同時遅延(Concurrent Delay)の扱いその①納期延長について~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑦~

      2020/01/21

「コントラクターに原因がある事象」と「コントラクターに原因がない事象」が同時に発生し、そのことによって仕事が妨げられ、結果的に納期に遅れる場合もあるでしょう。このような場合、コントラクターは納期遅延の責任を免れることができるのでしょうか。

 

この点、「コントラクターに原因がある事象」が起きている限り、その遅れはコントラクターが責任を負うべきである、という考え方もあるでしょう。自分が悪かったのに、たまたま他の事象が起きたからと言って責任を逃れさせるわけにはいかない、というものです。

 

一方、同時に「コントラクターに原因がない事象」によって工程が妨げられている場合には、どちらにしてもコントラクターは納期に間に合わなかったのだから、そのような場合にコントラクターに遅れの責任を負わせるのは酷である、という考えも成り立ちます。

 

同時遅延の問題は、上記のどちらが妥当なのか、という問題です。

 

実は、この同時遅延が起きた場合の扱いは決まっていません。

 

世界では、コントラクターが責任を負うべきという判断も、オーナーが責任を負うべきという判断も、さらには、両者を合わせたような折衷的な判断も下されています。

 

そのため、同時遅延が生じていた場合に、その扱いについてどの判断が裁判や仲裁で採用されるのかはわかりませんが、単に「コントラクターに原因がある事象とコントラクターに原因がない事象が同時に生じているからといって、そのことが直ちにコントラクターが納期延長をクレームできなくなるわけではない」という点は理解しておくべきです。

 

マルメゾンアプローチ

実際、このような同時遅延が問題になった海外の裁判で、Dyson裁判官によって、以下のような判断がくだされました。ここで採用された同時遅延についての考え方は、Malmaison approach(マルメゾンアプローチ)と呼ばれています。

 

以下に判断部分を引用します。

 

“It is agreed that if there are two concurrent causes of delay, one of which is a relevant event and the other is not, then the contractor is entitled to an extension of time for the period of delay caused by the relevant event, notwithstanding the concurrent effect of the other event.

Thus to take a simple example, if no work is possible on site for a week, not only because of exceptionally inclement weather (a relevant event), but also because the contractor has a shortage of labour (not a relevant event), and if the failure to work during that week is likely to delay the works beyond the completion date by one week, then if he considers it fair and reasonable to do so, the architect is required to grant an extension of time of one week.”

 

以下に意訳を記載します。

「2つの遅れが同時に生じた場合、つまり、1つは納期延長が認められる事象(a relevant event)、もう1つはそれが認められない事象(not a relevant event)が生じた場合、コントラクターは、not a relevant eventによって同時に遅れが生じたにも関わらず、納期延長が認められる原因によって引き起こされた遅延について納期延長を請求することができる

簡単な例を挙げてみよう。著しい悪天候(納期延長可能な事象)の理由だけでなく、コントラクターの労働力不足のために、1週間サイトで仕事を遂行することができなくなり、その結果、契約上の納期を1週間超えると思われる場合には、architectは、それが公平で合理的なものと考えるならば、1週間の納期延長をコントラクターに与えなければならない。」

 

つまり、Force Majeureに該当する事象によって納期に遅れた場合には、契約に従った手続きを遂行すれば、コントラクターは納期延長を得られるのが通常ですが、このとき、同時にコントラクターの原因で遅れが生じていたとしても、コントラクターはForce Majeureによって納期に遅れが生じた期間分だけ(コントラクターも遅れていたのだからといって延長期間が減殺されることはなく)、納期延長を得られる、という判断です。

 

この点、コントラクター自身に原因がある場合には、オーナーに対してそれでも納期延長を求めるというのは、強く主張しにくい面もあるでしょうが、そのような同時遅延の扱いは世界的にも固まっていないのですから、それどころか、the Malmaison approachのような判断もあるのですから、コントラクターとしては、簡単にあきらめずにオーナーと戦うことをお勧めします。

 

コントラクターとして削除すべき条文

ここで一点注意したいのが、以下のような条文がEPC契約の案に定められている場合です。

 

<同時遅延>

No adjustment of the Deadline shall be permitted if the Contractor’s performance which is affected by the delay due to an incident giving rise to an adjustment of the Deadline has been simultaneously delayed or interrupted by any other circumstances caused by the Contractor.

 

納期延長が与えられるべき事象による遅延によって影響を受けたコントラクターの履行が、それと同時にコントラクターによって引き起こされた他の事象によって遅延または妨害された場合には、納期延長は与えられない

performance 履行 affect ~に影響する delay 遅延 due to ~に原因がある incident 事象 give rise to ~という効果を与える adjustment 調整

simultaneously 同時に interrupt ~を妨害する circumstances 事情 cause ~を引き起こす

 

これは、コントラクターに原因がある事象(納期延長が認められない事象-not a relevant event-)とコントラクターに原因がない事象(納期延長が認められる事象-a relevant event-)が同時に生じた場合には、コントラクターがその遅れについて責任を負うことを定めた条文です。つまり、同時遅延の場合には、コントラクターは納期延長をもらえないと定めているのです。

 

当事者間でこのような合意をすると、コントラクターが納期延長をクレームできないことが確定してします。コントラクターとしては、少なくとも、このような条文は削除するべきです。

 

同時遅延の扱いについての事前合意

この点、事前に当事者間で同時遅延の扱いについて合意しておけばよい、とも思えます。

 

確かに、裁判や仲裁で争った場合にどのような結論になるのか不明なまま契約を締結するよりも、無難です。ただ、実際にこの点について事前に合意している例はそう多くはないように思われます。

 

他にもEPC契約上協議すべき事項はたくさんあり、その中で特にこの同時遅延が優先順位としてどこまで上位に入れるべきかについては、過去に自社が同時遅延でオーナーともめたケースがどれだけあるのか、クレームの際にどれだけ苦労したか、という点を踏まえて決めればよいのではないでしょうか。

 

同時遅延とクリティカルパスの関係

なお、同時遅延は、あくまで2つ以上の遅れがクリティカルパス上の工程に生じている場合をいうのであって、仮に時期的に同時であっても、クリティカルパス上にない工程に遅れが生じているにすぎない場合には、それは同時遅延ではありません。

 

納期遅延が生じ、さんざん同時遅延の扱いについてオーナーともめた後に、「2つの遅れはそもそも同時遅延ではなかった」という結論では時間と費用の浪費です。遅れがクリティカルパス上のものか否かは協議に入る前に、よく確認しておきましょう。

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~
22

必要な立証の程度~balance of probabilities~

 - Delay Analysisの基礎知識