中計と予算の弊害⑤~安易な規模拡大のためのM&Aはコストオーバーランのきっかけになり得る~

   

事業部門に対する厳しい中計や予算を課すことは、その事業部門をM&Aに走らせる場合もあります。

M&Aという投資は、魔術的な力を持っています。

それは、投資家を含めた世間に対してとても評価されやすいニュースになると同時に、長期的に見たときには、企業の規模が大きくなることに貢献するように一見すると感じられという点です。

 

例えば、売上高1000億円の企業を買収するとします。

買収金額が2000億円だった場合、一時的には2000億円が会社から出ていきます。

しかし、毎年1000億円の売り上げを上げる会社を得たことになるので、会社の売上規模は1000億円増えることになります。

その結果、数年で投資分を回収し、その後は利益を出すことになり得ます。

買収を実行した部門の売り上げ規模が大きくなる分、その後の予算を達成しやすくなる、という目論見が生まれます。

 

しかし、この中計と予算の観点から計画されるM&Aは、リスクをはらんでもいます。

それは、本当に買収対象会社が1000億円の売り上げを毎年上げられるのかは誰にも分らない、ということです。

買収時に買収費用が外に出ていくのは間違いありません

一方で、その分を回収できるのかは誰にもわからないのです。

 

ここで、M&Aは、コストオーバーランと関係がある場合があるのをご存知でしょうか?

通常、M&Aという投資と、コストオーバーランには何ら関係がないと思われるかもしれません。

しかし、無理なM&Aは、コストオーバーランを誘発する要素となり得るのです。

このような興味深い事例が東芝の公表した第三者委員会の結果報告書に存在します。

 

東芝は、2011年にスイスのスマートメーターメーカーであるランディスギアという会社を約2000億円で買収しました。

これにより東芝は「スマートメーター用の通信システム事業の受注を見込んで買収したランディスギアとのシナジーの実現や、エネルギーと通信を融合した新ビジネスモデルの創出・ビジネス領域の拡大」を期待しました。

そこで東芝は、東京電力のスマートメーター(約2,700万台)用の通信システムの開発、スマートメーターの機器製造、設置及び保守を、契約金額319億円で受注しました。

しかし、実はこの案件の受注において当初東芝が必要となると考えていた費用は、457億円でした。

つまり、457億円-319億円=約140億円の赤字になることを覚悟で受注したのです。

第三者委員会の報告書によれば、そのような無理をしたのは、2000億円で買収したランディスギアとのシナジーを出すためでした。

 

しかし、この案件は東芝にとって「経験のない案件」でした。

そのため、そもそもコストオーバーランになりやすい案件であったのです。

当初の457億円という見積もりの精度すらも疑わしいものでした。

事実、最終的には576億円の費用が必要となりました。

つまり、この案件で東芝は576億円-319億円=約250億円のコストオーバーランに陥ったのです。

「赤字になってもいいからまずは受注をして、その後の案件に繋げよう」という作戦に出たのですが、予想以上の損失を被ることになり、結局東芝は保有していたランディスギアの株式全てを手放すことになりました。

 

これは、「予算・中計を達成させるために安易に規模を大きくしようとしてしまい、M&Aに走ると、その後あせって受注し、その結果コストオーバーランに陥り、最後は事業から撤退することになり得る」という示唆を与えてくれる案件と言えるでしょう。

 

 - コストオーバーランへの組織的な対策