クリティカルパスその②~これからプロジェクトマネージャーになる人のためのDelay Analysisの基礎知識③~クリティカルパスは工事期間中にダイナミックに変化する!
2020/01/26

「クリティカルパスその①」の記事で、クリティカルパスとは如何なるものかは何となく理解して頂けたと思います。
ここで、特に認識していただきたいことがあります。それは、「クリティカルパスは、常に同じではない」、ということです。以下に例を示して解説します。
以下の工程表では、クリティカルパスは、S1の工程です。S2の工程上の仕事も、S3の工程上の仕事も、多少遅れが生じても、納期には影響がでませんが、S1の工程上の作業は1日でも遅れたら、納期が遅れるからです。
ここで、工事開始後1カ月経過したときに、例えばForce Majeure(不可抗力)が原因で、S2の工程上の仕事bと仕事dが大幅に遅れたとします。その結果、納期が延長されたとします。そして、全体の工程が以下の図のように変化したとします。
すると、どうでしょう?新たな納期が設定されることで、S2の工程がクリティカルパスに変化しました。S1は、新たな納期に間に合うようにするには、いくらか遅らせることができることになったのです。一方で、S2はここから1日でも遅れたら、新たな納期に間に合わなくなります。
この場合、クリティカルパスは、契約締結から1ヶ月経過時点まではS1だったのですが、S2の工程上にある仕事bと仕事dがForce Majeureで遅れたことで納期が延長され、その結果、S2が新たにクリティカルパスになったというわけです。よって、これより後は、S1やS3の工程上の仕事が多少遅れても、コントラクターは納期延長クレーム(EOTクレーム)をすることができない(する必要がない)という状態になります。
このように、クリティカルパスが工事期間中に変化することを、dynamic(ダイナミック)と表現することがあります。ダイナミックというと、例えば、「ダイナミックに変化する」という感じで日本語では使われます。これは、「劇的に変化する」といった意味でしょうが、実は、もともと英語のdynamicには、「変化する」とか「動的な」という意味があるのです。よって、「クリティカルパスはダイナミックなものだ」というときは、「クリティカルパスは、工事期間中一定ではなく、刻刻変化し得る(契約締結時にクリティカルパスと見えたものが、その後クリティカルパスでなくなることがある。)」という意味です。
ちなみに、dynamicの反対の意味を持つ言葉は、static(静的な)です。この際、合わせて覚えておきましょう。
【私が勉強した原書(英語)の解説書】
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EPC/建設契約の解説書 | EPC/建設契約の解説書 | 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方 |
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納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 | 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 | 英国におけるDelay Analysisに関する指針 |
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 | 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 | 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。 |
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol
2nd edition February 2017 |
【Delay Analysisの解説の目次】
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~ | |
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