同時遅延(Concurrent Delay)の扱いその①納期延長について~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑦~

      2022/05/23

「コントラクターに原因がある事象」と「コントラクターに原因がない事象」が同時に発生し、そのことによって仕事が妨げられ、結果的に納期に遅れる場合もあるでしょう。このような場合、コントラクターは納期遅延の責任を免れることができるのでしょうか。

 

この点、「コントラクターに原因がある事象」が起きている限り、その遅れはコントラクターが責任を負うべきである、という考え方もあるでしょう。自分が悪かったのに、たまたま他の事象が起きたからと言って責任を逃れさせるわけにはいかない、というものです。

 

一方、同時に「コントラクターに原因がない事象」によって工程が妨げられている場合には、どちらにしてもコントラクターは納期に間に合わなかったのだから、そのような場合にコントラクターに遅れの責任を負わせるのは酷である、という考えも成り立ちます。

 

同時遅延の問題は、上記のどちらが妥当なのか、という問題です。

 

実は、この同時遅延が起きた場合の扱いは決まっていません。

 

世界では、コントラクターが責任を負うべきという判断も、オーナーが責任を負うべきという判断も、さらには、両者を合わせたような折衷的な判断も下されています。

 

そのため、同時遅延が生じていた場合に、その扱いについてどの判断が裁判や仲裁で採用されるのかはわかりませんが、単に「コントラクターに原因がある事象とコントラクターに原因がない事象が同時に生じているからといって、そのことが直ちにコントラクターが納期延長をクレームできなくなるわけではない」という点は理解しておくべきです。

 

マルメゾンアプローチ

実際、このような同時遅延が問題になった海外の裁判で、Dyson裁判官によって、以下のような判断がくだされました。ここで採用された同時遅延についての考え方は、Malmaison approach(マルメゾンアプローチ)と呼ばれています。

 

以下に判断部分を引用します。

 

“It is agreed that if there are two concurrent causes of delay, one of which is a relevant event and the other is not, then the contractor is entitled to an extension of time for the period of delay caused by the relevant event, notwithstanding the concurrent effect of the other event.

Thus to take a simple example, if no work is possible on site for a week, not only because of exceptionally inclement weather (a relevant event), but also because the contractor has a shortage of labour (not a relevant event), and if the failure to work during that week is likely to delay the works beyond the completion date by one week, then if he considers it fair and reasonable to do so, the architect is required to grant an extension of time of one week.”

 

以下に意訳を記載します。

「2つの遅れが同時に生じた場合、つまり、1つは納期延長が認められる事象(a relevant event)、もう1つはそれが認められない事象(not a relevant event)が生じた場合、コントラクターは、not a relevant eventによって同時に遅れが生じたにも関わらず、納期延長が認められる原因によって引き起こされた遅延について納期延長を請求することができる

簡単な例を挙げてみよう。著しい悪天候(納期延長可能な事象)の理由だけでなく、コントラクターの労働力不足のために、1週間サイトで仕事を遂行することができなくなり、その結果、契約上の納期を1週間超えると思われる場合には、architectは、それが公平で合理的なものと考えるならば、1週間の納期延長をコントラクターに与えなければならない。」

 

つまり、Force Majeureに該当する事象によって納期に遅れた場合には、契約に従った手続きを遂行すれば、コントラクターは納期延長を得られるのが通常ですが、このとき、同時にコントラクターの原因で遅れが生じていたとしても、コントラクターはForce Majeureによって納期に遅れが生じた期間分だけ(コントラクターも遅れていたのだからといって延長期間が減殺されることはなく)、納期延長を得られる、という判断です。

 

この点、コントラクター自身に原因がある場合には、オーナーに対してそれでも納期延長を求めるというのは、強く主張しにくい面もあるでしょうが、そのような同時遅延の扱いは世界的にも固まっていないのですから、それどころか、the Malmaison approachのような判断もあるのですから、コントラクターとしては、簡単にあきらめずにオーナーと戦うことをお勧めします。

 

コントラクターとして削除すべき条文

ここで一点注意したいのが、以下のような条文がEPC契約の案に定められている場合です。

 

<同時遅延>

No adjustment of the Deadline shall be permitted if the Contractor’s performance which is affected by the delay due to an incident giving rise to an adjustment of the Deadline has been simultaneously delayed or interrupted by any other circumstances caused by the Contractor.

