中計・予算の弊害④~戦略という名のもとの無謀な受注(トップのプレッシャーが従業員に与える影響)~

   

中計や予算の弊害には、次のようなものもあります。

それは、「無理をして受注をしに行くことになる」というものです。

 

例えば、最後までやり切れるか能力的に不安がある案件も、予算を達成するために取りに行かなければならない、というプレッシャーを事業部門は受けることになります。

 

受注しなければ売り上げが立たない。

その結果、年度予算を達成させられない。

その場合、その部門はトップから厳しく叱責されるかもしれない。

それだけではなく、予算達成できなかった罰として、給与や賞与が少なくなるかもしれない。

それを恐れて、やり切れない案件にも無謀にも突っ込んでいくことになるかもしれない。

また、契約金額を下げないと受注できない案件では、赤字になることを覚悟で入札に参加することにもなり得る。

 

これがまさに東芝で起きたことです。

2015年7月21日付で東芝の第三者委員会が公表した不正会計の調査結果報告書を見るとそのことがよくわかります。

東芝では複数の案件で、最初から赤字になることが分かっていたのにも関わらず、利益の出ない契約金額を提示する方法で入札に参加し、受注はできたが、結果的に損失を被っているものがいくつもありました。

以下にその具体例の1つを紹介しましょう。

A案件について

概要

東芝の電力システム機器(水力・火力・原子力等の発電所用機器)を扱う部門(以下、「電力社」)は、2012年1月に、A地方自治体から、あるシステム装置の製造を、納期2016年3月、契約金額71億円で受注した。しかし、結果として、このシステムを完成させるために東芝にて生じた費用は88億円であった。つまり、17億円の損失が生じたことになる。

 

受政会議の経緯

本件は入札案件であった。この案件は、電力社内の「受政会議」で協議された。「受政会議」とは、個別の案件に対して、客先に契約金額としていくらで提示するべきか、その案件にどのようなリスクが存在し、それに対してどのように対応するべきかが検討される会議である。

本件について、この会議は合計3回開催された。その3回の会議の経緯を負っていくと、興味深い内容となっている。

 

まず、第1回目は2011年10月19日に開催された。そこでこの案件を受注しようとしている原子力事業部は、電力社のカンパニー社長(電力社のトップ)に対し、このシステム装置の製造には90億円かかると説明した。ただ、このシステム装置は新規事業であり、これまでこの種の案件を連続して失注していたため、今回こそは受注しようとし、入札価格として80億円を提案した。この提案に対し、電力社のカンパニー社長は、契約金額の見積もりを精査してコストを削減するように原子力事業部に指示した。つまり、原子力事業部は、「製造に90億円かかると見込まれるが、10億円も低い80億円で提案したのに、カンパニー社長からさらなるコストダウンを求められた」ということになる。

 

第2回目の受政会議は、1回目から2日後の2011年10月21日に開催された。ここで原子力事業部は、1回目と同じ金額、つまり、80億円で入札する旨提案をした。この時に具体的にどのような指示をカンパニー社長が行ったのかは調査報告書には記載されていない。ただ、このわずか3日後の2011年10月24日には、第3回目の受政会議が開催されているので、2回目の受政会議の場でも80億円での入札は許されず、再度見積もりを精査するように指示されたと推測される。

 

そしてこの第3回目において、原子力事業部は入札価格として70億円を提案した。1回目との提示金額80億円からわずか5日で10%以上も低い金額が3回目で提示されたことになる。その結果、カンパニー社長はその提案額よりも1億円高い71億円とすることを決定した。そして、71億円で入札し、本案件を受注するに至った。

 

結果

このシステムの製造のために、88億円の費用が必要となった。つまり、第1回目の受政会議において原子力事業部がカンパニー社長に「製造にかかる費用は90億円」という説明がまさにその通りだったことを示している。契約金額は71億円だったので、17億円の損失を被ることとなった。

 

本件は、第1回目の会議の時点で90億円かかるとの説明が原子力事業部からなされています。

それにも関わらず、最終的には約20億円も低い金額である71億円で入札しています。

20%以上のコスト削減がなされないと利益を出せない金額です。

通常であれば、その実現は不可能でしょう。

 

このような一見無謀とも思える決定がなされた理由について、第三者委員会の調査報告書は、「システム装置の製造が新規事業であり、将来における拡販が期待されていたところ、当時東芝は同種案件を連続して失注しており、今後の事業展開のためにA案件は何としてでも受注したいという思いがあった」ことを挙げています。

 

このように、現場の提示する見積もりよりも大幅に低い金額で受注しに行き、その結果コストオーバーランに陥り、そこで生じた損失について不正会計を行うことになった案件が複数存在することが第三者委員会の調査結果から明らかになされおります。

 

これまで参入していなかった市場に攻め入る場合には、もちろん、赤字覚悟で取りに行くというのも戦略としてあり得ます。

ただ、上記の東芝の例で問題なのは、経営トップは、「赤字覚悟」で受注しにいこうとしているのではない点です。

上記の例では、トップは、「そもそもそんなに費用が掛かるわけないだろう?もっと費用削減できるはずだ」という考えで、「もっと頑張れ」と事業部門に強く促しているのです。

これに対して事業部門は、最終的に、赤字になると認識しつつも、トップから繰り返し迫られた結果、「利益を出す形でやり切れます!」と約束することになるのです。

これは、組織として、戦略的に赤字覚悟で受注しに行っているのとは全く異なります。

 

組織として戦略的に赤字覚悟で取りに行っているのならば、「赤字をどこまで許容できるのか?」という検討が行われることになります。その許容範囲内であれば、戦略的といってよいでしょう。

しかし、「損失を出さずにやり切れます」という建前で進めた場合には、「最大損失はどの程度になるか?それは許容できる範囲のものなのか?」という検討が行われないことになります。これは戦略ではありません。無謀な賭けです。

 

そして、このような「本当は赤字になるのに、組織としてそれを把握しない案件」が様々な部署で遂行されたら一体どうなるでしょう?

「ある日、突然、A案件も、B案件も、・・・さらにはZ案件も、全部損失が出ました」

という事態が起こり得るのです。

そのように積み重なった金額は、組織としては「想定外の損失」「許容できない金額の損失」となる可能性もあります。東芝のインフラ部門では合計で500億円以上ものコストオーバーランに陥っていました。もちろん、これは戦略的に許容範囲を設けたことによるものではありませんでした。

 

以上は、中計や予算の達成を強く求められた人たちは、仮にトップが無謀な挑戦を強いる意図がなかったとしても、どのような行動に出るのか、を示した一例といえます。

 - コストオーバーランへの組織的な対策