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契約と法律の関係は?~原則として契約の定めが優先する!~

 
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法律と契約の関係はどうなっているのでしょう?

契約に法律と異なる定めを置いた場合、どちらが適用されるのでしょう?

この記事では、そんな疑問に対して具体例を示しながら、わかりやすく解説いたします。

 

問題

まず、以下について考えてみてください。

 

民法の第633条には、請負契約の対価の支払時期として、次のように定められています。

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。」

 

一方、製造物委託契約に、次のように定めたとします。

「委託者は受託者に対し、契約金額を以下のスケジュールで支払う。

①契約締結日から2週間以内に契約金額の20%

②契約締結日から3か月以内に契約金額の30%

➂検収日から2週間以内に契約金額の40%

④契約不適合期間満了日から2週間以内に契約金額の10%」

 

法律は、完全後払いを定めているのに対し、契約では、分割払いを定めています。

この場合、委託者は法律と契約のどちらに従う必要があるのでしょうか?

 

契約と法律の関係

上の問題について、次のように考える人がいるかもしれません。

「法律は、国会が作るもの。国会といえば、国権の最高機関といわれるほどのものなのだから、そこで作られた法律は、当事者だけで合意した内容よりも常に優先的に適用されるに決まっている!」

しかし、この考えは誤りです。

法律と契約の関係は、概ね次のようになっています。

①    契約当事者だけにかかわる事項→その当事者間で合意した契約内容が法律に優先する。

②    契約当事者間を超えて、より広い利益にかかわる事項法律が契約に優先して適用される。

ここで、上の問題における契約金額の支払方法は、契約当事者だけにかかわる事項です。

よって、法律よりも契約の定めが優先されます。

したがって、委託者は、契約に従って受託者に契約金額を支払わなければなりません。

 

このように、法律よりも契約を優先させることとなる理由は簡単です。

契約当事者間だけの問題は、その当事者たちが「これでいい」と考えているように扱われればそれで充分だからです。

他の誰に迷惑をかけることにもなりません。

 

当事者間で契約において法律と異なる合意をしたときに、契約が優先して適用されることになる法律の定めは、「任意規定」とか「任意法規」と呼ばれています。

 

一方、契約当事者間の問題を超えて、他の者や公共の利益に関するような事項は、少数の契約当事者が「これでいい」と考えているからといって、その通りにすることは適切ではありません。

このような「当事者間の合意に関係なく、必ず適用される法律」は、「強行規定」とか「強行法規」と呼ばれます。

 

契約が法律に優先することの根拠条文

ちなみに、法律の任意規定については、契約が優先する点は、民法第91条の条文に根拠があります。

 

第91条(任意規定と異なる意思表示)

法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

 

この条文の「法令中の公の秩序に関しない規定」が「任意規定」に当たります。

 

任意規定と強行法規の区別は?

では、ある法律の条文が任意規定なのか、それとも強行規定なのかは、その条文を見ればわかるのでしょうか?

実は、条文を読んだだけではわからない場合が多いのです。

しかし、契約書をチェックしたり作成したりする際に、それで何か困るかというと、ほとんど困りません。

なぜなら、契約書本文に定められる事項の大部分は、「任意規定」に関する事項だからです。

 

たとえば、

・所有権の移転

・保証期間

・損害賠償責任

・対価の支払時期

これらは全て民法または商法に定められていますが、ことごとく任意規定です。

よって、契約当事者間の合意=契約の定めの方が法律に優先して適用されます。

一方、強行規定の有名な例は、「時効」です。

もっとも、企業間の契約では、「時効」にかかるほど長期間に渡って権利を行使しないことは滅多にありません。

 

このことから、次のように考えることができます。

契約を作成したり、チェックしたりする際は、「法律でどうなっているか?」よりも、「自社はどう定めたいか?」を考えればよい。

そのようにして定めた契約条文のほとんどは、法律にどのように定められていようが、契約が優先する。

 

上記のことは、日本国内の契約に限らず、海外企業と締結する契約にも当てはまります

たとえば、インドネシアの企業と日本の企業が売買契約を締結する場合、支払条件や保証期間について、それぞれの国の民法や商法に定めがありますが、契約にそれらに関する定めを置けば、法律は関係なく、その契約が適用されることになります。

そのため、特に海外の法律を詳しく知らなくても、売買契約、製造委託契約、そして秘密保持契約といった様々な契約を日本人でもチェックすることができるのです。

 

まとめ

契約と法律で異なる定めをしている場合、原則として契約が適用される。

法律が契約に優先して適用されるのは、「公の秩序に関する定め(強行法規)」の場合。

 

ご参考~強行法規の例~

  • 建築基準法

強行法規の例としては、建築基準法の耐火・耐震基準があります。

これは、その建物に住むことになる人の生命・身体・財産を守るという公共の利益を守るためです。

よって、ビルの建築を注文する注文者と建設会社間で建築基準上の耐震基準を下回る数値でよいと契約を結んだとしても、建築基準法が適用されるのです。

建築基準法と同様に、食品や薬の安全性に関する法律(食品衛生法や薬事法)は強行法規です。

  • 独占禁止法

他の例としては、独占禁止法があります。

独占禁止法は、公正な競争が阻害されるような行為を禁止しています。

世の中が発展していくためには、競争が活発に行われている方が好ましいです。

ある企業Aが安くてよい製品を開発したら、そのライバル企業Bも負けじとより安くてよい製品を開発しようとします。

これが繰り返されることで、世界は少しずつ進歩していくのです。

つまり、競争が阻害されないようにするのは、「公共の利益」のためといえます。

ここで、複数のライバル企業同士が、ある商品について、「価格は〇円以下に下げないようにしよう」という契約を締結したとします。

このライバル企業同士ではそれでよいだろうと考えたわけです。

しかし、これは競争が円滑に行われるという公共の利益に反するわけです。

よって、当事者間の合意は違法とされます。

 

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