英文契約の条文はできる限り「権利」ではなくて「義務」を中心にして書く!
2017/06/29

英文契約のドラフトの練習 第3回です。
今回は、「条文は、可能な限り、当事者の権利ではなく、義務を中心に書く」についてご紹介します。
契約書の主たる目的は、当事者間の権利義務について定めることにあります。
そのため、契約書には、当事者の権利義務が数多く定められております。
契約にもよりますが、全体の8割程度は当事者の権利義務を定めているのではないでしょうか。
ここで、契約当事者の権利と義務は、表裏一体の関係にあります。
例えば、売買契約における、製品の引き渡しについては、買主の立場からは、製品を納期までに受領する権利があります。一方、売主の立場からは、製品を納期までに引き渡す義務があります。
そのため、この製品の引き渡しについての条文は、書こうと思えば、以下のように二通りの定め方があることになります。
「買主は、納期までに、売主から製品の引き渡しを受ける権利がある。」
「売主は、納期までに、買主に対して製品を引き渡す義務がある。」
このどちらの表現でも、間違いではないでしょう。
では、契約書には、どちらで書いたほうがよいでしょうか。
答えは、「義務を中心にして書く」です。
以下、理由です。
① 義務を中心に書くと、誰が何をしなければならないのかが。権利を中心に書く場合よりもより明確になる。
② 権利を中心に書くと、誰が義務を負っているのか書き忘れるおそれがある。もしもそうなると、争いになった際に、裁判所は、誰に対して責任を追及するべきか不明な状態になる。一方、義務を中心に書こうとすると、義務を負うものが文章の主語になるので、それを書き忘れるという事態はまず生じえない。
製品の引き渡しについての条文を英語にしてみましたので、見てみましょう。
権利を中心に書く場合:
「買主は、納期までに、売主から製品の引き渡しを受ける権利がある。」
The Purchaser is entitled to be delivered the Product by the Seller by the Delivery Date.
義務を中心に書く場合:
「売主は、納期までに、買主に対して製品を引き渡す義務がある。」
The Seller shall deliver the Product to the Purchaser by the Delivery Date.
権利を中心に書くよりも、義務を中心に書くほうが、誰が何をしなければならないかが明確になります。そして、多くの場合、義務で書いたほうが短い文章にもなります。
また、権利を中心に書くと、つい、by the Sellerを書き忘れてしまいがちです。
実際、手元に何かの英文契約書をお持ちの方は、shallとmay/be entitled toでそれぞれ検索をかけてみてください。そうすると、権利を表すmay/be entitled toよりも、義務を表すshallの方が、数が多いことに気付いていただけると思います。つまり、実際の英文契約書においても、権利よりも、義務を中心に書かれていることが多いということが分かっていただけるのではないでしょうか。
そして、「できるだけ、義務を中心に書く」と決めると、条文を書くのがとても楽になります。
例えば、対価の支払いについて定める場合、義務を中心に書こうと決めれば、その条文の主語は、自動的に「買主」に決まります。なぜなら、対価の支払い義務を負うのは、買主だからです。そして、支払い義務を表す動詞は、payに決まるでしょう。さらに、目的語は、金額と自然と決まっていきます。
The Purchaser shall pay the Contract Price to the Seller pursuant to the payment conditions…といった具合です。
そうすると、「主語をどちらで書くのが自然なのか」、「動詞は何を使おうか」、といった悩みをかなり減らすことができると思います。
実際、私もこの単純なルールの存在を知ってからは、英文契約書を書くのが大分楽になったような気がしますので、試してみてください。