フロートは誰のものか?その①~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識⑤~

      2020/01/26

フロートとは何かについて理解できたところで(こちらを参照ください)、フロートは誰に帰属するのか?という点を考えてみましょう。

 

上記の工程表の中で、S2の工程上の仕事dがオーナーのせいで1ヶ月遅れたとします。すると、以下のようになります。

つまり、まだ納期は3ヶ月目のままです。ここで、コントラクターのせいで1日だけ仕事dが遅れたとします。すると、どうなるでしょうか?以下のように、最初の納期よりも1日だけ完成が遅れることになりますよね。

この場合、コントラクターが遅れたことで納期に1日遅れた状態になるので、この1日分だけ、コントラクターは納期遅延のLD(liquidated damages)をオーナーに支払わなければならないことになる、といったら、どう思いますか?

「え?どうして?もともとは1カ月間の余裕があったのに、オーナーの遅れのせいでその余裕が全て食い尽くされたんでしょ?コントラクターはその後1日しか遅れていないのに、どうしてコントラクターが納期遅延LDを支払わなければならなくなるの?」

こう思う人もいると思います。これが正に、「フロートは誰のものか?」という問題です。

フロートを使えるのはコントラクターだけではない」という考え方を採用した場合には、最初にオーナーのせいで生じた遅れによって全てのフロートが消費されてしまうのです。そして、その後にコントラクターが1日でも遅れた場合には、「予定よりも遅れた日数」で見れば、オーナー:コントラクター=1ヶ月:1日となり、コントラクターの罪の方が軽いのに、結局責任を負うのはコントラクターということになるのです。

 

ここで、「フロートを使えるのはコントラクターだけ」という考え方を採用した場合には、全く別の結論が導かれます。最初にオーナーのせいで1ヶ月仕事dが遅れたとします。しかし、この場合にはフロートは消費されません(以下の工程表を参照)。つまり、コントラクターは、1カ月間という時間内であれば、遅れても納期遅延LDをオーナーに支払う責任を負わなくてよい、ということになります。コントラクターは、「納期遅延LDの責任を負うのは、自分の原因でフロートを使い果たした場合だけ」ということになります。

これは、「コントラクターのせいでない理由で遅れが生じた場合」には、コントラクターはフロート分だけ納期延長クレーム(EOTクレーム)をすることができる、とも言えます。

 

このように、「フロートは誰のものか?誰に帰属するのか?」は、コントラクターが遅れたときに納期遅延LDを支払う責任の有無と程度に大きな影響を及ぼす問題です。しかし、これほど重要な問題であるにも関わらず、通常、契約書にはこのフロートの帰属について明記されていません。その結果、実際にコントラクターのせいでない遅れが生じた場合に、フロートの帰属が問題となるのです。

 

では、契約書にフロートの帰属について定められていない場合、どのような扱いがなされるのが一般的なのでしょうか?それは次の記事で解説したいと思います。

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~
22

必要な立証の程度~balance of probabilities~

 - Delay Analysisの基礎知識