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民法と製造委託契約の危険負担の違いと危険負担の移転時期の正しい決め方

 
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英文契約・契約英語の社内研修をオンラインで提供しています。本郷塾の代表本郷貴裕です。 これまで、英文契約に関する参考書を6冊出版しております。 専門は海外建設契約・EPC契約です。 英文契約の社内研修をご希望の方は、お問合せからご連絡ください。
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民法上の危険負担とは?

危険負担とは、民法が定めている制度です。

そこでは、「一方の債務(義務)が履行不能である場合に、債権者に反対債務の履行拒絶権を与えるか否かを扱う制度」とされています。

これは、たとえば、製造委託契約において、受託者の義務が履行不能に陥る、つまり、委託者に製品を引き渡すことができなくなってしまった場合に、委託者は受託者への対価の支払いを拒めるか?という問題です。

 

製造委託契約における危険負担とは?

この点、製造委託契約の実務では、受託者の義務が履行不能となることは滅多にありません。

仮に受託者によって製造中の製品が、完成間近のタイミングで滅失してしまっても、最初から作り直せばよいだけなので、履行をすることが不可能な状態に陥ることはまずないのです。

そのためか、製造委託契約書の中で「危険負担」というタイトルで定められている条文は、上に述べた民法における危険負担とはやや異なります。

具体的には、次のような内容のものであるのが通常です。

契約の目的物である製品がどちらの契約当事者の責めにも帰さない理由で滅失または損傷した場合の修理・交換費用を誰が負担するべきかという問題

 

民法の製造委託契約における危険負担の違い

つまり、民法における危険負担では、受託者が委託者に対して履行をできなくなった場合(履行不能といいます)のみを扱うのに対し、製造委託契約における危険負担の条文では、製品が毀損・滅失したが、それを修理すればまだ履行することができる、という場合を扱うものであるという点を押さえておきましょう。

民法の危険負担 一方の義務が履行不能となった場合に反対債務の履行を拒絶できるか否か問題
製造委託契約中の危険負担 製品が毀損・滅失した場合の修理・交換費用の負担の問題

 

※ちなみに、海外企業との間で結ばれる契約中に通常定められる「リスクの負担(risk of loss)」の条文は、上で述べた日本の民法の危険負担とは異なり、製造委託契約中の危険負担と同じものと考えてよいです。

 

危険負担のポイント~いつ危険は移転させるべきか?~

改めて、製造委託契約に定められる危険負担のポイントは、「どちらの契約当事者の責めにも帰さない理由で製品が毀損・滅失した場合」という点です。

どちらかの契約当事者に原因があるのであれば、その当事者に責任を負わせることでよく、この点について受託者も委託者も異論はないはずです。

どちらの契約当事者のせいでもない場合だから、どう処理するべきかが問題になるのです。

この場合の処理としては、次のようにするのが通常です。

つまり、「製品を実質的に支配・管理していた当事者が、製品の滅失・損傷が起こらないように注意して管理しておくべきであった。よって、滅失・損傷の時点で製品を実質的に管理・支配していた物が、責任を負うべき。

 

たとえば、製品の検収のための試験を受託者が行うケースでは、検収に至るまでは製品を実質的に管理・支配しているのは受託者なので、検収よりも前に製品が毀損・滅失した場合には、受託者が製品を無償で修理・交換する責任を負い、検収より後に製品が毀損・滅失した場合には、修理・交換にかかる費用を委託者が負担すると合意するのが通常です。

以下はこの場合の条文例です。

検収前に生じた本製品の毀損または滅失は、委託者の責めに帰すべきものを除き受託者が負担し、検収後に生じた本製品の毀損または滅失は、受託者の責めに帰すべきものを除き委託者が負担する。

 

一方、製品の検収のための試験を委託者が行うケースでは、受託者が製品を実質的に管理・支配しているのは製品の引渡し時点までなので、引渡しまでに製品が毀損・滅失した場合には、受託者が製品を無償で修理・交換する責任を負い、引渡し以降に製品が毀損・滅失した場合には、修理・交換にかかる費用を委託者が負担すると合意されることが多いです。

以下はその例文です。

引渡し前に生じた本製品の滅失または損傷は、委託者の責めに帰すべきものを除き受託者が負担し、引渡し後に生じた本製品の滅失または損傷は、受託者の責めに帰すべきものを除き委託者が負担する。

 

 

つまり、危険負担の移転時期は、常に同じではなく、製品に対する実質的な管理・支配が受託者から委託者に移転する時期を考慮した上で決められるのが通常です。

よって、もしも受託者が製品を自社の工場で完成させた後、委託者の工場までの輸送は委託者が指定した運送業者が行うのであれば、危険は受託者の工場での出荷時点で委託者に移転するとするべきです。

 

危険の移転時期と所有権の移転時期の関係

ちなみに、所有権の移転時期は、以下のように、次頁で解説する危険の移転時期と揃える旨が契約に定められていることがあります。

当事者の責めに帰さない事由によって、本製品が毀損・滅失した場合には、本製品の所有権移転前は受託者の負担とし、移転後は委託者の負担とする。

 

しかし、所有権の移転時期と危険の移転時期が同時でなければならないと法律で決まっているわけではありません

例えば、契約で危険の移転時期を製品の引渡し時、そして所有権の移転時期を対価の支払完了時と合意することも可能です。

そもそも、危険の移転時期を決める際に考慮すべき事項と、所有権の移転時期を決める際に考慮すべき事項は異なります。

よって、ある契約で両者が同じ時期に移転するとなっている場合でも、それはたまたまそうなったというだけなのです。

 

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  • 海外企業との売買契約で問題になるrisk of loss(いわゆる危険の負担)に関する記事→こちら
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