Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑭~
2020/01/21

EPC案件や建設案件においては、工程や作業の「Delay(遅れ)」といった場合、それが具体的にどのような意味で使われているかに注意が必要です。
というのも、Delayには、実に様々な種類があるからです。
特に、納期延長クレーム(EOTクレーム)をクレームコンサルに相談する場合やEOTクレーム(Extension of Time claim=納期延長クレーム)の参考書を読む際に、そこで使われているDelayの意味を理解できないと、話が通じない、何を言っているのかわからない、そして、勘違いして理解してしまう、ということが起こり得ます。
そこで、ここでは、様々なDelayについて解説します。
まず、Critical Delayについてです。
これは、Critical path上の仕事に生じるDelayです(Critical pathとは何かはこちら!)。
Critical Delayが発生すれば、通常、納期に遅れます。
一方、Delayは生じたが、それがCritical path上の仕事に生じたDelayではない場合、それはNon-Critical Delayと呼ばれます。このDelayは納期に遅れを生じさせません。
次に、Excusable Delayです。
Excusableとは、「許される」という意味です。となると、Excusable Delayは「許されるDelay」となります。何が許されるというのか?
それは、「納期に遅れたとしても、コントラクターがオーナーに対して納期遅延LDを支払わなくてよいDelay」という意味です。
つまり、「納期延長が認められるDelay」ということになります。では、これは具体的には、どのようなDelayかというと、基本的には、契約書に、「このDelayの場合には、納期が延長される」と定められているものです。
例えば、Force Majeure、法令変更、そして、サイトに遺跡が発見された場合などです。
また、オーナーの義務違反によって生じるDelayの場合には、それは法律上の債務不履行として、オーナーが責任を負うべきなので、契約で合意した納期に遅れても、コントラクターは納期遅延LDの責任を負わなくてよいことになります(仮に、契約書に、「オーナーの義務違反の場合には納期が延長される」と定められていなくてもです)。これもExcusable Delayに含まれると考えてよいです。
こうしてみると、結局、Excusable Delayとは、「コントラクターに原因がないDelay」といってもよいでしょう。通常は、コントラクターに原因がないDelayの場合には、納期延長が認められるように契約上手当てされているからです。
一方、Non-Excusable Delayとは、「納期に遅れた場合に、コントラクターが納期遅延LDの支払を免れることはできないDelay」という意味です。納期延長クレームが認められないDelayです。簡単にいえば、「コントラクターのせいで生じたDelay」といってもよいでしょう。
ここで、少し混乱を招くのが、Employer Delayです。
このEmployerとは、Ownerと同じ意味です。となると、「オーナーの原因で生じたDelay」という意味か?とも思えます。もちろん、そのような意味で使われることもあるのですが、EOTの参考書などでは、Employer Delayとは、Excusable Delayと同義のものとして使われていることがあります。つまり、「オーナーがリスクを負うべきDelay」という意味でEmployer Delayという言葉が使われることがあるのです。これは、Employer DelayのEmployerが、「Delayを生じさせた者」という意味ではなく、「Delayの結果についての不利益を甘んじて受けなければならない者」という意味なのです。
だから、Force Majeureや法令変更によって生じたDelayも、「Force Majeureや法令変更の場合には納期が延長される」と契約書に明記されている場合には、それは、Employer Delayとなります。
Employer Delayといわれたり、何かに書いてあったりしたときに、必ずしも「オーナーが引き起こしたDelay」を意味しているわけではないかもしれない、という点に注意が必要です。
では、Contractor Delayはどうかというと、これも、Employer Delayと同様に、「コントラクターが責任を負うDelay」であることが多いです。ただ、これは、「コントラクターが原因であるDelay」と理解しても、さほど混乱は生じません。というのも、「納期延長できる場合」が契約書に適切に網羅して定められている契約においては、「コントラクターが責任を負う」=「納期遅延LDを支払わなければならなくなる遅れ」とは、「コントラクターに原因がある場合」となっているはずだからです。
Employer Delayの場合には、必ずしもEmployer(Owner)が遅れの原因になっているとは限りませんが、Contractor Delayの場合には、基本的には、Contractorが原因の遅れとなっているはずです(繰り返しますが、適切な契約書になっているならばです)。
さらに、Compensable Delayというものがあります。Compensableとは、「賠償されえる」という意味です。つまり、Delayによってコントラクターに生じた追加費用をオーナーが負担することになるDelayという意味です。
Excusable Delay(納期延長が認められるDelay)の場合には、Compensable Delayであることが多いですが、Force Majeureの場合には、通常、納期延長は認められても、追加費用はコントラクターが負担することになります。よって、全てのExcusable DelayがCompensable Delayであるとは限りません。
そして、追加費用をオーナーに負担してもらえないDelayは、Non-Compensable Delayと呼びます。これは、上記に述べたとおり、通常は、Force Majeureによって生じたDelayであることが多いでしょう(もっとも、同時遅延(Concurrent Delay)の場合にも、納期延長は認められても、追加費用は認められない、となることが多いです)。
以上、様々なDelayを紹介しましたが、以下に図を示した上でまとめます。
まずは、納期に影響を与えるDelayがCritical Delayであること。
そして、そのCritical Delayの中にExcusable Delayがあること。
そしてこのExcusable Delayは、コントラクターが納期延長を得られるDelayであり、その中で追加費用ももらえるものがCompensable Delayであること。
上記をまず抑えましょう。
その上で、Employer Delayは、「Employer=オーナーが原因の遅れ」ではなく、「オーナーが遅れについてリスクを負うDelay」=Excusable Delayであることに注意しましょう。
といっても、もしかすると、上記の言葉を使う人・参考書によって、若干の違いがあることもあるので、上記を念頭に置いた上で、コンサルとの協議や参考書を読む際には、都度気を付けるようにしたほうが無難です(参考書の場合には、定義が記載されていることが多いので、それを確認しながら読み進めましょう)。
【Delay Analysisの解説の目次】
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~ | |
22 | |
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。
原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。
EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 | 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 | 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。 |
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |