米国法における損害賠償の考え方②~履行利益>信頼利益>原状回復利益は絶対ではない~

   

今回は、前回に引き続き、具体的な事例の中で、どれが原状回復利益なのか、信頼利益なのか、そして履行利益なのかを見ていきます。

 

事例

請負人Aが、注文者Bに対し、契約金額300万円で、工作用機器を2機製造・納入する契約を締結しました。契約金額の内訳は、前回と同じ、1機分の製造費が100万円、2機で合計200万円、100万円が利益(profit)です。今回は、注文者が前払金として、契約締結後5日目に30万円を請負人Aに支払済みだとします。

 

しかし、請負人は、前払金を受け取っておきながら、機器の製造を一向に開始しませんでした。そのため、納期が来ても納入できませんでした。

 

その結果、注文者Bは契約を解除しました。

 

では、上記の事例で、注文者Bは、請負人Aに対してどのような損害賠償を請求できるでしょうか?

原状回復利益

まず、一番簡単な、原状回復利益から考えてみましょう。原状回復利益は、「契約違反された者が契約違反した者に与えた利益分」です。

 

ここでは、注文者Bは前払金として30万円を請負人Aに支払っています。よってこれが、契約違反された者(注文者B)が違反した者(請負人A)に与えた利益です。つまりこの30万円が原状回復利益となります。この30万円の返還がなされれば、請負人Aは、契約締結時の経済的地位に戻ります(+30万円となったのが、0になります)。

 

信頼利益

では、次に信頼利益はいくらでしょうか?信頼利益は、契約が締結されなければ契約に違反された者が置かれていた経済的地位に置くための利益です。つまり、「違反された者が、契約が適切に履行されると信じたことで、その者が出費した金額」です。

 

今回は、原状回復利益である前払金30万円の支払以外で、注文者Bが出費した金額はありませんから、原状回復利益=前払金30万円=信頼利益となります。

 

そうではなく、もしも、注文者Bが、例えば、この工作機器と合わせて使うための道具や燃料などを仮に20万円で第三者から購入していた、というような場合で、その道具や燃料は他に使用用途がなく、あくまでこの工作機械と合わせて使うことでしか注文者Bにとって経済的価値がない、という場合には、これも信頼利益に含まれることになります。つまり、信頼利益は、前払金30万円+道具・燃料費20万円=50万円となります。ただ今回は、そのような事情もないので、原状回復利益=信頼利益となるのです。

 

ここから、通常、信頼利益>原状回復利益となることがわかると思います。というのも、信頼利益=「違反された者が違反したものに与えた利益(原状回復利益)」+「違反された者が、違反した者以外に対し、何らかの出費をした金額」=「契約が履行されると信じたことで違反された者が出費した金額」ということだからです。しかし、本件のように、違反された者が、違反した者以外に対して出費することがない場合もあるので、信頼利益>原状回復利益となることは「絶対ではない」ことも上記からわかります。

 

履行利益

では、最後に本件における履行利益は何か?

 

履行利益は、「契約が履行されていれば、違反された者が置かれたはずの経済的地位と、実際の今の経済的地位との差」になります。

 

今回の注文者Bは、納入された工作機器を用いて、何らかの仕事をし、それによって利益を得ようと考えていたはずです。仮にその利益をXとしましょう。ここで、注文者Bは、工作機械を300万円で取得し、それを利用することでXの利益を得ようとしていたのですから、注文者Bが、契約が履行されていたならば置かれていたはずの経済的地位は、(X-300万円)といえます。一方、契約を解除した今の時点では、注文者Bの置かれた経済的地位は、前払金の30万円の出費があるので、-30万円となります。

 

よって、現状から契約が履行されていたならば置かれていた経済的地位に注文者Bを引き上げるために必要となる金額(履行利益)は、(X-300)+30=(X-270)万円となります。

 

まとめると、以下の様になります。

原状回復利益:30万円

信頼利益:30万円

履行利益:(X-270)万円

もっとも、工作機械を利用して得られたはずの利益Xを注文者Bがどこまで請求できるのかは、ケースバイケースです。X全額なのか、それともその一部に限定されるのか。ただ、注文者Bは、300万円で工作機器を購入しようとしたくらいなので、少なくとも、工作機器を利用すれば、この300万円以上の利益を得られると考えていたはずです。つまり、X≧300万円ではあるはずです。それ以上にどこまで履行利益として認められるのかは、具体的な事情によることになります。

 

もしも仮に、この工作機械を使用して注文者Bが得られる利益が、300万円を下回るような場合には、履行利益が信頼利益や原状回復利益を下回るということになります。このようなことも一応起こり得るのです。

 

上記から、通常は、「履行利益>信頼利益>原状回復利益」という関係が成り立ちますが、具体的な状況次第では、信頼利益=原状回復利益となることも、さらに、履行利益<信頼利益となることもあり得る、という点は理解して起きましょう。

 

つまり、一般的には、違反された者は、履行利益を請求するのがもっとも有利となりますが、時には、信頼利益や原状回復利益の請求をした方が有利になる場合もあるのです。

 - 米国法に基づく損害賠償の考え方