企業買収における成功とは何か?
2023/07/14

企業買収における成功とは何か?
日本の企業が海外の企業を買収し、それが数十億以上の案件になると、多くの場合、その企業はプレスリリースをします。
つまり、自分たちが買収をしたことを世間に知らせるのです。
自社のホームページに買収したことを載せたり、マスコミに買収に関する情報を送ったりするでしょう。
それを受けて新聞社も、その買収案件の規模に応じで、新聞でそれを報じます。
その記事の報じ方は、あたかも、「何かに成功した」かのように思えます。
ここで考えてみたいのは、買収時点で、買収した会社は、「何かに成功したのだろうか?」という点です。
こんなことを言うと、おそらく、「は?何言ってるの?ちゃんと成功したじゃない。企業を買収し終えたんだから、それはまさに企業買収の成功でしょう?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、企業を買収したことそれ自体は、「始まりに過ぎない」のではないでしょうか。
というのも、企業を買収することそれ自体は、目的ではありませんよね。
買収する企業は、通常、自分の事業を拡大したいとか、強みを増したいとか、弱点を補いたいとかいう願望があることでしょう。そして、他の会社を買収することで、それが果たせるんじゃないか?と思うからこそ、大金をはたいて買収をするはずです。
つまり、買収しようと考える企業にとって、企業買収は、「目的」ではなく、「手段」です。
そして、買収後に、自社の事業拡大に向けて、自社の傘下に入った企業をうまく活用して、買収前に立てた事業計画を果たすことができて、初めて買収の「目的」が果たされたことになるはずです。
とすれば、やはり、買収した時点は、「始まりに過ぎない」と言えるのではないでしょうか。「何も終わっていない」、そう考えてもよいくらいだと私は思います。
私は、この点が、企業買収プロジェクトにかかわる方々が認識するべき最重要事項だと思うのです。
つまり、企業買収は、「とにかく買えばいいんだ」「買えば成功なんだ」というものではないということです。
どうして私がこの点を強調したいのか言いますと、企業買収案件において、この点を忘れると、買うべきではない企業を買ってしまうことにつながりかねないからです。
買収手続きでは、その企業を買うことで、本当に自社の事業の発展につながるかどうかを調査します。
その企業はいかなる事業をしているのか
いかなる技術を持っているのか
自社の傘下に組み入れることで、自社の事業にいかなる強みを引き出し、または弱点を補うことにつながるか、シナジーは何か
これらについて、相手方企業からデータや情報の開示を受けて、「本当に買収する必要があるのか」を検討するわけです。
ここで、何をどう間違ったのか、「買収することそれ自体が重要」という認識がプロジェクトメンバー内に生じると、次のような事態が生じ得ます。
「買収することによって得られるメリットの検討が、形式的なものになる。」
本来、買収する必要があるのか否かの検討は、何よりも重要な事項であるはずです。
「買収するメリットがない」とわかれば、その後に続く買収手続きは打ち切りにされるべきですよね。
しかし、この「買収する必要性」の検討が形式的に行われてしまうと、その後買収手続きが完了し、その会社が自社の傘下に組み入れられ、実際に事業を進める段階で、「あれ?買ってみると、自社の強みを増すものでも、弱点を補うものでもないな・・・」ということに気が付く、という事態が生じかねません。
そうなると、「買収したこと自体が丸々無駄だった」ということになりかねません。
「さすがにそんなことあるわけないだろう!」
と思う方もいるかもしれませんが、もしもそうならよいなと私も思います。
しかし、「100億円を超える企業買収116件のうち、たった9件しか成功事例がない」という話を聞くと、成功以外の案件の中には、こういった類の企業買収があってもおかしくないのではないかと感じてしまうのです。
この点、もしかすると、特に大規模な買収案件に関わったことのある人は、こう感じるかもしれません。
「企業買収は本当に高度な専門知識が必要となる難しい案件で、それを完了させたというのは、誰が何と言おうとすごいことなんだ。評価されるべきことなんだ」
企業買収の手続きがそこまで高度な仕事かどうかはわかりませんが、「そう滅多にない案件」「なかなか関われない案件」であることは確かでしょう。
しかし、そのことと、「企業にとっての企業買収の位置づけは何か」の問題は全く関係がありません。
むしろ、企業買収が、社内で「花形のプロジェクトだ」という認識が強い方ほど、上記に示したような、企業買収それ自体を目的と考えてしまう傾向があるのではないかと私は思います。
他の例を出してみたいと思います。
契約金額が莫大な案件があったとします。これは企業買収ではなく、通常の、モノやサービスをみなさんの会社が提供する案件を想定してください。
このとき、もちろん、その案件の契約をとることそれ自体も重要でしょう。
しかし、一番重要なのは、契約を受注した後、その契約の内容を適切に履行することです。
そして、対価をしっかりと得ることです。
契約を履行し、対価を得ることで、初めて会社に利益が生じます。
これが、例えば、自分たちの能力以上の契約を猛烈な値下げで受注できたとしても、それを適切に履行して、利益を出す形で終わらせることが出来なければ、会社は損失を被ってしまいます。
業界にもよるかもしれませんが、利益を度外視することが許されるなら、契約を受注することそれ自体はそう難しくはないでしょう。
利益を出せる形でその案件を終わらせなければならないからこそ、様々な工夫をする必要が生じるのです。
企業買収も同じだと思います。
とにかく買うだけなら、資金があればどこの会社にもできることです。
問題は、買収後にその買った会社を上手に活用して、自社のさらなる発展につなげることができるかです。
規模の大小を問わず、もしも今後初めて企業買収に関わることになる方がこれを読んでくださっている場合には、「そもそもその企業を買収する意味が本当にあるのか?」という点は、十分に検討するように特に心がけていただければと思います。
「M&A、特に企業買収を成功させることの難しさについて」の目次
その①はじめに | その②企業買収における成功とは何か? | その➂企業買収についてのよくある誤解 | その④企業買収手続きの間に引っ込みがつかなくなる場合 |
その⑤企業買収後、うまくいかない場合起きること | その⑥「買収しない方がよい」と感じたときの対応 | その⑦必要のない買収が行われる場合 | その⑧はじめて買収案件のメンバーに選ばれた方へ |