を卒業していきなり会社を設立した人もいるかと思いますが、普通は、一度はどこかに勤めています。
その後、勤めていた会社を辞めて、自分で会社を一から立ち上げたのです。
その人たちは、どうして、わざわざ一度就職した会社を辞めて、自分で会社を設立したのでしょうか?
それはおそらく、「誰かに命令されて仕事をしたくない」と思ったからだと思います。
オーナー企業の社長になるような人は、「自分ならこうする」と常に思っている人です。
しかし、そういう考えに基づく意見は、会社で採用されないことが頻繁に起きます。
「どうして自分の言う通りにしようとしないんだ?」
そういうことが日々積もり積もって、ある日、「あ!自分で会社を立ち上げてしまえばいいんだ!」と気付きます。
その後は、基本的にやりたい放題です。
いちいち誰かに、「こういうことをしようと思うんですが、進めていいですか?」なんてお伺いを立てる必要もありません。
全く納得できない理由で却下されることもありません。
社内の承認を得るのに一カ月もかかる、なんてことはありません。
「これ、やってみようかな~」と思った瞬間に、その案は速攻で承認されたことになります。
そんな風にして事業を成長させてきたオーナー企業の社長のところに、ある日、会社の株式の過半数を買いたいという話が日本の会社から来たとします。
しかも、その金額は、億を超えるような金額です。
オーナー企業の社長は、「一瞬でそんな大金が手に入るなんて!」と思い、売ることにしました。
そして、そのオーナー企業の社長は、その会社におけるキーマンであることが多いでしょう。つまり、その人がいないと、その会社の事業がうまく回らないような重要な人だということです。
なにせ、その会社をここまで成長させたのは、正にそのオーナーなのですから。いくらその会社の株の過半数を取得しても、そのキーマンであるオーナーがいなくなったら、とたんに事業がうまくいかなくなる、ということも十分あり得ます。
そうして、その元オーナーは、株式の過半数を日本の会社に売り渡した後も、キーマンとして働き続けることになります。
しばらくして、その元オーナーは、その会社で働くのが嫌になってきます。
なぜなら、株式の過半数を取得した会社から、「あれやれ、これやれ」、「あれするな、これするな」と命令されるのが嫌になったのです。
元オーナーが何か新しいことをしようとすると、途端に待ったがかかります。
そして、数週間から数カ月協議(放置?)された後、「そういうリスクのあることは、してはいけない」と言われたりします。
元オーナーが本当に欲しかったもの
その時になって、元オーナーはかつて、自分が一度勤めていた会社を辞めたくなったときの気持ちを、久しぶりに思い出すことでしょう。
「そうだ。会社で働くっていうのは、こういうことだったんだ。これが嫌で、自分は自分の会社を作ったんだ・・・」
一旦は大金に目がくらんで自分がせっかく成長させた会社の過半数の株式を売り渡しはしたものの、こんなにがんじがらめに命令されるのは耐えられない。
そのときになって、元オーナーは、自分が本当に欲しかったのは、お金じゃなかった、いや、正確には、「お金だけじゃなかった」と思います。
彼が本当に欲しかったのは、お金と、そしてもう一つ、「圧倒的な自由」だったと。
自分がやりたいと思ったらすぐに事業で試せる環境。
ちょっとくらいリスクがあっても、そんなの自己責任でやってしまえる状態。
そういうものに慣れ過ぎた彼は、過半数の株式を持っているというだけで「あーだ、こーだ」命令してくる人達に我慢できなくなってきます。
そうして、過半数の株式を持っている会社との間の関係がうまくいかなくなり、元オーナーが好き勝手始める、または、「会社を辞める(やめて自分の会社をもう一度作る)」、とか言い出すようになります。
・・・というのは、元オーナーの人々に直接聞いたわけではありませんが、概ねこんなことが原因で、オーナー企業の買収後、事業はうまくいかなくなっていくのではないかな、と私が勝手に思ったことです。
上記のような、特に「圧倒的な自由を欲する気持ち」に、当時の私は気が付くことができませんでしたが、最近は、「きっとそういうものなんだろうな」と思います。そうでなければ、わざわざ一から自分で会社を作るなんてことをしないと思うのです。
オーナー企業を買収する場合(その後も元オーナーをキーマンとして会社に残す必要がある場合)の注意点
もしも今、オーナー企業を買収しようとされていのなら、「このオーナーは、自由をこよなく愛する人であるかもしれない」と言う点を考慮して、買収後の事業運営の方針を検討されてはいかがでしょうか。
あるいは、既に買収後、キーマンである元オーナーとうまくいかなくて困っているのなら、「彼らが欲しているのは、そういう自由なのではないか?」と思ってみれば、何か解決策が見つかるかもしれません。
少なくとも、自分で会社を立ち上げようとする人達が欲しているのは、お金だけではないはずです。そのため、「お金を与えておけば従い続けてくれるだろう」という考えは、最初はうまくいっても、長期的にはあてはまらなくなる時がくるのではないかと私は思います。
合弁会社設立と単独出資のメリットとデメリットの比較
①一般的に言われていること | ②海外に子会社を設立して事業を成功させることの難しさについて | ➂合弁会社を設立すれば、投資額とリスクを抑えられるは本当か? | ④パートナー企業の知名度と人脈はマストか? |
⑤合弁契約締結までにかかる時間はどのくらいか? | ⑥オーナー企業買収後の事業運営が難しい理由の考察 | ⑦合弁契約締結までの時間を短縮させる方法 |
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3.単語の単純な意味を知っているだけでは業務を行う上では十分とはいえない50を超える単語について、重要事項として解説をしています(P162以降をご参照)。
例えば、liquidated damagesは「予定された損害賠償金額」ですが、これは具体的にどのようなものなのか?という点について、業務を行う上で最低限押さえておくべき事項を記載しております。