Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~ これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑮~
2020/01/21

これまで、Delay Analysisを理解するための必要となる前提知識について長々と解説してきました。
ここからは、それらを踏まえて、Delay Analysisの手法について解説します。
Delay Analysisとは、訳せば、「遅延分析」とでもなるでしょう。つまり、どれだけ納期に遅れるのか。それはなぜか。これを検討することです。
これは、コントラクターによる納期延長と追加費用のクレームをするために必要となります。
というのも、納期を延長してもらうためには、当然、「何日」納期に遅れが生じることになるのか、をオーナーに示さなければなりません。
そしてそれが、「契約書、または法律に定められている納期延長が認められる事象」によって引き起こされたことを示さなければなりません。これを示すために行われるのが、Delay Analysisです。
ここで、最初にお伝えしておきたいのは、Delay Analysisの手法として、「必ず、このやり方でやらなければならない」という決まったものはない、ということです。
おそらく、このことは、とても意外に感じられる人も少なくないでしょう。私もこのことを知ったときは驚きました。しかし、これは事実です。
いくつも(おそらく、10個以上)の手法があり、それぞれに長短があります。
手元に揃っている情報によっては、やりたくてもできない手法もあります。
また、異様に手間がかかる手法もあり、そんなもの、現実にはまず無理だろう、というものもあります。
よって、どの手法を採用するかは、ケースバイケースといえます。
そして、通常、契約書中で、「Delay Analysisのやり方はこうしなければならない」と定めているものはほとんどありません。
つまり、実際に工事が開始し、遅れが生じて納期遅延LDが問題となったときに、はじめて、「Delay Analysisをどのように行う?」という問題が出ることも珍しくないでしょう。
その結果、コントラクターとしてはこのやり方でよいと考えていたが、オーナーがそれでは不十分だという、ということも当たり前のように起こります。
「そんなんでよいのか?」と思ってしまうような状況ですが、これが事実です。
しかし、それでも、外してはいけない肝、つまり、「基本となる考え方」があります。
全くのデタラメでは、オーナーも、裁判所も、仲裁人も、コントラクターに納期延長を認めるわけがありません。
そこで、ここでは、「Delay Analysisに決まったやり方はない」という点を理解した上で、いくつかの手法を学ぶことを通じて、Delay Analysisの「基本となる考え方」を身につけていただければと思います。そうすれば、いざ、クレームコンサルに相談する際にも、彼らによる説明を理解しやすくなるでしょう。また、オーナーの立場にいる方は、コントラクターが提出してきたクレームの問題点・不備を指摘できるようになるでしょう。
Delay Analysisの実施時期
では、まず、このDelay Analysisは、いつ実施されるべきものなのでしょうか?
まず、多くの人が考えるのが、こうでしょうはないでしょうか?
「工事が終了した時だろう。というのも、工事が実際に完了しなくては、納期が何日当初の計画よりも後ろにズレしたのかが確定しないのだから」
もちろん、これも絶対に間違いとはいえません。しかし、こうすると、ある問題が生じます。それは、コントラクターが「最終的に納期を延長してもらえるのだろう」と考えて工事を進め、そして終わってみたところ、結論としては、「延長は認められない」となると、コントラクターは予想外に納期遅延LDを課されることになる、というものです。
もっと前から、つまり、工事の途中の段階で、「延長は認められません」といわれていれば、工事をもっとはやく終わらせるように挽回するチャンスがあったのに、「延長してもらえる」と思っていたがために、そのような挽回のために工程を工夫するなどをできずに終わる、ということが起こりかねません。
そこで、実務でどうであるかはともかく、少なくとも、Delay Analysisの参考書・専門書の世界では、工事が完了してから初めてDelay Analysisが行われるということは適切ではないと考えられています。
では、いつがよいとされているのか?
それは、「Delayを引き起こす事象が生じたとき」です。
そもそも、契約書では、「納期延長が認められる事象が生じてから○日以内に、コントラクターはオーナーに対して納期延長・追加費用クレームをしなければならない。それを怠れば、クレームする権利を失う」と定めているものが多いということはこれまで何度か説明しました。これを貫けば、クレームするために必要なDelay Analysisも、やはり、納期延長が認められる事象が生じてすぐに行うことが必要になる、ということになります。
しかし、この場合、次のように思う人もいることでしょう。
「遅れを生じさせる事象が発生したときにDelay Analysisを行っても、実際に納期がどれだけ遅れるのかは、工事が終わってみないとわからないじゃないか。仮にDelay Analysisをしてみても、その結果は、単なる予想に過ぎないではないか?」
このご指摘はごもっともです。これに対する答えは、「その通りです」というものです。そして、「予想でよいのです」となります。
つまり、例えばForce Majeureが発生し、ここでDelay Analysisを行い、納期が例えば10日遅れる、と予想されたなら、コントラクターは10日間の納期延長を与えられることになります。
その結果、実際に納期に10日影響が出たのかどうかは、問題ではありません。予想でよいのです。最終的には5日間しか影響が出なかった、という場合でも、納期延長は10日間与えられます。
工事が完了してからではなく、工事の途中で分析する以上、結果との乖離は避けられないからです。
さらに、別の時期にDelay Analysisを行うものとして、「全工程をいくつかに分割し、その分割された期間毎にDelay Analysisを行う」という手法もあります。
これは、遅れを生じさせる事象が発生する度にDelay Analysisを行うのでは、手間がかかるので、ある一定期間(例えば毎月など)が終了したら、その期間内に発生した「遅れを生じさせた事象」を特定し、それが何のせいで生じたのか、を検討する手法です。
上記で紹介したDelay Analysisの実施時期について、下の図で確認してみましょう。
次回以降では、BとCの手法について、もう少し詳しく見ていきます。
【Delay Analysisの解説の目次】
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~ | |
22 | |
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |
【英文契約・EPC契約の勉強をしたい方のための記事】
海外インフラ・プラント建設系事業における英文契約書の頻出用語のまとめはこちら!
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EPC契約の勉強方法とポイントを学びたい方はこちら!
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EPCコントラクターからみたプロジェクトファイナンスについて学びたい方はこちら!
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EPCコントラクターの下請けとして機器供給する契約の注意点を学びたい方はこちら!
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