これからEPC案件のプロジェクトマネージャーになる人のための Delay Analysisの基礎知識

      2020/01/26

 

EPC契約や建設契約には、納期があります。納期とは、「仕事を完成させなければならない期限」です。

 

コントラクターがこの納期までに仕事を完成させられない場合には、何が起こるでしょうか?

 

答えは、コントラクターが、オーナーに対して、損害賠償をすることになります。コントラクターが契約に違反したことになるからです。

 

この「納期に遅れた場合の損害賠償」としては、通常、「予定された損害賠償額」が契約に定められています。いわゆるLD(liquidated damages)と呼ばれるものです(LDについての詳しい解説はこちら!)。

 

とはいえ、納期に遅れたのが、「コントラクターに原因がない事象」による場合にはどうでしょうか?通常は、そのような場合には、コントラクターは遅れについての責任は問われないように契約上手当てされているはずです。具体的には、そのような場合には、納期が延長される(extension of time)旨が定められています。つまり、新たな納期が設定され、その新たな納期までに仕事を完成させれば、コントラクターは責任を問われないことになるのです。

 

ここで重要となるのが、「納期は何日延長されるのか?」という点です。これは、遅れを生じさせる原因となる事象(例えば、Force Majeureなど)によって、工事の工程が妨げられた日数分だけ延長されるのが妥当だと考えられています。つまり、10日工程が妨げられたなら、10日だけ納期が延長される、ということです。

 

この「何日工程が妨げられたのか?遅らせられたのか?」を検討することを、欧米では、「Delay Analysis」と呼びます。日本語にすると、「遅延分析」とでもなるでしょうか。

 

コントラクターがこのDelay Analysisを適切に行った上で、オーナーに対して、「○日納期を延長してください」と書面で申し出る必要があります。これはいわゆるクレーム(claim)と呼ばれています。正確には、納期の延長を請求する、ということで、Extension of Time Claim(EOTクレーム)と呼びます。

 

このDelay Analysisを行う手法には、簡単なものから複雑なものまで幅広くあります。どの手法を用いてDelay Analysisを行わないといけないかは、通常、契約書には記載されていません。判例でも固まった見解はありません。

しかし、例えば、「契約締結時に作成された工程表」と、「最終的に工事が完成したときの工程表(実際の工事の進捗過程を記録した工程表)」を比較する、つまり、「契約締結時に作成された工程表上の納期」と「最終的に工事が完成したときの工程表上の納期」を比較して、この2つの差を納期延長日数とする、ということはまず許されないことはすぐにわかりますよね?

 

なぜなら、このような比較では、「コントラクターのせいでない事象で何日工事が遅れたのかが全くわからないから」です。上記の様な単純な比較では、コントラクターのせいで生じた遅れの分も、最終的な納期の差の中に含まれることになってしまいます。また、このような単純な比較では、「コントラクターのせいではない事象が具体的にどの程度工程に影響を与えたのか」もわかりません。

 

そこで、今後、このDelay Analysisについて、英国で妥当と考えられているいくつかの手法について、以下のような項目に触れながら、随時解説を掲載していきたいと思いますので、お楽しみに!

 

・DelayとDisruptionの違い

・mitigationとaccelerationの違い

・critical pathとは?

・floatとは?

・同時遅延とは?

・Delay Analysisのいくつかの手法

・Prolongation Cost(納期延長に伴う追加費用)の請求

・Disruption Costの請求

・本社経費と逸失利益の請求

【私が勉強した原書(英語)の解説書】

残念ながら、EPC/建設契約についての日本語のよい解説書は出版されておりません。本当に勉強しようと思ったら、原書に頼るしかないのが現状です。

原書で勉強するのは大変だと思われるかもしれませんが、契約に関する知識だけでなく、英語の勉強にもなりますし、また、留学しなくても、英米法系の契約の考え方も自然と身につくという利点がありますので、取り組んでみる価値はあると思います。

EPC/建設契約の解説書 EPC/建設契約の解説書 納期延長・追加費用などのクレームレターの書き方
法学部出身ではない人に向けて、なるべく難解な単語を使わずに解説しようとしている本で、わかりやすいです。原書を初めて読む人はこの本からなら入りやすいと思います。 比較的高度な内容です。契約の専門家向けだと思います。使われている英単語も、左のものより難解なものが多いです。しかし、その分、内容は左の本よりも充実しています。左の本を読みこなした後で取り組んでみてはいかがでしょうか。 具体例(オーナーが仕様変更を求めるケース)を用いて、どのようにレターを書くべきか、どのような点に注意するべきかを学ぶことができます。実際にクレームレターを書くようになる前に、一度目を通しておくと、実務に入りやすくなると思います。
納期延長・追加費用のクレームを行うためのDelay Analysisについて解説書 海外(主に米国と英国)の建設契約に関する紛争案件における裁判例の解説書 英国におけるDelay Analysisに関する指針
クリティカル・パス、フロート、同時遅延の扱いに加え、複数のDelay Analysisの手法について例を用いて解説しています。 実例が200件掲載されています。実務でどのような判断が下されているのかがわかるので、勉強になります。 法律ではありません。英国で指針とされているものの解説です。この指針の内容は、様々な解説書で引用されていますので、一定の影響力をこの業界に及ぼしていると思われます。
Society of Construction Law Delay and Disruption Protocol

2nd edition February 2017

【Delay Analysisの解説の目次】

DelayとDisruptionの違い 納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その③ 本社経費と逸失利益における因果関係と金額の立証方法
クリティカル・パス その① 納期延長クレームと追加費用クレームの関係
クリティカル・パス その② mitigationとacceleration

補足~constructive acceleration

フロートとは何か? Delay(遅れ)の種類(様々なDelay)
フロートは誰のものか? Delay Analysisの手法①~はじめに+Delay Analysisを行う時期~
フロートは誰のものか?契約書に記載がない場合 Delay Analysisの手法②~As planned impact method~
同時遅延の扱い その① 納期延長について Delay Analysisの手法③~Time Impact method~
同時遅延の扱い その② 追加費用について Delay Analysisの手法④~補足 工程表(プログラム)は契約書の一部なのか?~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その① Delay Analysisの手法⑤~Windows method~
納期延長に伴って生じる費用(prolongation cost)について その② 本社経費と逸失利益 Delay Analysisの手法⑥~as planned impact/Time Impact/Windowsの比較
21 Delay Analysisの手法⑦~EPC契約における工事の進捗状況のデータの取得・保管義務の定め~
22

必要な立証の程度~balance of probabilities~

 - Delay Analysisの基礎知識