契約書をレビューするスキルをアップさせる方法を身につけよう!

その取引における本来あるべき姿を理解する
「契約書を読んでみても、何が良くて、何がダメなのかが判断つかない」
「契約書を一生懸命読み切っても、「まあ、契約書って、だいたいこんな内容なのかな?」ということくらいしか思えない」
こんな風に感じている方もいるのではないでしょうか。
また、企業法務部に配属されたばかりの人だと、契約書をチェックしたのに何も修正する点がないと仕事をした気にならないから、とにかく何か修正・コメントしなきゃ!と思い、自分でもさほど修正の必要性を感じない点を修正してみる、ということもあるのではないでしょうか。
上記のようなことになってしまっている理由は、おそらく、契約チェックの方法を知らないことにあるのだと思います。
この点、おそらく、契約書をチェックする方法は、「自社にとって不利益な条文を見つけて、それを自社にとって有利な条文に直すことだ」と教わった人もいると思います。
これは、正しいと言えば正しいのですが、やや具体性に欠けますよね。
そこで、以下では、契約書をチェックする方法について具体的にお話ししたいと思います。
契約書のチェック方法
取引における本来あるべき姿
まず、契約書を読む前にしていただきたいことがあります。
それは、「その契約の取引における、本来あるべき姿は何か?」を自分の中で整理することです。
契約書が結ばれるということは、何かの取引が相手方当事者との間で行われるということです。
その相手方当事者との間の「取引についてのお互いの約束事」を書いているのが、契約書です。
よって、「その取引において、お互いに約束すべきこと」が、契約書の中に適切に定められているのか?を見ていくことが、契約書のチェックなのです。
つまり、自分の中で、「この取引においては、これこれこういうことが定められていなければならない」というものがないのに契約書を読んでも、その契約書に定められていることの何が良くて、何がおかしいのか、どう修正するべきなのか、といったことの判断はつきにくいのです。
取引においてお互いに約束するべきこと
では、「取引においてお互いに約束するべきこと」とは一体何なのか?
ここで理解していただきたいのは、「契約書とは、主に、当事者間の権利義務を定める文書である」ということです。
つまり、
自分は何をしなければならないのか?(自分の義務→相手の権利)
自分は相手に何を請求することができるのか?(自分の権利→相手の義務)
を定めるものです。
よって、「取引においてお互いに約束するべきこと」の主たるものは、
自分がその取引でしなければならないこと
自分がその取引で相手に請求するべきこと
になります。
したがって、契約書をチェックする前にまずやるべきことは、「その取引における自分がしなければならないこと」と「自分が相手に請求するべきこと」を理解することとなります。
そのためには、その取引についてよく知る必要があります。
例えば売買契約なら、
- 契約の相手方とこれまでのその相手方との関係
- その所在国
- 製品
- 納期
- 納入方法
- 契約金額
- 支払方法
といった基本的な情報に加えて、そもそも売買契約締結後に開始される「契約履行の流れ」をわかっている必要もあります。
それらの情報・理解に基づき、「自分がしなければならないこと」と「自分が相手に請求するべきこと」を整理します。
それができたら、「それらが契約書の文面に反映されているのか?」を見ていくことになります。
自分が整理した内容と、契約書の文面との間に差があれば、そこは修正するべき箇所、ということになります。
一方、自分が整理した内容と契約書の文面が合致しているところは、修正する必要がない、ということになります。
契約書はどれも似たようなもの
契約書は、同じ種類の取引について書かれたものであれば、その大部分はどれも実質的にはほとんど同じものです。
売買契約について誰が契約書をドラフトしても、定められる条文にそう大差ありません。
ライセンス契約について誰が契約書をドラフトしても、定められる条文にそう大きな違いはありません。
まったく同じ契約書ではなくても、かなり似通ったものになるのです。
なので、「売買契約は本来こういうことが定められるべき」「ライセンス契約は本来こう定められるべき」ということを一度理解すれば、契約書の検討はこれまでよりもずっと楽に、適切に、そして迅速にできるようになります。
よって、まずは、「その取引において、本来契約書に定められるべき事項は何か?」を理解するように努めるとよいと思います。
契約レビュースキルをアップさせる参考書のご案内
今回、本郷塾では、日本企業同士で結ばれる機会が多い次の契約についての「本来あるべき姿」とその理由を詳しく解説する参考書を出版いたしました。
【本書で解説する契約】
①製造委託契約(業務委託契約)
②秘密保持契約
➂ライセンス契約
④共同研究契約
⑤販売店契約
⑥代理店契約
本書も、これまで本郷塾が出版してきた参考書と同様に、契約初心者の方々でも無理なく学習していただけるように、まず第1章で「契約とは?」という基礎から解説していきます(以下は、第1章の目次です)。
【第1章 契約書をチェックできるようになるための基礎知識】
1.契約とは?
