中計・予算の弊害その①~本業の妨げ~

      2020/08/09

中計とは、「中期経営計画」を省略した言葉です。

特に上場企業の多くは、中計を立てています。

アニュアルレポートには、中計についての説明が詳しく書かれています。

では、なぜ企業は中計を作るのでしょうか?

それは、中計には、メリットがあるからでしょう。

 

人は、何か目標がないとなかなか頑張れません。

つい、「このくらいでいいか」と考えて楽な方に行ってしまうことも多いです。

このことは、従業員という人で構成されている企業にも当てはまります。

そこで、従業員に目標を与え、その目標達成に向けた努力を促す必要があります。

その目標に当たるのが中計です。

 

中計は、その年1年間の目標ではなく、3年~5年という文字通り中期的な目標を立てるものです。

そして、その中計を達成させるために今年度何をどこまでしなければならないのかを具体化したものが年度予算です。

つまり、企業は中期的な目標である中計を立て、それを細切れにした年度予算を立て、それを達成させるために日々邁進していくことになります。

 

しかし、この中計にもデメリットがあります。

それは、中計を達成させることを絶対的なものとした場合です。

この場合、もはや、「目標」や「目安」という生易しいものではありません

絶対に達成しなければならないもの、と捉えると、非常に窮屈なものとなります。

そしてこの中計を達成させるために定められる年度予算もまた同じく厳格なものとなっていきます。

 

2015年3月に東芝の不正会計問題が発覚し、東芝内で使用された「チャレンジ」という言葉を覚えている人もいることでしょう。

これは、例えば次のように使われていました。

「あと100億円の売り上げをあげるように。これは、あなたへのチャレンジです。」

このように言われた者は、とにかく100億円の売り上げを達成させなければならなくなりました。

単に「頑張れ」という意味ではなかったのです。

言われた者は、それ以上の強いプレッシャーを感じるというものでした。

このチャレンジの意味を理解するには、2015年3月当時東芝の経営トップであった田中社長の説明がわかりやすいかもしれません。

 

このころ、田中社長は記者会見で「田中社長も「チャレンジ」という言葉を使っていたのでしょうか?」との質問に対して、堂々とこう答えました。

「私は、チャレンジという言葉は使っていません。私が使っていたのは、「必達目標値」です。」

つまり、東芝では、年度予算はもはや「目標」という生易しいものではなく、「必ず達成させなければならないもの」と位置付けられえるものだったのです。

 

中計からくる年度予算がそのように位置づけられると何が起きるでしょうか。

まず、年度予算を作成する際に各事業部門にかかる負荷が大きくなります。

ただの目安とは異なり、必達目標値と位置付けられ得る数字なので、達成可能な根拠がある数字を予算にしようとします。

しかし、だからといって、簡単に達成できそうなレベルを予算として提案すると、経営トップからは「やる気がない!」と叱責され、もっと予算を上積みするように求められることになります。

 

このような、単に達成可能な数字を提出すればよいわけではなく、かなり無理をしてでもトップが納得いくレベルの数字を毎年作成しなければならないというのは、非常に神経と労力を必要とする作業となります。

場合によっては、本業を差し置いて、予算作成(予算の達成ではない!)に時間を費やす必要も出てきます。

こうなると、中計も予算も、もはや本業の妨げとなります。

そして、かなり無理をして作り上げた中計とそこから割り出された年度予算を達成するためには、無理をして、つまり、実力以上の案件も積極的に受注しに行かなければならない雰囲気が社内に生まれます。

 

ここで、普通の感覚を持った人なら、こう思うかもしれません。

「無理をして受注をすると、後にその案件でコストオーバーランとなり、結果として、受注しないほうがよかったという事態になり得るのだから、そこまで無理をして案件を取ろうとはしないのではないか?」

 

しかし、必ずしもそうはなりません。というのも、受注を控えれば、その時点で予算も中計も達成できないことが確定します。もはや挽回不可能です。しかし、受注できれば、その後の努力次第で、コストオーバーランを引き起こさずに案件を完成させることができるかもしれません

よって、現時点で予算や中計を達成することを確定させるくらいなら、とりあえず受注し、後はプロジェクト遂行部門の頑張りに任せよう。

こういう風に組織として考えるようになることもあり得ます。

特に、予算や中計の達成を絶対視する組織では、このような方向に進みやすくなります。

 

ただ、もちろん、受注時点でその案件を完成させることについて実力不足であった組織が、受注後に急激に実力アップすることなどほとんどないでしょう。

よって、実力不足で受注した場合、通常は、コストオーバーランに陥ると思われます。

 

以上から、中計や予算は、組織に目標を設定し、その構成員らをそこに向けて邁進させる力を持つというメリットがある一方で、無理をして、実力不足でも案件を取りに行くことになり、その結果、コストオーバーランを引き起こす原因ともなり得るという点で、デメリットがあるということができます。

 

中計や予算とは、そういう性格を持っている、ということは組織として理解しておいた方がよいでしょう。

 - コストオーバーランへの組織的な対策