独占禁止法とは?不当な取引制限・私的独占・不公正な取引方法を簡単に見分ける方法
この記事を読んで理解できること
①独禁法とは簡単にいうと、何を取り締まる法律か?
②独禁法の三大行為類型(①不当な取引制限、②私的独占、➂不公正な取引方法)の違い
➂不公正な取引方法のメインとなる行為と弊害
④不公正な取引方法に違反する可能性がある契約上の条文の検討手順
それでは、解説を始めます!
独禁法とは?
独占禁止法とは、正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいますが、略して独占禁止法、そして、そこから更に略して独禁法と呼ばれています。
企業が日頃取り交わす契約書の中に、この独禁法に違反する可能性のある条文が定められていることが稀にあります。
その条文が実際に独禁法に違反する場合には、その条文は違法となり、最終的には無効となるのが通常です。
また、場合によっては課徴金を支払わなければならず、ひどいときには刑事罰の対象となることもあります。
したがって、もしも契約書の中に独禁法に違反する内容の条文が定められていたら、修正または削除をする必要があります。
もっとも、私の実務経験に基づく感触としては、普段扱う契約書の95%以上は、独禁法に関する知識がないままチェック・作成しても問題は生じません。その理由は、次の2つです。
- 独禁法に違反するような条文は、どちらかの当事者に大変不公平な内容であることが多いので、独禁法に違反するかどうかを持ち出さなくても、「こんな不公平な条文を受け入れるわけにはいかない」となり、独禁法に違反する条文が残ったまま契約締結に至ることは、通常はない。
- 一見独禁法に違反するように思えるような条文でも、具体的に検討してみると、契約当事者の市場シェアなどの観点から、結局「独禁法違反ではない」という結論になるケースが多い。
よって、もしもこの記事をお読みいただいている方が事業部門の方であれば、独禁法をほとんど知らなくても、いざ契約書をチェック・作成する際には、その点に関しては法務部の人が気づいて指摘してくれるはずですし、上記のように実際に違反となるような条文が定められていることもほとんどないので、さほど困ることはないと思います。
一方、法務部門の方は、コンプライアンスの観点から独禁法を知っておく必要性はあると思いますので、独禁法に関して勉強することをお勧めします。
独禁法の観点からの条文の検討の手順
独禁法は、簡単にいうと、ビジネスにおける「競争の程度を減らす行為」を取り締まる法律です。
大前提として、独禁法は、「競争はよいもの、あるべきもの」として捉えています。その理由は、次の通りです。
「競争が行われた方が、より品質の優れた商品やサービスが生まれやすくなる。また、その価格も安くなる。このことは、商品やサービスを購入する消費者にとって好ましい。」
そこで、独禁法は「本来あるべき競争」を守ろうとし、「競争の程度を減らす行為」や「競争の程度を減らすおそれのある行為」を違法として取り締まることにしています。
もっとも、「競争の程度を減らす行為」であっても、独禁法に違反しないという結論になることもあります。
それは、次のような「正当化理由」がある場合です。
- 競争の程度を減らす行為が、一方で、競争を促進することに役立つことになる場合
- 競争の程度が減ってしまうという犠牲を払ってでも、その行為を許容することで守るべき大切なものがある場合
したがって、ある条文が独禁法に違反するかどうかの検討は、次のような手順を踏みます。
- その条文は、競争の程度を弱める効果を持つか?
- ①についてyesなら、正当化理由はあるか?
- ②についてNoなら(正当化理由がないなら)、その条文を修正・削除する。
独禁法の三大行為類型とその区別はどうやってつける?簡単な方法を紹介。
独禁法が禁止している行為として、以下の3つは三大行為類型(三大違反類型)と呼ばれています。
ただ、日頃取り交わされる契約(売買、販売店、共同研究、ライセンス契約など)においては、この中の「不公正な取引方法」に当たるかを検討するのみで済む場合がほとんどです。その理由は、以下のとおりです。
まず、(1)の不当な取引制限は、主にライバル関係にある企業同士の取引で問題となります。
ここで、日頃扱う契約は、たとえば「モノの売り買い」や「技術のライセンス」などのように、ライバル関係ではなく、「取引関係にある企業同士」で交わされるのが通常です。
一応、共同研究契約は、ライバル同士で結ばれることもありますが、その場合でも、よほど特殊な状況でない限り、不当な取引制限に該当して違法となることはありません。
よって、契約書をチェックする際に、「不当な取引制限」に当たるかどうかを気にする必要はまずないといってよいです。
次に、(2)私的独占と(3)不公正な取引方法に該当し得るのは、「取引関係にある企業同士」の契約に定められる条文です。わかりやすくいうと、材料・部品メーカーと完成品メーカーとの間で交わされる契約です。
ここで、私的独占と不公正な取引方法は、違法となる行為がほとんど同じ(重なり合っています)であり、ある行為が(2)私的独占に該当する場合のほとんどのケースでは、(3)不公正な取引方法にも該当することになります。
ただ、(2)私的独占と(3)不公正な取引方法のどちらが成立しやすいかというと、断然、(3)不公正な取引方法です。
よって、「(3)不公正な取引方法に該当しないケースのほとんどは、(2)私的独占にも該当しない」と言えます。
そのため、契約書の条文の中に、(3)不公正な取引方法に該当しそうな条文があれば、それを適宜修正または削除することで、(3)不公正な取引方法にも、(2)私的独占にも当たらないようにすることができる場合がほとんどなのです。
したがって、日頃扱う契約において、独禁法の観点から検討する際は、「不公正な取引方法」に該当するのか?該当するなら、どのように対処するべきか?を検討するだけで足り、「不当な取引制限」や「私的独占」について検討する必要はほとんどないと言えるのです(もちろん、例外はあり得ますが、滅多にありません)。
不公正な取引方法の中で特に重要なもの
さらに、不公正な取引方法について検討するべき範囲も絞ることができます。
というのも、不公正な取引方法に該当する可能性がある行為としては、以下の4つがありますが、日頃扱う契約(売買、販売店、共同研究、ライセンス契約など)で問題なるのは、①または②であることがほとんどなのです。
①競争回避(競争を避けさせる行為)
②他者排除(競争者を市場から排除させる行為)
➂競争手段の不公正さ(例えば、虚偽情報を広める行為)→特に、景品表示法がある。
④搾取(自己の優越的な地位を利用して無理難題を押し付ける行為)→特に、下請法がある。
よって、「不公正な取引方法」の中でも、①競争回避と②他者排除に該当する行為を中心に勉強することをお勧めします。
なお、ある行為が不公正な取引方法に該当して違法となるのは、「公正な競争を阻害する」と認められる場合とされています(略して「公正競争阻害性」といいます)が、上記の①競争回避型と②他者排除型の行為における公正競争阻害性とは、①競争回避行為の場合は「価格維持効果が生じる場合」を、②他者排除行為の場合には「市場閉鎖効果が生じる場合」を指します。(この2つの言葉の具体的な意味が独禁法では、重要となります)。
したがって、日頃扱う契約に定められる条文について独禁法上の検討をする際には、「不公正な取引方法」の観点から検討することとし、具体的には、次の手順を踏めばよいことになります。
- 独禁法上問題となる行為が、競争回避行為か、それとも他者排除行為かを見極める。
- 競争回避行為の場合には、価格維持効果が生じるかどうかを検討する。他者排除行為の場合には、市場閉鎖効果が生じるかどうかを検討する。
- 価格維持効果や市場閉鎖効果が生じる場合でも、その問題となる行為が、実は競争に役立つ効果を持つ場合や、競争の程度を弱めるけれども、それでもなお違法とするべきではない事情が認められる場合には、「正当化理由がある」として、独禁法に違反しないことになる。
- 正当化理由も認められない場合には、問題となる条文を適宜修正または削除する。
本郷塾の独禁法のオンラインセミナーのお知らせ
本郷塾では、2023年1月から、はじめて独占禁止法を学ぶという初学者にもわかりやすいオンラインセミナーをリリースしました。
契約検討を行う際に独禁法が問題になることが多い場合に特化して、効率的に学習することができます。
セミナーの概要は、以下からご覧ください。