2.契約の成立条件は?
3.契約書には何が書かれている?
4.これって契約書?
5.契約に拘束されるのは誰か?
6.契約と法律の関係
7.損害賠償とは?
8.損害賠償の具体例
9.不法行為
10.基本契約とは?
11.契約書の構造
12.契約をチェックする際に注意するべき独占禁止法
13.独禁法についてのよくある勘違い2つ
コラム~独禁法の三大行為類型の区別~
そして、単に「本来はこうなっているべき」「これが普通」と示すだけでなく、その理由も解説しているので、単なる暗記ではなく、理解した上で知識が身についていくはずです。
ちなみに、実は、各取引における「本来あるべき姿」は、日本企業同士の契約であろうが、海外企業との英文契約書であろうが、実質的にはかなり重なっています。
たとえば、売買契約において、売主が、買主に対する損害賠償責任を制限したいと考えるのは、世界中で同じです。
そしてそのために、損害賠償に上限額を設けることや、逸失利益の免責条項を定めようとするのも世界共通です。
日本企業同士の契約と海外企業との契約は、使われる言語が異なるので、一見全く異なるように感じるかもしれません。
しかし、上で述べたとおり、実質的にはそう変わりありません。
もちろん、海外企業との契約は英米法に基づいていることが多いので、英米法の知識も少しは必要です。
しかし、それは本当にわずかです。
よって、本書で学習することは、将来的に、英文契約もレビューできるようになりたいという方のお役にも立つはずです。
具体的には、本書でしっかりと各取引の「本来あるべき姿」を身につければ、英文契約をレビューできるかどうかは、「あとは英語の問題だけ」ということになります。
もちろん、既に本郷塾から出版している『はじめてでも読みこなせる英文契約書』も、単なる英文の読み方の解説ではなく、「各取引における本来あるべき姿」を解説しています。
ただ、「まずは日本企業同士の和文の契約をレビューできるようになりたい!」という方に向けて、今回はこの本を出版いたしました(また、今回の書籍は、『はじめてでも読みこなせる英文契約書』が扱っていない販売店契約と共同研究契約も解説しています)。
よろしければ、書店にお立ち寄りの際に手に取っていただければ幸いです。
以下は、本書の第2章以降の目次です。ご参考下さい。
第2章【製造委託契約】
- 「モノを作って引き渡す契約」とは?
- 製造委託契約の全体像
- 前文
- 製品の特定~仕様書は明確に記載しよう!~
- 納期遅延①~納期に遅れたらどうなる?~
- 納期遅延②~予定損害賠償金~
- 納期遅延③~予定損害賠償金を支払うとどうなるか?~
- 納期遅延④~違約罰と予定損害賠償金~
- 納期遅延⑤~予定損害賠償金の上限~
- 納期遅延⑥ ~「委託者が取引先に損害賠償責任を負わないならば、受託者は委託者に予定損害賠償金の支払いをしなくてよい」という条文の注意点~
- 試験と検収
- 契約不適合責任①~契約不適合責任とは?~
- 契約不適合責任②~契約不適合責任の内容~
- 契約不適合責任③~契約不適合責任と帰責性の有無~
- 契約不適合責任④~契約不適合責任期間~
- 契約不適合責任⑤~契約不適合責任期間の延長~
- 契約不適合責任⑥~定期検査と契約不適合責任期間~
- 契約不適合責任⑦~契約不適合責任期間と製品寿命~
- 契約金額①~契約金額の構成要素~
- 契約金額②~急激なインフレーション対策~
- 契約金額③~契約金額に関する注意点~
- 支払条件~後払いと分割払い~
- 支払遅延対策①~遅延利息~
- 支払遅延対策②~同時履行の抗弁権~製造委託契約の目的物が汎用品の場合~
- 支払遅延対策③~作業中断権~製造委託契約の目的物が特注品の場合~
- 支払遅延対策④~作業中断後の契約解除~
- 支払条件の重要性
- 所有権の移転時期
- 危険負担
- 不可抗力①~不可抗力とは?~
- 不可抗力②~不可抗力の効果~
- 不可抗力③~不可抗力と危険負担の違い~
- 製造物責任(第三者の生命・身体・財産の侵害)①
- 製造物責任(第三者の生命・身体・財産の侵害)②
- 製造物責任(第三者の生命・身体・財産の侵害)③~製造物責任についての保険~
- 第三者の知的財産権の侵害
- 責任制限条項①~責任制限条項とは?~
- 責任制限条項②~責任制限条項の例外~
- 責任制限条項③~そもそも責任上限条項の適用の範囲外である場合~
- 責任制限条項④~契約不適合責任に基づく修補にかかる費用と責任上限~
- 責任制限条項⑤~逸失利益の免責~
- 責任制限条項⑥~優先順位の明確化~
- 責任制限条項⑦~不法行為や製造物責任との関係~
- 責任制限条項⑧~責任上限と逸失利益の免責のどちらか片方だけ定めることを許されたら?~
- 受注者の契約違反を理由とする契約解除
- 委託者による自己都合解除権
- 委託者による立入検査
- 受託者からの支給品
- 民法から変更されることが多い主な事項
第3章【販売店契約】
- 販売店契約とは?