 

納期延長が与えられるべき事象による遅延によって影響を受けたコントラクターの履行が、それと同時にコントラクターによって引き起こされた他の事象によって遅延または妨害された場合には、納期延長は与えられない

performance 履行 affect ~に影響する delay 遅延 due to ~に原因がある incident 事象 give rise to ~という効果を与える adjustment 調整

simultaneously 同時に interrupt ~を妨害する circumstances 事情 cause ~を引き起こす

 

これは、コントラクターに原因がある事象(納期延長が認められない事象-not a relevant event-)とコントラクターに原因がない事象(納期延長が認められる事象-a relevant event-)が同時に生じた場合には、コントラクターがその遅れについて責任を負うことを定めた条文です。つまり、同時遅延の場合には、コントラクターは納期延長をもらえないと定めているのです。

 

当事者間でこのような合意をすると、コントラクターが納期延長をクレームできないことが確定してします。コントラクターとしては、少なくとも、このような条文は削除するべきです。

 

同時遅延の扱いについての事前合意

この点、事前に当事者間で同時遅延の扱いについて合意しておけばよい、とも思えます。

 

確かに、裁判や仲裁で争った場合にどのような結論になるのか不明なまま契約を締結するよりも、無難です。ただ、実際にこの点について事前に合意している例はそう多くはないように思われます。

 

他にもEPC契約上協議すべき事項はたくさんあり、その中で特にこの同時遅延が優先順位としてどこまで上位に入れるべきかについては、過去に自社が同時遅延でオーナーともめたケースがどれだけあるのか、クレームの際にどれだけ苦労したか、という点を踏まえて決めればよいのではないでしょうか。

 

同時遅延とクリティカルパスの関係

なお、同時遅延は、あくまで2つ以上の遅れがクリティカルパス上の工程に生じている場合をいうのであって、仮に時期的に同時であっても、クリティカルパス上にない工程に遅れが生じているにすぎない場合には、それは同時遅延ではありません。

 

納期遅延が生じ、さんざん同時遅延の扱いについてオーナーともめた後に、「2つの遅れはそもそも同時遅延ではなかった」という結論では時間と費用の浪費です。遅れがクリティカルパス上のものか否かは協議に入る前に、よく確認しておきましょう。

EPC契約のポイント(『英文EPC契約の実務』で解説している事項の一部です)

 

スコープオブワーク

 

EPC契約の契約金額の定め方と追加費用の扱い

 

コストプラスフィーの注意点

 

ボンドについて

 

前払金返還保証ボンド

 

履行保証ボンド

 

契約不適合責任ボンド

 

リテンションボンド

 

仕様変更

 

プラントの検収条件と効果

 

納期遅延①

納期遅延②

納期遅延③

納期遅延④

納期遅延LDの決め方(発電所建設の一例)

 

Time is of the Essenceとは?

 

性能未達LD

 

EPC契約における保険

 

責任制限①

責任制限②

 

対価をとりっぱぐれるリスクへの対処法

 

プロジェクトファイナンス

 

コンソーシアム契約

 

Delay Analysis関係

必要な立証の程度(balance of probabilities)

 

フロート

 

同時遅延

 

英文契約の基本的な表現

Shall

 

~に定められている

 

「~に定められている」の補足

 

Notwithstanding

 

~を除いて、~でない限り

 

~に従って

 

~に関する

 

~の場合

 

Whereについて

 

~の範囲で

 

例示列挙の方法

 

事前の文書による同意と承認

 

契約締結日と発効日

 

LDとpenaltyの違い

 

Gross negligenceと結果の重大性

 

間接損害(indirect damage)と逸失利益(loss of profit)の違い

 

知らせる

 

Liquidated damages

 

Otherwise

 

~を被る

 

~を履行する

 

累積責任

 

~を補償する、免責する

 

Indemnifyとbe liableの違い

 

~を保証する(guarantee)

 

遅延利息

 

Warranty

 

排他的な

 

to one’s knowledge/to the knowledge of

 

Material adverse effect

 

Covenants

 

Representations and warranties

 

Notwithstandingと責任制限条項

 

Indemnifyとdefend

 

取締役・取締役会関係の単語

 

株主総会関係の単語

 

添付資料

 

連帯責任

 

下記の、上記の

 

一般条項(Notice)

 

一般条項(Term)

仕事関係

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Subject toとポツダム宣言の受諾

どうして議論がまとまらないのか?

 

歴史の本の紹介

 - EPC契約のポイント