- 販売権の付与
- 最低購入量の保証
- 競業避止義務
- 改良品の販売権
- 個別契約
- リードタイムと価格
- 契約不適合責任
- 販売促進義務
- 販売報告義務と再販売価格の拘束
- 商標使用許諾
- 第三者による商標権の侵害があった場合は?
- 契約有効期間
- 販売店契約と独占禁止法
- 営業地域制限
- 再販売価格の拘束
第4章【代理店契約】
- 代理店契約とは?
- 代理権の付与
- 販売代理の方法
- 販売手数料
- 販売代金の支払い
第5章【秘密保持契約】
- 秘密保持契約とは?
- 前文
- 機密情報の定義
- 秘密保持義務
- 目的外使用の禁止
- 秘密情報の例外規定
- 第三者への開示が許容される場合①~自社の役員や従業員への開示~
- 第三者への開示が許容される場合②~官公庁からの開示要求~
- 返還・破棄
- 損害賠償責任
- 予定損害賠償金と差止請求
- 秘密情報の管理義務
- 情報が正確であることの保証
- 秘密情報の権利のライセンス
- 有効期間
- 秘密保持契約と不正競争防止法の関係
- 秘密保持契約の限界
第6章【ライセンス契約】
- ライセンス契約とは?
- 特許ライセンスとノウハウライセンス
- 定義条項
- ライセンスの付与
- 技術指導
- 競業避止義務
- 原材料・部品の購入先の制限
- 技術に関する研究開発活動の制限
- 改良技術の扱い(グラントバック)
- ライセンスの対価①~ランニングロイヤルティ~
- ライセンスの対価②~ライセンサーから原材料または部品を購入した場合~
- ライセンスの対価③~ミニマムランニングロイヤルティ~
- 対価の不返還
- ライセンサーの帳簿監査権
- ライセンサーによる許諾技術の保証・責任
- 第三者の知的財産権を侵害していないことの保証
- 第三者による知的財産権侵害があった場合
- 有効期間
- 契約解除
コラム~ライセンス契約に関する独禁法の知財ガイドラインを読む際の注意点~
第7章【共同研究契約】
- 共同研究の全体像
- 定義条項~研究成果・発明等・知的財産権・実施の関係性~
- 研究テーマ~何を研究するのか?を具体的に特定しよう!~
- 研究期間・契約期間
- 役割分担~それぞれが何を行うのかを明確に定めよう!~
- 参加者の特定
- 第三者への委託
- 実際に委託を行う際の注意点
- 費用の分担
- 情報提供義務と秘密保持義務
- 進捗状況の報告
- 研究成果の帰属、知財の扱い、および成果の利用の関係性
- 研究成果の帰属
- 知的財産権の扱い
- 研究成果の利用
- 大学との共同研究における研究成果の利用①~不実施補償料~
- 大学との共同研究における研究成果の利用②~不実施補償料の条件~
- 大学との共同研究におけるその他の注意点
- 成果の公表
- 研究の変更
- 共同研究契約と独禁法①~競業避止義務~
- 共同研究契約と独禁法②~原材料・部品の購入先制限~
- 共同研究契約と独禁法③~販売先制限~
コラム~共同研究開発契約における独禁法のガイドラインの注意点~
第8章【一般条項】
- 一般条項とは?
- 反社会的勢力の排除(反社条項・暴排条項)
- 権利義務の譲渡禁止
- 残存条項
- 秘密保持条項
- 分離条項
- 完全合意条項
- 紛争解決条項(合意管轄条項)
- 協議条項
- 署名欄(署名または記名・押印)
- 電子契約